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小原 健志 (Kenshi Obaru) 熊本大学医学部第二内科 |
[ Summary ]
At present, the sequence analyses of the human genome were completed, and the function of a large number of the genes is being cleared. It is getting pratical to grant the novel function to the cells using these information of the genomes. However, it was difficult to construct the plasmid which has the multiple function. Although it is indispensable to recombine a number of the genes into a single plasmid, it is difficult to construct the plasmid using the mehods of digestion by restriction enzymes or recombinase and ligation, since it is required to restrict one or two restriction enzyme site or LoxP site in the plasmid. However the CLIP methods described here shows possibility of construction the plasmid using the cross-linked primers (CLIP). This method enables any construction of the plasmid DNA. Here, we describe the principle of the CLIP method.
キーワード:クローニング、PCR、クロスリンク、プライマー
現在ヒト全遺伝子の塩基配列の解析が終わり、多くの遺伝子の 機能が解明されつつある。これらの情報を利用し、細胞や大腸菌 などに複雑な機能を付与することが可能となってきた。しかし、こ れ迄の技術では、複雑な高度の機能をもつプラスミドを構築する のは不可能に近かった。複数の遺伝子を一つのプラスミドに組み 換えたプラスミドの構築が必要だが、制限酵素やLoxPなどの特 異的塩基配列を切断し結合する構築法では、特異的塩基配列をプ ラスミド内に一つまたは二つに限定していく必要があったため構 築が困難であった。しかし、ここに紹介する新規のプラスミド構 築法では、クロスリンクしたプライマー(CLIP;Cross-linked Primer)を用いる事により、そのような特異的塩基配列を殆ど必 要とせず、自由にプラスミドを構築できるため、極めて高度で複 雑なプラスミド構築が可能となってきた。また、この方法では、変 異の導入、欠失が簡単に行なえるようにもなった。ここでは、こ の革新的CLIP法の原理を紹介する。
バイオテクノロジーの最も基本的な技術の一つがプラスミドの
構築であり、分子生物学の発展の中でプラスミドの構築が重要で
あった事は、言及する迄もない。しかし、バイオテクノロジーの
中でもプラスミドの構築は、手間と時間のかかるステップであり、プラスミドの構築は制限酵素切断部位の有無により制約されてい
る。トポイソメラーゼ、ligation independent cloning (LIC)、リコンビネースを使う方法が開発されてきたが、特定の塩基配列に制約されてしまう。また、PCR産物のクローニング法として多くの技術が開発された。PCRプライマーに制限酵素切断部位をいれ
る方法1)、blunt-endクローニング2,3) ,TAクローニング4,5) 、ligation
independent cloning (LIC)6-10)、in vivoクローニング11,12)。これらの方法では、PCR産物またはベクターの酵素処理が必要であり
1,4-7,9,10,13)、PCRプライマーが特別な塩基を含む必要があり
8,13)、特別なベクターあるいは細菌株3,12)
が必要である。また、最近ではCre-LoxPを利用した系も開発されているが、LoxP(32bp)の特異的塩基配列が必要であり、組み換える事ができる遺伝子が一つに限定されるなど高度化されていくプラスミド構築において限界があることは、明瞭である。いずれの方法でも、ベクターを改変しオリジナルなプラスミドを作成しようとすると大変困難なものになってしまう。
そこで、酵素による切断、結合が不必要で、しかも特異的塩基配列が不必要な方法がないかを検討した。ここで一番の問題は環
