DOJIN NEWS
 トップページ > 24th フォーラム・イン・ドージン開催後記
おしらせ

24th フォーラム・イン・ドージン開催後記
「生体硫化水素(bio H2S)-原始環境が用意したシグナル分子」

 硫化水素は毒ガスとして知られ、世間の受けはあまりよくない。ところが最近、体の中でもごく少量作られていることが分かってきた。しかも細胞保護効果や抗酸化能といった、毒とは正反対の作用があるらしい。その生理的な作用に焦点をあて、今年のフォーラム・イン・ドージンが 11 月 15 日に熊本市で開催された。 酸素がない太古の還元的な環境では、硫化水素は生命活動を支えるエネルギー分子として重要な役割を担っていたと思われる。副題の「原始環境が用意したシグナル分子」には、そのような思いが込められている。現在の酸化的な環境において、還元的な硫化水素分子は様々な分子形態をとりうるため捉えるのが難しいが、そのことが逆に広い酸化還元状態に適応して、この分子が太古から用いられてきた理由ではないか、そして今、その役割が少しずつ解明されようとしている。テーマの特殊性から、当初、参加者が少ないのではないかと心配されたが、実際には県外からの参加者も多く、この分野への関心の高さが実感された。


 硫化水素は不安定で、細胞内では酸化されてポリサルファイドとなり、さらにこれらが内因性のチオールと反応し、パーサルファイドを形成する。また、これらの分子は容易にシグナル分子である一酸化窒素や過酸化水素とも反応し、それぞれニトロソチオールやスルフェン誘導体を与える。さらには、鉄-硫黄クラスターのような重要な働きをもつ別の硫黄源との相互作用も考えられる。それぞれの分子や経路が複雑に絡み合い、分子ネットワークを形づくっているように思われる。まだ「群盲象を撫でる」の感はあるが、この分野に光を当てることで、少しずつ全体像が明らかになってきているが、同時に、研究を加速するための試薬が強く望まれているのも事実である。


 フォーラムでは最初に国立精神・神経医療研究センターの木村先生がオバービューを話され、多くの質問が集中し内容のある議論になった。つづく野中先生(岩手医科大学)と永原先生(日本医科大学)が硫化水素の産生酵素の話をされ、中川先生(名古屋市立大学)が硫化水素ドナーの開発についての研究を紹介された。 午後の後半のセッションでは、木村先生(大分大学)が糖尿病との関係、梶村先生(慶応大学)が一酸化炭素シグナリングとの関わりについて話され、多くの参加者の関心を引いたようだった。 また、同仁化学研究所では関連する製品の開発を行っており、ランチョン・セミナーでは開発担当者による発表も行い、多くの反響をいただいた。

(佐々本一美)

要旨集の残部がございますので、ご希望の方は小社マーケティング部までお問い合わせください。