酵素スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の活性測定法

(Assay of Enzyme Superoxide Dismutase)

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受田 浩之
(Hiroyuki UKEDA)
高知大学農学部生物資源科学科

[ Summary ]

The enzyme superoxide dismutase (SOD) catalyses the breakdown of superoxide anion (O2-) and provides the first line of defense against oxygen toxicity. The activity and the assay techniques are associated with diverse fields such as medicine, biochemistry, plant physiology and food chemistry. During the past decades, various assay methods of SOD have been developed. However, those methods have some drawbacks in the selectivity, rapidity, cost or convenience. Recently, we found that novel water-soluble tetrazolium salts such as XTT, WST-1 and WST-8 are suitable for the detection of O2- and applicable to the assay of SOD. Among them, WST-1 appears to be most promising for the SOD assay in the sensitivity, low absorbance of the oxidized form and the solubility against water. The SOD assay method based on the use of WST-1 could be applied to practical biochemical samples such as erythrocytes, liver and heart from rats. A novel flow injection assay system for SOD was also developed using WST-1. In the system, a rapid assay (sampling frequency=30 samples/h) was achieved.

キーワード:スーパーオキシドアニオン、テトラゾリウム塩、 XTT、WST-1

 

1. はじめに

 酵素SODは2つのスーパーオキシドアニオン(O2 -)を過酸化水素と酸素に不均化する酵素である(式1)。

SOD
2O2- + 2H+ H2O2 + O2                     (1)

 酸化ストレスに対する第一防御ラインを担う重要な抗酸化酵素の 一つであるが、さらに生物の寿命を決定する因子であることが Cutlerらによって指摘され1)、その活性に関する知見が、様々な生 命現象の解明に重要な意義を有すると考えられている。McCord とFridovichによるSODの発見(1969年)以来2) 、様々な活性測定法が提案されているが、選択性、迅速性、簡便性及び適用範囲 の広さの全てにおいて、満足のいく方法はない。本稿では、従来 法が有する様々な問題点を克服するために著者らが開発した、水溶性テトラゾリウム塩を利用する新しいSOD活性測定法を中心に紹介する。

 

2. 活性酸素とSOD

 SODの活性測定は生物が関わるすべての研究領域に必要とされ る。初めに、ヒト、植物、食品を対象とした3つの研究領域につ いて活性酸素とSODとの関わりについて述べ、それぞれの分野で SOD活性測定技術の果たす役割を考えてみる。

 

2.1 ヒト

 生体内に取り込まれた酸素数%は、常に種々の酵素代謝系など でO2-、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル(OH・)などの活性酸 素種に変化する。このうち、不対電子を持つO2 -とOH・は寿命が短い。OH・が最も高い反応性を有しており、ほとんど拡散律速で 様々な分子と反応する。O2-はOH・のような高い反応性はなく、 それが直接脂質やタンパク質、糖、核酸を攻撃することはないと言われている。しかしながら、金属イオンとの相互作用でOH・を生成したり(Fenton反応)、一酸化窒素(NO)と反応して、NOの もつ生理作用(血管弛緩など)を消失させる。同時に、ペルオキ シナイトライト(ONOO-)を生成させ酸化障害を起こす。生体は活 性酸素種の有する高い毒性から身を守るために、SODを始めとす る様々な抗酸化防御系を獲得した。それらの防御系は活性酸素が 発生する組織や細胞内の局所に存在している。ところが何らかの理由で、これらの防御能を上回る量の活性酸素種が生じると、重篤な病態を誘起しうる。その代表的なものがガンであり、その他、動脈硬化を始めとする多くの生活習慣病が発症する 3)。さらに近年、アルツハイマー病や血管障害性脳疾患の発症機序の一つとし て、老人斑へのβ―アミロイドの酸化的凝集沈着が注目されてい る。さらに活性酸素による細胞障害は、加齢に関係して発症する 各種疾患の成因の一つとして重視されており、ラジカル捕捉剤の治療への応用も検討されている。

