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DNA損傷部位ビオチン化キット

ARP Kit -DNA損傷部位ビオチン化キット(AP Site)-
           347-07861  1プレート用  \29,000-

ARP kit原理図

【はじめに】

 生物の遺伝情報を保持しているDNAは、複製時のDNA polymeraseのエラーに加えて、環境中の放射線や紫外線、またはアルキル化剤等の化学物質、生体内における活性酸素等の代謝産物により損傷を受けます。これらのエラーや損傷が正しく修復されなければ突然変異を誘発し、これが癌や老化の原因となります。

 DNA損傷部位には修復機構が働き、その一つとして塩基除去修復があります。この時AP site(apurinic / apyrimidinic site)と呼ばれる塩基除去部位が出現します。よってAP siteを検出することはDNA損傷部位を測定し得る有効な方法となります。

 ARP(N'-Aminooxymethylcarbonylhydrazino-D-biotin)はこのAP siteと特異的に結合し、ビオチン化できる試薬として知られています。ARP Kitは、ARPを用いてDNAをビオチン化し96穴マイクロプレートに固相化して検体DNA中のAP siteを簡便に定量するキットです。

 このキットには、AP site数が規定された標準DNAが含まれておりますので、既存のビオチン検出法を用いることによってAP siteの定量ができます。

1. キット内容

標準ARP-DNA(5AP sites / 10,000 nucleotides, 0.2μg/ml) 3ml
希釈用ARP-DNA(0AP sites / 10,000 nucleotides, 0.2μg/ml) 3ml
BSA(ブロッキング用) 0.8g
PBS(BSA希釈用) 40ml
ARP 5mg
アミノプレート 1枚

 ◎保存方法:冷蔵保存, 安定性:6ヶ月間(4℃保存)

2. 推奨レイアウト

 プレートを右上図の様に標準DNAを用いた検量線用のエリアと、検体測定用のエリアにレイアウトして測定を行います。

 このキットでは以下のレイアウトで最大14種類の検体が測定できます。ここでは、検体の測定について n=3 で設定しておりますが、n=6 とした場合はこのプレートで測定することができる検体数は7検体になります。また、このレイアウトでは周縁のウェルを使用しておりません。これは次頁に記載しております96穴マイクロプレート周縁効果を防ぐためです。

3. 測定原理

1) 検体DNAのAP site をARPで選択的に標識します。
2) ARP標識検体DNAと標準DNAを96穴マイクロプレートに固相化します。
3) ARPはビオチン構造を持つため、酵素標識したアビジンで認識されます。
4) アビジンの標識酵素活性を利用してAP site数を定量します。

注意)
  • このキットはARPによってDNAのAP siteをビオチン化するキットです。よって、弊社ではビオチン化の過程(操作方法4−4)までを保証いたします。
  • 本プロトコールでは、ビオチンの検出方法としてVECTASTAIN ABC Kit(PODタイプ)を使った系を載せていますが、その他のKit(POD conjugate Avidin、ALP conjugate Avidin等)を用いた常法でも使用可能です。ABC Kitを用いた場合、試薬の濃度や保存期間によって多少発色速度が変わってきます。
  • ビオチン検出に発色試薬等を使う場合、その発色速度はペルオキシダーゼ(POD)活性、発色温度、発色剤の組成等によって変わってきます。その際は、発色の度合いによって発色時間を調整して下さい。その他の諸条件によっても感度が変わってきますので、標準DNAとの比較は同一プレート上で同時に行って下さい。

4. 操作方法

 この方法は、ウェルの底面に存在するアミノ基の陽イオン性を利用し、DNAを固相化します。よって短時間での固相化が可能ですが、他の検出試薬の非特異吸着を防ぐために、BSA等でのブロッキングを必要とします。キットに含まれるアミノプレートはコーニング・コースター製のものを使用しております。このプレートは、ストリップ型で1レーンずつ切り離して使用する事ができます。表面の活性を保つため、開封後は再び遮光、密閉して保存して戴きますよう、お願いいたします。

96穴マイクロプレートを用いる場合、周縁効果(エッジ効果)を考慮しなければなりません。この効果は周縁のウェルと内側のウェルで熱勾配を生じて反応速度に差が生じる現象です。上図の様に周縁のウェル(点線で囲まれた部分)を用いない方が精度の高い測定ができます。