状化する方法である。直鎖状のプラスミドは、大腸菌をトランスフォームできないが、環状のプラスミドは、大腸菌をトランスフォームすることができる。すなわち、プラスミドを大腸菌に導入するには環状化する必要がある。DNAを環状化するためにはライゲース、トポイソメラーゼ、リコンビネース等の酵素または特殊なプライマーが使用されてきた。しかし、単純に2本のプライ
マーを結合してPCRをすると環状化されるはずである。このことを調べるためにクロスリンクしたプライマーを用いてPCRし、大
腸菌をトランスフォームするかを検討したところ、大腸菌のコロニーを得る事ができた。また、組換え及び変異、欠失の導入も容易にできるようになった。
ここで紹介するCLIP法は、酵素等の特異的塩基配列の呪縛から逃れ自由なプラスミド構築を可能とする事により、ポストゲノム
時代における増大する遺伝情報を利用した多様な機能を発現させるための高度なプラスミド構築を可能としている。
プライマーの設計;オリゴヌクレオチドは、二本のオリゴヌクレ オチドの5'末端が相補的であり、3'末端が突出するように設計す る。プソラレンでクロスリンクする場合、この相補鎖のなかに5'- TA-3'を含むようにする。この5'-TA-3'において、二つのオリゴ ヌクレオチドがプソラレンによりクロスリンクされる 14)。
オリゴヌクレオチドのクロスリンク;二本のオリゴヌクレオチ ドを各々に蒸留水を加えて100pmol/μlにする。20μlずつ加え混 和しプソラレン飽和液(プソラレン1mg(Sigma)を140μlの100% エタノールに溶解した。)を1μl加え20μlずつ分注する。100mM のNaClを加え1、2、4、8mM NaClにする。95℃で3分間加熱しその後室温で30分以上放置し自然光(昼間)の紫外線または 365nmの紫外線照射によりクロスリンクする14) 。塩濃度は式1より二本のオリゴヌクレオチドの相補鎖の部分のT m値を計算し、Tm値が室温より高くなるように塩濃度を設定する。
Tm=81.5+16.6xlog10 [S]+0.41x(%GC)-500/N (式1)
[S]は塩濃度(M)、%GCは相補鎖の部分のG、C含量(%)、Nは
相補鎖の部分のヌクレオチド数15)
PCR;プライマー(T7pBR4287c:5'-GAATTCCCCTATAGTGAGTCGTATTACGTCAGGTGGCACTTTTCGGG-3',T7pBR2347:5'-TAATACGACTCACTATAGGGGAATTCGGCGCTCTTCCGCTTCCTCG-3')を使いPCRを行った。PCRは、PreMix ExTaq (宝酒造)を利用した。TaKaRa PCR Thermal Cycler Personal(宝酒造)を使用し、以下のプログラムを使用した:94 ℃で熱変性を3分間行い、94℃50秒、53℃50秒、72℃3分を30 サイクル行った後、最後に72℃15分間行った。
大腸菌へのトランスフォーメーション;
PCR産物をDH5αのコンピテント細胞に加え氷上で30分静置し、 42℃で40秒加温後LB培地を200μl加え37℃で1時間加温し、ア
ンピシリン添加LB寒天培地に播き一晩37℃で加温する 16)。翌日コロニー数を計測する。
プラスミドを大腸菌にトランスフォーメーションするには、環
状化する必要がある。通常のPCR反応では、直鎖状のDNAになっ
てしまうため、大腸菌のoriをそのDNAが持っていても大腸菌を
トランスフォーメーションできない(図1-1)。しかし、この2本
のプライマーを何らかの方法でクロスリンク(CLIP; Cross-linked
Primer)してPCRを行うとPCR産物は開環状(open circular DNA)になる(図1-2)。開環状DNAは、大腸菌をトランスフォーメーションできるので
6)、クロスリンクした部位が大腸菌内で修正されるならばトランスフォマントが得られるはずである。
もう少しPCR反応を具体的に考察してみよう(図2)。
直鎖状のDNAのA領域、B領域に対して相補の配列を持つCLIP
は、熱変性後A領域または、B領域にアニーリングする(ステッ プ1)。次にCLIPから伸長反応が起こる(ステップ2)。伸長反応
生成物は、熱変性後、CLIPとアニーリングする(ステップ3)。次 にCLIPから伸長反応が起こる(ステップ4)。この伸長反応は、
CLIPのクロスリンクした塩基を越える事ができない 14)。CLIP間のPCR反応により各々一つのCLIP構造をもつ2種類の生成物が
産生される(ステップ5)。各々のCLIP生成物はself-annealing
により伸長反応が起きself-circularizationするか(ステップ6、 7)、2分子のCLIP生成物がアニーリングし伸長反応が起きCLIP
の両側が伸長され、熱力学的に安定なself-annealingをして、環
状化される(ステップ8、9、10、11)。このようにCLIPを使い PCRを行うと開環状DNAが得られると思われる。
オリゴヌクレオチドをクロスリンクする方法には、ナイトロゲン
マスタード17) 、a-bromomethylketone18)、iodoacetamidopropyl moiety 19)、N6,N6-ethanoadenine or