 様々な疾患の直接的原因ともなる活性酸素の中で、O 2-の消去に関わるSODの活性は様々な病気の発症と関連があると考えられている。これまでにヒトの場合でその関連が明らかにされている例 として、Werner症候群、筋萎縮性側索硬化症(SOD活性の低下)、ダウン症(活性の上昇)などが挙げられる4,5) 。また、SODは生体内メイラード反応を受けるとその活性が著しく低下することか ら6)、糖尿病患者で活性は低くなる5) 。SOD活性の低下は酸化ストレスに対する防御能も低下させることから、さらに様々な疾病 が糖尿病合併症として発症する。今後も種々の疾病とその活性と の関連が次々に明らかにされていくと予想されるが、SODの活性測定は病気の発症機構の解明のみならず、診断や健康状態を反映する指標としても利用されていくものと考えられる。

 

2.2 植物

 植物は動物のように自由に移動ができないことから、外部環境 の変化に対して身を守るための高度な防御手段を備えている。パラコートなどの農薬の散布、大気中のSO2濃度の上昇、干ばつや高濃度の亜鉛、マグネシウムの曝露により、植物体中のSOD活性 が上昇する7)。このことは、それらの刺激により植物体内に活性酸素種が生成していることを意味する。また生成する活性酸素種のうちO2-の毒性を低下させることが、酸化ストレスに抵抗する上で重要な防御手段になることを示唆している。従って植物の生理学的研究に対してSOD活性測定技術の果たす役割は大きいと考え られる。

 

2.3 食品

生体の酸化防御能を強化すれば、活性酸素が関与する疾病のリス クを低下させることができるという考え方がある。赤ワインを始め、お茶、ココアなど特に植物が有する酸化防御能、特にSODと同様にO2-の消去作用(superoxide anion scavenging activity: SOSAとも言われる)を有する成分が注目されている8) 。最近では、植物性の食品素材のみならず、動物性タンパク質由来 9, 10)のO2-消去活性を求める研究も進められており、高い活性を有する食品素材の開発が今後も活発に展開されていくと予想される。

 

3. 従来のSOD活性測定法

 上に述べたように、SODの活性測定技術は様々な研究分野で利 用されることから、分析対象は極めて多岐にわたり、ありとあらゆる試料が測定に供されることになる。この点から測定技術に求められる第一の要件として、守備範囲の広さ、言い換えれば試料中に共存する他成分の影響を受け難い高い選択性が必要とされる。

 SODの基質となるO2-の発生には、酵素キサンチンオキシダーゼによるキサンチンの酸化反応が利用される。反応溶液には生成 したO2-を検出するためのプローブを共存させておく。試料を添加していないときのプローブの変化をコントロールとして、各試料を添加した際のプローブ変化の抑制率をその試料が示す阻害率 と表現する。

 通常、各試料が50%の阻害を示す濃度を各試料の活性評価に利 用する(IC50)。一方、本活性測定法において発生したO 2-は自発的な不均化反応で酸素と過酸化水素に変化している。この自発的不 均化反応は酸性領域で速く、生理的pH付近(7〜8)での速度は 8.5×105〜8.5×104 M-1s-1である。従って、活性測定に用いる O2-と検出プローブとの反応の2次反応速度定数はその不均化反応速度定数よりも大きいことが望ましい。両者がほとんど変わらない場合には、使用するプローブ濃度を高くする必要がある。用い られるプローブはO2-との反応で色が変化するもの(発色プローブ)、光を発するもの(化学発光プローブ)、並びに特徴的なラジ カル種を生成するもの(スピントラップ剤)に分類される。

 

3.1 吸光光度法

 色の変化でO2-を検出する方法は最も典型的なSOD活性測定法 で、特にそのプローブとしてはシトクロムcとニトロブルーテトラゾリウム(NBT)(Fig. 1)が用いられる。

 シトクロムc還元法によるO2-の検出は酸化型シトクロムcが 還元されると550 nmに強い吸収をもつ還元型に変わることを利用したもので(式2)、SODの発見以来用いられている標準的な 方法である2)

 

       Cyt(FeIII)+O2 -→Cyt(FeII)+O2       (2)

 しかしながらシトクロムcはO2-以外にNADPHレダクターゼな どの還元酵素や様々な還元物質によっても還元を受けることから、試料中の夾雑物質の影響を常に考慮する必要がある。またこの方 法では1.5分間の連続記録が推奨されており、多検体の分析には 向かない。