4-1 試薬溶液の調製

4-2 検体DNAのARP標識

 本キットの標準DNAの精製法は5章に記載しています。

 検体DNAの精製法もこの方法に準じて行ってください。

1) 検体DNAをTE-バッファーに溶解させ、溶液の吸光度(260 nm)を測定する。その吸光度値から100μg/mlになるようTE-バッファーで希釈調製する。
(DNA濃度は50μg/mlのときの吸光度を 1.0 として算出。)
2) 検体DNA溶液100μlにARP溶液100μlを添加する。
3) 37 ℃、1時間反応させる。
4) 200μlのイソプロピルアルコールを添加し、−30℃で50分間冷却する。
(DNAの回収は汎用的なエタノール沈殿法でも可能です。)
5) 遠心分離しDNAを沈降させる(10,000xg, 15分間)。
6) 上層のイソプロピルアルコールを捨て、75 % エチルアルコール200μlを添加し、再び遠心分離しDNAを沈降させる(10,000xg, 15分間)。
7) 上層の75 % エチルアルコールを捨て、遠沈管のDNAを風乾する。(室温, 5分間)
8) TE-バッファーを1ml添加し再び溶解してDNA溶液とする。(約 10μg/ml)
9) このDNA溶液の吸光度(260 nm)を測定し、1)と同様にDNA濃度を算出する。
10)TE-バッファーにより、DNA 濃度が0.2μg/mlになるように希釈し、検体DNA溶液とする。

 ● dsDNAは、陰イオン性のため、タンパクの固相化等に用いられるポリスチレン表面のプレートにはほとんど吸着しません。DNAをプレートに固相化させる方法は多く紹介されていますが、このキットではアミノプレートに固相化させる方法を用いております。この方法は、比較的バックグラウンドが低く、再現性も高い方法です。

4-3 AP sites標準液の調製

 キットに含まれる標準ARP-DNAと希釈用ARP-DNAを下記の様に混合し、0〜5AP sites標準液を調製します。

AP sutes / 10,000 nucleotides 0 1 2 3 4 5
標準ARP-DNA(μl) 0 200 400 600 800 1000
稀釈用ARP-DNA(μl) 1000 800 600 400 200 0

4-4 DNAの固相化方法

1) 同梱のアミノプレートを開封し、4-2でARP化した検体DNA溶液を1ウェルにつき、200μl添加する。また、比較用として別のウェルに4-3で調製した標準DNAを濃度の順に添加しておく。
2) 37℃で1時間インキュベートする。
3) PBSTでプレートを10 回洗浄する。
4) ブロッキング用BSA溶液を1ウェルにつき、300μl添加する。
5) 37℃で2時間インキュベートする。
6) PBSTでプレートを10 回洗浄する。

注意)プレートの洗浄によって、バックグラウンドの吸光度が大きく変わってきますので、充分に洗浄液をきってください。以下の洗浄も同様に行ってください。

4-5 発色方法

 4-4で固相化したプレート上のビオチン化AP siteは、通常のビオチン検出法で発色させ検出することができます。ここではアビジン−ビオチン−PODコンプレックス(ABC試薬, Vector社製)でビオチンを認識し、そのペルオキシダーゼ(POD)活性によって基質(o-フェニレンジアミン(OPD), SAT-blue)を発色させる方法を記載しております。なおSAT-blueは弊社で市販しているPOD基質のことを指します。

1) 1ウェルにつき、200μl のABC試薬(使用法に記載されている濃度に希釈しておく)を添加する。
2) 37℃で1時間インキュベートし、ビオチンとABC試薬を反応させる。
3) PBSTで10回洗浄する。
4) POD発色基質溶液(OPD + H2O2またはSAT-blue溶液)を1ウェルにつき、160μl 添加する。
5) 30分間、37 ℃にて反応させる。
6) 4mol/l H2SO4を 40μl 加えて、反応を停止させる。
7) 490 nmにおける吸光度を測定する。
標準DNAの吸光度から検量線を作成し、AP site数を算出する。
バックグラウンドを補正した標準DNAの検量線を下図に示す。