N4,N4-ethanocytosine alkylates20) ethyldisulfide or a
propyl disulfide linkage21)、psoralen-derivatized
methyl phosphonate oligonucleotides22)、9-aminoellipticine
23) 1,2-dideoxy-D-ribofuranose and butane
1,3-diol 24)
などを利用する方法があるが、最も簡便にできるプソラレンを用いた方法によりクロスリンクを行った。プソラレンは、
365nmでthymidine塩基にクロスリンクされ、反対側のDNA鎖 にthymidine塩基があると、それともクロスリンクされ、2本の
DNA鎖がクロスリンクされる。そのため5'-TA-3'の塩基配列があ ると2本のDNA鎖がクロスリンクされる14)。
オリゴヌクレオチドは、図3のように、二本のオリゴヌクレオ
チドの5’末端が相補的であり、3'末端が突出するように設計す
る。プソラレンでクロスリンクする場合、この相補鎖のなかに5'-
TA-3'を含むようにする。この5'-TA-3'において、二つのオリゴ
ヌクレオチドがプソラレンによりクロスリンクされる。これを98 ℃3分間加熱し3%の低融点アガロースゲルで電気泳動するとクロスリンクしたオリゴヌクレオチド(CLIP)は、電気泳動度が遅
いバンドとして検出される(図3-2)。
2本のオリゴヌクレオチドを混和した溶液にNaCl溶液を加え 1、2、4、8mM
NaClにする。95℃で3分間加熱しその後室温で30分以上放置し、プソラレン添加後、自然光(昼間)の紫外線ま
たは365nmの紫外線照射によりクロスリンクする。pBR322を EcoRIで切断した直鎖状のDNAをテンプレートとして10ng用
い、各塩濃度でクロスリンクしたCLIPとPreMix ExTaq (TaKaRa) を加えPCRを行う。PCR終了後、反応液を0.8%のアガロースで電気泳動する。1、2、4、8mM
NaClでクロスリンクした場合、2mM NaClで最も良く増幅されている(図4)。
2mM NaClでの相補鎖の部分のTm値は、33℃であり、室温より 8℃高い状態であった。高い塩濃度では、非特異的にアニールした
DNAが増加した事により非特異的クロスリンクが増加しPCR反
応が阻害されたと思われる。
これらのPCR産物をDH5αのコンピテント細胞でトランス
フォーメーションしアンピシリン添加LB寒天培地に播き一晩37
℃で加温し、翌日コロニー数を計測した。コロニー数は2mM NaClで最高となっており、PCRの結果とよく相関している(表1)。
プライマーをクロスリンクしないでPCRを行った場合(コント
ロール)コロニーは得られなかった。このことは、CLIPを用いた PCRによりDNAが環状化され、大腸菌をトランスフォメーショ
ンすることが可能であることを示している。
CLIPを用いることにより標的DNAを環状化することができ、 大腸菌にも導入可能である事が示された。そこで、CLIP内に標的 DNAに変異(M)を導入したCLIPを作成し、PCRを行うと変 異(M)を持ったDNAが環状化され、大腸菌にトランスフォーメー ションされる(図5)。このようにして得られたコロニーの90%以 上が変異を持っていた。
次に、欠失させる部位に近接したA及びB領域にそれぞれ相補 鎖をもつCLIPによりPCRを行うと線状のDNAが生成され、次 にCLIPの残りの一方から伸長反応が起こりABが連結された環状 DNAが生成される(図6)。大腸菌にトランスフォーメーションす ると得られたコロニーの90%以上が欠失を持っていた。
標的DNA、ベクターと相補な部分とプライマー同士が相補な部
分を含むクロスリンクしたプライマー(CLIP1とCLIP2)を用い
てベクターとアニーリングする(図7)。Taq
DNA ポリメラーゼを用いてCLIP1とCLIP2からベクターDNAをPCRで増幅する。
増幅されたDNAは、標的DNAに対して相補なプライマー部分が
残されているため、標的DNAを加えてPCRすると、ベクターか ら標的DNAの伸長反応が起こり環状化される。この環状DNAを
大腸菌にトランスフォームすると、得られたコロニーの90%以上
が標的DNAを持っていた。
このようにCLIPを用いる事により、サブクローニング、変異、
欠失が容易に行なえる事が明らかとなった。この原理は、既存の
クローニング系のプラスミドに平易に利用可能であり、応用範囲
は、広いと思われる。
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著者紹介 | |
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氏 名 | 小原 健志(Kenshi Obaru) |
熊本大学医学部第2内科 | |
出身大学 | 熊本大学医学部 |
学 位 | 医学博士 |
専 門 | 内科学 |
連絡先 | 〒860-0811 熊本市本荘1-1-1 |
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