 NBT還元法はNBTがO2-により還元され水不溶性のブルーホルマザン(吸収極大560nm)を生じることを利用したものである 11)。水不溶性であるため、長時間の分析では不均一な分散が生じ 測定の再現性に影響が出てくる。これを可溶化させるために、反応溶液に牛血清アルブミンを添加した変法も開発されているが、余計なタンパク質を外から加えることは結果の解釈を複雑にする場合がある。さらにNBTも様々な還元性の物質で還元を受ける。この性質が、糖尿病のマーカーであるメイラード反応中間体のケ トアミンの定量に利用されている12)。NBT法の最も大きな欠点は、SODの阻害曲線においてSOD濃度を高くしても100%の阻害が得られないことである(Fig. 2)。これはNBTとO2-の発生に用いるキサンチンオキシダーゼとの間の直接的な相互作用による と考えられている。

3.2 化学発光法

 O2-の検出に用いられている化学発光プローブがSODの活性測 定にも利用されている。SODの活性測定に用いられるプローブは ウミホタルルシフェリン類縁体(MCLA)13)とルシゲニン 14)である。化学発光はpH依存性が極めて強く、特にルシゲニンの発光はpH 9以上のアルカリ領域で極端に強くなる15)。従って、生理的な条 件でのSODの活性測定には向かない。これに対してMCLAは中性領域でも強い発光を示すことから、pH 7.8においてヒト脳中のCu,Zn-SOD活性の測定に利用されている 13)。ただしMCLAはO2-だけではなく、一重項酸素とも反応性があること、溶存酸素と反応してバックグラウンド発光を示すこと、さらに遷移金属イオンにより酸化反応が促進されることなどから、あまりSODの活性測 定には利用されていない。

 

3.3 電子スピン共鳴分光(ESR)法

 O2-は室温、溶液中ではESRシグナルは観測できないが、スピントラップ法を用いることで間接的に測定される。現在用いられている最も汎用性の高いスピントラップ剤は5,5-ジメチル-1-ピ ロリンN-オキシド(DMPO)である16)。O2 -を捕捉したDMPOは特徴的なESRスペクトルを示すので、ESR法はO 2-に対する最も特異性の高い方法と言える。しかしながら、生理的条件におけるDMPOとO2-の2次反応速度定数はO2 -の自発的不均化反応の速度定数に比べて小さく、その結果、反応系に大過剰のDMPOを 添加する必要がある(例えば終濃度で0.45 M)。この結果、ESR法では測定コストが高くつくという欠点が生じてくる。また比較的大型のESR装置を必要とすることも欠点の一つである。

 

4. 水溶性テトラゾリウム塩を用いた新規SOD活性測定法

 上述の従来法が持つ欠点を克服するには、簡易な装置を用いた経済的な分析法で、pHに対する依存性も低く、かつO 2-に対する特異性が高い方法を考案する必要がある。簡便な装置として一般 的な分光光度計を考えるとすると、シトクロムcやNBTなどと同 様にO2-との反応で色が変わるプローブを用いることが望ましい。 この際に重要なことはSODの阻害曲線で100%の阻害率が認められること、さらにO2-以外の共存物質の影響を受けにくいこと が必要とされる。

 著者らはこのような性質を有する発色プローブを求めて、還元 型ホルマザンが水に可溶性の新規テトラゾリウム塩の適用を試み た。

 

4.1 XTT

 XTTは1988年に報告された水溶性テトラゾリウム塩である 17)。その後、微生物や動物細胞の電子伝達系の基質として利用されてきた18)。その構造をFig. 1に示す。ジテトラゾリウムであるNBTと比較してモノテトラゾリウム構造を有しており、分子内に2つ のスルホン基を有することを特徴とする。