Fig.  SAT-blue, OPDによる AP siteの検出

5. DNAの精製法

標準DNAを調製した際の方法を以下に記載します。

5-1 試薬

5-2 精製操作法

1) 50mlのポリプロピレン製遠沈管※に市販の牛胸腺DNAを20mg秤量して20mlのタンパク変性用溶液を添加し、DNAが溶解するまで4℃で振とうする。DNAは繊維状であり、溶解しにくいので細かく割いて、緩やかに振とうしながら溶解する。
*DNAはガラスに吸着し易いため、使用する容器の材質はポリプロピレンをお勧めします。
2) 20mlのTE-飽和フェノールを添加し、室温で1時間振とうして混和する。更に10mlのクロロホルムを加え室温で30分間混和する。
3) 3,000xgで15分間遠心分離し、上層をピペットで回収する。(上層と下層の間に白い変性蛋白質が現れるので上層に混入しない様にピペットで回収してください。)
4) そこに12mlのフェノール/クロロホルムを添加し15分間混和して再び3,000xgで15分間遠心分離し、中間層の変成蛋白質が無くなるまで数回操作を繰り返す。
5) 20mlイソプロピルアルコール、4mlの3mol/l 酢酸ナトリウムを添加し-20℃で50分間静置する。
6) 0℃に冷却しながら10,000xgで15分間遠心分離し沈殿を回収する。
7) 沈殿を75%エチルアルコールで2、3回洗浄して塩を除く。エチルアルコール層を吸い取った後、室温でエタノールを風乾させる(乾燥させすぎるとDNAの溶解性が落ちますので注意してください)。DNAを再び20mlのTE-バッファーに溶解する。
8) RNase 溶液を20μl添加し37℃で2時間反応させる。
9) 12mlのフェノール/クロロホルムを添加し、30分振とう後3,000xgで15分間遠心分離し、上層を回収して2mlのクロロホルムを添加する。この操作を2回行った後、3,000xgで15分間遠心分離し、上層を回収する。
10)20mlイソプロピルアルコール、4mlの3mol/l 酢酸ナトリウムを添加し、-20℃で50分間静置し、0℃に冷却しながら、10,000xgで15分間遠心分離し沈殿を回収する。
11)沈殿を75%エタノールで2、3回洗浄して塩を除く。エタノール層を吸い取った後、室温でエタノールを風乾させる(乾燥させすぎるとDNAの溶解性が落ちますので注意してください)。DNAを再び20mlのTE-バッファーに溶解しDNA溶液とする。

参考文献

1) Sancar, A. and Sancar, G. B., Annu. Rev. Biochem., 57, 29-67(1988).
2) Lindahl, T. and Nyberg, B., Biochemistry, 11, 3610-3618(1972).
3) Liuzzi, M. and Talpaert-Borle, M., J. Biol. Chem., 260, 5252-5258(1985).
4) Weinfeld, M., Liuzzi, M. and Paterson, M. C., Biochemistry, 29, 1737-1743(1990).
5) Chen, B. X., Kubo, K., Ide, H., Erlanger, B. F., Wallace, S. S. and Kow, Y. W., Mutat. Res., 273, 253-261(1992).

ARP Kit Q&A

 発色にはアビジン-POD試薬、POD検出用発色試薬が別途必要になります。これらの試薬は、メーカーの違いや保存期間によってそれぞれ活性が違ってきます。つきましては、別のウェルで活性を確認していただく必要がございます。

Q1:発色しないのですが、どうしてでしょうか?
A1:コンジュゲートPODは失活していませんか? 一般的に期限の限られている試薬が多いので、用いている試薬が古ければ、試薬を交換して試してください。
A1’:発色試薬の過酸化水素は失活していませんか? 新たに過酸化水素を入れて確認してみてください。
Q2:検量線がばらつくのですが、なぜでしょうか?
A2:PBSTによる洗いが不十分な場合にばらつきます。ウェルにあふれる位まで洗浄液を入れ、液を吸い取ります。その後、敷いたキムワイプ上などで叩いて洗浄液を十分にきるようにしてください。
Q3:バックグラウンドが高いのですが、低くする方法はありませんか?
A3:ABC試薬等のPODコンジュゲートアビジン試薬が非特異吸着していることが考えられます。Q2に準じ十分に洗浄操作を行ってください。
A3’:ブロッキングが十分でないことが考えられます。ブロッキングはウェルの側壁まで行う必要があります。よって、1ウェルに300μl以上ブロッキング液を入れてください。
Q4:操作を2日に分けて行いたいのですが、どの段階で中断すればいいですか?
A4:ブロッキング液を入れた状態であれば、1晩おいても変りない結果が得られます。常温で放置しておくようにしてください。
Q5:ブロッキングの時の温度は何度に設定すればいいのでしょうか?
A5:ブロッキングは37℃で行ってください。また、一晩置く場合は常温で行ってください。4℃で放置した場合は、十分なブロッキング効果が得られない場合がございます。
Q6:ABC試薬の濃度は、どのくらいにすればよろしいのでしょうか?
A6:Vector社のマニュアルには1%に調製するようになっていますが、保存期間やLOT間で感度に差が生じてきます。濃度にほぼ比例して感度(検量線の傾き)が上昇しますので、感度を調整する時は、ABC試薬の希釈率を変えて行ってください。
Q7:標準DNAはどのくらい安定でしょうか?
   また、最適な保存方法を教えてください。
A7:溶液状態でも冷蔵保存しておけば、感度、DNA濃度共に1年以上安定です。冷凍すると1回の凍結−融解操作で感度が数%落ちますので、保存は冷蔵にてお願いします。
Q8:ARPの溶液での安定性はどのくらいでしょうか?
A8:水溶液の状態ではアミノオキシ基が次第に失活しますので、溶液での長期保存はできません。純水に溶解後は冷蔵で保存し、1週間以内に使い切るようにしてください。
Q9:吸光度が振り切れてしまう場合はどうすればいいのでしょうか?
A9:エンハンサを含む発色試薬等は感度が高い為、振り切れてしまう場合があります。その時は、試薬を希釈して使っていただくか、ABC試薬を希釈してお使いください。