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S-Nitrosoglutathione/S-Nitroso-L-cysteine溶液

 ニトロソチオールは・NO21)やNO2-2,3)とチオールとの反応によって産生され生体では血管弛緩活性など一酸化窒素(NO)類似の生理活性を有する一方、レセプターに対してはNOとは異なる作用を示すことが指摘されている、4)。EDRFの本質はNOよりもむしろニトロソチオールであるという報告もあるが5)Williamsらはこの考えは主流ではないと述べている6)。このように生体内でのNOに関する作用を研究する上ではニトロソチオールは重要な因子であることは否定できない。しかしながら、安定なNOドナーとして用いられるニトロソチオールは少なく、SNAP(S-Nitroso-N-acetyl-DL-penicillamine)とS-Nitrosoglutathione(GSNO)が一般的に用いられているが、SNAPは水に溶けにくい、水溶性のS-ニトロソ化合物としてはS-NitrosoglutathioneとS-Nitroso-L-cysteineなどが知られている。
 ここに紹介するS-NitrosoglutathioneとS-Nitroso-L-cysteine溶液は生体内で広く存在するglutathioneとL-cysteineから誘導されたニトロソチオールであり、生体内でのNOドナー、あるいは生理活性物質として働いていると考えられる。
 ニトロソチオールは下式の様にNOを発生してジスルフィドを生じて分解する。この反応は光7)や熱8)によって加速される。
S-Nitrosoglutathioneを37℃でインキュベートしTMA-PTIOを用いてESRによって放出されるNOを追跡した場合、NO放出は自発的には起こらないが、
2RSNO → RSSR + 2NO
ランプによって光を当てると放出が起こることが確認されている3,9)
 またこの分解反応には金属イオンが重要な因子となる。Cu2+(Cu)10)やHg2+11)が触媒となって加速することは良く知られており、逆にEDTAなどでこれらの金属をマスクすると分解は非常に遅くなる。他の金属イオンについてはZn2+, Ca2+, Mg2+, Ni2+, Co2+, Mn2+, Cr2+, Fe3+では影響はなく、Fe2+に触媒作用があることが報告されている6)
 一方でニトロソチオールのもう一つの重要な反応はニトロソ基の転移であり、下式の様に他のチオールをニトロソ化する。この反応はチオールのpKaに依存するため、生理的なpHでも容易に起こりうる。これらの速度定数12)と平衡定数13)も報告されている。



 これらのニトロソチオールの弛緩力の比較はラット大動脈リング標本の実験系ではSNAP>GSNO=SNAC(S-Nitroso-N-acetylcysteine)>CoACNO(S-Nitroso-coenzymeA)≧S-Nitroso-L-cysteineと報告されている14)。また血小板の凝集阻害においてはGSNO>NO>SNAP>SIN-1との報告がある15)
 ニトロソチオールの弛緩作用については、一般に言われているような自発的に放出されるNOとは無関係で、これが平滑筋の膜部分で代謝されて細胞内に伝わることが大切であるという報告もある14)

【使用例】
 Myersら5)S-Nitroso-L-cysteine及びNO溶液から発生するNOの血管弛緩作用をEDRFと比較しS-Nitroso-L-cysteineがEDRFと極めて似ていることを報告している。また村山らによれば16)、PC12細胞において、S-Nitroso-L-cysteineの投与による細胞内遊離Ca2+濃度[Ca2+]iの上昇はCICRチャネルのカフェイン感受性部位もしくはそれに近い部位のSH基の修飾によるものと述べている。
 またParkらはS-Nitrosoglutathioneが麻酔下にイヌ(0.2 mg/kg)及びサル(10 mg/kg)の血圧を低下させ17)、Radornskiらは血小板の凝集阻害を起こすことを報告している15)

【S-Nitrosoglutathione】
●金属接触注意
●遮光、冷凍保存

【S-Nitroso-L-cysteine溶液】メタノール溶液(濃度15mM以上)
●本品は保存中に徐々に分解して濃度が低下していきます。
 -30℃で保存した場合1年で約75%に低下します。
●本品は保存中に塩化ナトリウムの沈殿を生じることがあります。
●金属接触注意
●遮光、冷凍保存

参考文献

1) W. A. Pryor, et al., J. Org. Chem., 47, 156 (1982).
2) D. Barrachina, et al., Eur. J. Pharmacol., 262, 181 (1994); M. A. DeGroote, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 92, 6399 (1995); M. A. Moro, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 6702 (1994).
3) E. A. Konorev, et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 274, 200 (1995).
4) S. A. Lipton, et al., Nature, 364, 626 (1993).
5) P. R. Myers, et al., Nature, 345, 161 (1990).
6) D. L. H. Williams, Methods Emzymol., 268, 299 (1996).
7) J. Barrett, et al., Nature, 211, 848 (1966); J. Barrett, et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1965, 248.
8) H. Rheinbolt, et al., J. Prakt. Chem., 133, 328 (1932); L. Field, et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1978, 249.
9) R. J. Singh, et al., FEBS Lett., 360, 47 (1995).
10) J. McAninly, et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1993, 1758;S. C. Askew, et al., J. Chem. Soc., Perkin Trans. II, 1995, 741.
11) B. Saville, Analyst, 83, 670 (1958).
12) J. Barrett, et al., J. Chem. Soc.,Perkin Trans. II, 1994, 1131.
13) D. J. Meyer, et al., FEBS Lett., 345, 177 (1994).
14) E. A. Kowaluk, et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 255, 1256 (1990).
15) M. W. Radomski, et al., Br. J. Pharmacol., 107, 745 (1992).
16) 長沼朋佳ら, 第39回日本神経化学会講演要旨集 (1996).
17) J. -W. Park, et al., Biochem. Mol. Biol. Int., 30, 885 (1993).