著者らはこのXTTをSODの活性測定に適用してみた 19)Fig. 2に示したように、SODの添加濃度を上昇させると、NBTでは不可能であった100%の阻害が認められた。活性測定の条件を最適化し、様々なpHで同様の実験を行っても、100%阻害がそれぞれ のpHで認められた。100%の阻害を示したということは、アッセ イ系においてXTTがO2-により特異的に還元を受けたことを示 し、NBTの欠点を克服したことを意味する。NBTはキサンチン オキシダーゼとの相互作用の他に、グルコースオキシダーゼとも 直接的な相互作用を示すことが報告されている20) 。そこで我々はグルコースオキシダーゼによるグルコースの酸化反応に、NBTと XTTをそれぞれ共存させて各ホルマザンの生成を調べた(Fig. 3)。O2-を生成しないグルコースオキシダーゼの反応でもNBTは還元を受け経時的にホルマザンを生成しているのに対して、XTTは吸光度変化を示さなかった。XTTの濃度を増すと反応開始時点から 吸光度が増加しているが、これは酸化型XTTがもつバックグラウンドとしての吸収による。これらの結果から、XTTはいくつかの オキシダーゼの反応過程で生成する還元型酵素と直接的な相互作用を示さず、SOD活性測定に適したプローブであることが明示さ れた。

 次に、実試料への適用性を調べるために、ウサギ赤血球のSOD 活性を測定してNBT法で得られる結果と比較した(Fig. 4:pH 10.2で測定)。ウサギ血液からの赤血球の分離とSOD画分の粗抽 出は常法に従った21)。両者の測定値には高い直線的相関が認めら れた(相関係数0.954)。その直線の傾きからXTT法で得られる 結果が約2倍、NBT法の結果と比べて高くなっているが、これは Fig. 2に見られる両者の検出感度の違いを反映するものである。次 に本法を食品試料のSOSA測定に適用してみた22) 。周知の通り、食品は非常に複雑な多成分混合系で、含まれている成分が多岐にわたる。これまでにSOSAを示すことが明らかにされている赤ワイン、お茶、コーヒー、ココアを試料に選び、その活性測定を試 みた。予想通り、食品試料を希釈せずに本活性測定に供すると、食品試料の色の影響が見られることと、さらに食品試料中にXTTを 直接還元する物質が存在していることが明らかとなった。それらの影響に起因する吸光度が、コントロールの吸光度変化に対して 10%以下の値であれば許容できると仮定すると、例えばpH 8.0の測定において、緑茶(玉露)で100倍、赤ワインで10倍、インス タントコーヒーで50倍、ココアで10倍以上に希釈すればそれら の影響を抑えることが可能であった。それぞれの希釈倍率で各試 料は阻害率50%以上を示し、本法により食品のSOSAを測定で きることが明らかとなった。なお得られた活性はESR法で得られ ている結果と良好に一致していた。これらの結果から、XTT法は 生体試料や食品試料に適用可能であることが明らかとなった。

 XTT法はNBT法の欠点を克服し、一歩理想に近づいたSOD活 性測定法であると言えるが、一連の研究を通じて、さらに克服しなければならない欠点も見られた。一つは測定pHに依存して検出 感度が変化することである(Fig. 2)。NBTはpH 8から10.2の範囲で比較的一定したIC50を示すのに対して、XTTはpHが低下するに従い、検出感度が低下した。その結果、pH 8.0ではNBTよりも検出感度が低くなった。さらに、XTTの溶解性は十分である とは言い難い。XTTの最大の溶解度は2mM程度で、最適濃度である0.75 mMの調製には加熱が必要であった。さらにFig.3に示されているように酸化型のバックグラウンドに相当する吸光度も 気になるところである。そこでこれらのさらなる改良を試みた。

 

4.2 WST-1とWST-8

 1993年から97年にかけてIshiyamaらは様々な水溶性テトラ ゾリウム塩の開発を行った23-25)。いずれも水に対して数十から数 百mMオーダーの溶解性を有していることから、我々はそれらの 水溶性テトラゾリウム塩をSOD活性測定へ適用してみることにし た26)。用いた水溶性テトラゾリウム塩はFig. 1に示したWST-1とWST-8である。どちらも分子内にスルホン基を有するモノテト ラゾリウムである。

 はじめに各WSTを用いて測定条件の最適化を行い、pH 8.0、9.4、10.2でSOD標品の阻害曲線を描いてみた(Fig. 5)

