カルボニル基(アルデヒド及びケトン)を有する化合物は、生体、食品、環境中に広く分布している。また種々の薬物にも、その構造中にカルボニル基を有するものが多く存在している。これら化合物の高感度HPLC蛍光検出に、Fig.1に示す種々の蛍光ラ ベル化剤が用いられている。
アルデヒドやケトンに対する反応活性基としてヒドラジノ基やアミノ基を有する多くのラベル化試薬が開発されている。DNS- hydrazineやNBD-Hはコルチゾールやオリゴ糖の測定に利用されている。NBD-H(試薬自身は無蛍光性)はトリフルオロ酢酸の存在下、室温でカルボニル基と蛍光反応(Ex.470nm;Em・530 −570nm;検出限界subpmol〜pmolレベル)する。AMHは胆 汁酸の計測に使用されている。胆汁酸を酵素により3-オキソ胆汁 酸に変換後、AMHによりオキシム体に導き、その蛍光を検出することに基づくものである(検出限界20fmol)。Luminarin3は、脂肪族及び芳香族カルボニル化合物と希硫酸中で反応する(反応時 間:1〜4時間;室温;遮光下)。反応液に炭酸水素ナトリウム溶液を加えpH7.0に調整し、ジクロロメタンで抽出後、窒素気流下で乾固する。残渣をアセトニトリルや酢酸エチルに溶解後、HPLCに注入し蛍光検出する(Ex.380−400nm;Em.450−470nm; 検出限界60fmol〜2pmol)。DMEQ-PAHは,中性〜トリクロロ 酢酸酸性中,緩和な条件(20〜60℃,20分間)で脂肪族及び芳香族アルデヒドと蛍光反応する(Ex.362nm;Em.442nm)。検出限界は13〜18fmolと極めて高感度である。PBHは脂肪族アルデ ヒドの蛍光ラベル化試薬として開発された。反応は酢酸酸性で、 25℃、5分間で完了する。本試薬はラット肝細胞中のマロンジアルデヒドの測定に使用されている。
芳香族1,2-ジアミノ化合物(DDB,DMB,EDB)や2-アミノ- 4,5-ジメトキシチオフェノール(ADF)は芳香族アルデヒドと反応し,それぞれイミダゾ−ルやチアゾールを形成する(Fig.2)。こ の反応に基づく蛍光ラベル化法は芳香族アルデヒドに選択的であり、極めて高感度である。ADFは,芳香族アルデヒドと希塩酸中で50℃,70分で反応し,8〜20fmolの検出限界を与える。DDBはフェニルアセトアルデヒドに対しても強い蛍光を与えるため、ベスタチン[(2S,3R)-3-amino-2-hydroxy-4-phenylbutanoyl-S- leucine]の計測に使用されている。ベスタチンを過ヨウ素酸酸化によりフェニルアセトアルデヒドに変換後、DDBで蛍光ラベル化することに基づく。
DMBは、前述の芳香族アルデヒドとは全く異なる条件で1,2-ジ カルボニル化合物と反応し、強蛍光性のキノキサリン誘導体を生成する(Fig.3)。このようにして、DMBは1,2-ジカルボニル化合物の特異的蛍光ラベル化試薬として開発された。本試薬は食品中のメチルグリオキサールや生体試料中のコルチコステロイド類の定量に利用されている。
1,2-ジカルボニル化合物[グリオキサール(G)、メチルグリオキサール(MG)、ジアセチル(DA)、2,3-ペンタンジオン(PD) など]は生体、環境、食品など自然界に広く存在し、重要な生理的役割を担っている。これらジカルボニル化合物の研究には、高感度かつ選択的な計測法は欠かせないものである。
(1)発酵食品中の1,2-ジカルボニル化合物の定量 1)(Chart 1,Fig.4)DAやPDはアルコール飲料や乳製品などの発酵食品中の重要な芳香成分の一つで、発酵過程において微生物の働きにより作られる。そのように、品質管理の点で発酵食品中のDAやPD 量を計測することは極めて重要である。一方、GやMGも発酵食品中に存在し、それらの計測は発酵食品の品質チェックに重要で ある。
(2)マウス血液中のメチルグリオキサールの定量 2)(Chart2,Fig.5)
メチルグリオキサール(MG)は生体試料中に広く分布しているが、その詳細な生理的意義については不明な点が多い。その研究には、高感度かつ選択的な計測法が必要である。
(3)尿中6β-ヒドロキシコルチゾール(6β-OHF)とコルチゾー ル(F)の同時定量3)(Chart 3,Fig.6)
肝薬物代謝酵素誘導能を有する薬剤のヒトヘの投与により、6β-OHFの尿中排泄量が増加するため、尿中6β-OHF量が薬物代謝能 を評価する指標となる。さらに、6β-OHF/Fの比がより良い指標 となることが知られており、6β-OHFとFの同時定量法が必要で ある。
本法は、6β-OHF及びFを酢酸銅により酸化し、グリオキサー ル誘導体に変換した後、これらをDMBで蛍光ラベル化すること に基づく(Fig.6)。このような2段階のラベル化は操作が煩雑で あるという欠点を有しているが、一方ではより選択性が高まると いう利点も有する。クロマトグラム(Fig.6)が比較的シンプルで あるのは、2段階のラベル化による高選択性のためである。
参考文献
1. M. Yamaguchi, J. Ishida,Z.Xuan−Xuan, M. Nakamura, T. Yoshitake, J.Liquid
Chromatogr., 17,203(1994).
2. M. Yamaguchi, S. Hara, M.Nakamura, J.Chromatogr., 221,163(1989).
3. S.Inoue, M.Inokuma, T.Harada, Y. Shibutani, T. Yoshitake, B. Charles, J. Ishida,
M. Yamaguchi, J.Chromatogr.B,661,15(1994).