どちらのWSTもXTTと同様に、高濃度のSODの添加により100 %の阻害を示した。特筆すべきは、pHの違いにより、IC 50を与えるSOD濃度に差が認められなかったことである。このことは、WSTがNBT、XTT両者の欠点を完全に克服したO2 -の理想的な発色プローブであることを示す。100%の阻害が認められたことか ら、XTTと同様にグルコースオキシダーゼの反応においてWST- 1とWST-8を共存させ、ホルマザンの生成が認められるかどうかを調べた(Fig. 6)

 予想通り、グルコースの酸化反応ではWSTホルマザンの生成 は認められなかった。またXTTと比較してWSTは濃度を上げて もほとんどバックグラウンドの吸光度が上昇せず、ローブランクでの測定が可能であることもわかる。感度的な比較を行うために、NBT、XTT法で得られるIC50とWST-1、WST-8の値を比較してみた(Table 1)。この値はpH 10.2の結果であるが、WST-1が最も高感度にSODを検出できることが明らかとなった。そこで WST-1法を用いてラット赤血球のSOD活性測定を行い、XTT法 で得られた結果と比較してみたところ、両者の間には相関係数 0.968(n=7)の良好な直線関係が認められた。

 ごく最近、WinterbournのグループもSOD活性測定における WST-1の有用性を認め、SOD活性測定のマイクロプレート法を 確立した27)。かれらはその方法を用いてヒト赤血球及びラットの 肝臓・心臓ホモジネートについて分析を行い、得られた結果がこれまでに報告されている値と一致することを報告している。従っ て、WST-1は生体試料について広い適用性を有していると言える。他の試料群、例えば植物組織や食品試料に対する適用性については現在詳細な検討を行っているところである。

 著者らはさらに本WST-1法を迅速化・自動化する目的で、フ ローインジェクション分析(FIA)法の開発を行った28) 。試作したFIAシステムをFig.7に示した。

本システムではキサンチンオキシダーゼを固定化したリアクター を用いており、測定のたびに酵素を添加する必要がない。従って 迅速性と共に経済性を備えた分析法である。種々の検討を重ねた結果、キサンチンオキシダーゼの安定性を高めるために、リアク ター内にカタラーゼを同時に固定化し、基質としてヒポキサンチンを用いることとした。ヒポキサンチンとWST-1を含む発色液を予め試料溶液と1:9の比率で混合しておき、その混合液20 mlをリアクター内に注入した。試料にSODが含まれていない場合には 最大のWST-1ホルマザンの生成が認められ、最大のピーク高が観察される。そこにSODが添加されると、その活性に依存してピー ク高が下がってくる(Fig. 8)

そのピーク高の低下の割合を阻害率として、SOD標品の阻害曲線を作成した。得られた阻害曲線から求められたIC50 値は2.7mg/mlで、絶対量としては50ngに相当する。この値はバッチ手順での 20ngに比べるとやや劣るが、1時間当り30検体以上の分析が可能であり、迅速性は極めて高い。本FIAシステムを用いてラット赤血球のSOD活性を測定し、NBT法で得られる結果と比較した (Fig. 9)。両者の間には高い直線的相関関係が認められ、迅速分析 法であるにもかかわらず、その分析結果は従来法の結果と良好に 一致することが明らかとなった。

 

5. おわりに

 SODの活性測定の重要性、その測定法の現状について述べてき た。SODの発見以来、毎年数多くの新しいSOD活性測定法が提案されている。このことは標準法として認知される満足のいく方法がこれまでに確立されていないことを意味している。今回我々が開発したWST-1に基づくSOD活性測定法はその特性から見て、従来法の多くの欠点を克服した極めて魅力のある方法であると言える。この方法をSOD活性測定の標準法として育てていくた めには、O2-プローブとしてのWST-1の特異性をさらに詳細に調べていく必要があると考えている。

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著者紹介
氏 名 受田 浩之(Hiroyuki Ukeda)
高知大学農学部生物資源科学科助教授
出身大学 九州大学大学院農学研究科
学  位 農学博士
専  門 食品化学、食品分析学、食品機能化学
趣  味 スポーツ(野球)
連絡先 〒783-8502 南国市物部乙200
Tel:088-864-5189, Fax:088-864-5200
メールアドレス:hukeda@cc.kochi-u.ac.jp