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結合定数を求めてみよう

(株)同仁化学研究所 佐々本 一美

 何げなく目にする結合定数も、どうやって計算するのか知らな い場合が多い。学生のころ習ったはずだが、実際に自分で計算し てみないとなかなか身につかない。最もよく遭遇するケースとし て、次のような1:1のキレート生成反応を考えてみよう。
M + L ⇔ ML(KML = [ML]
)・・・・・・・・(1)
[M] [L]

 ここで、M は金属、L は配位子、KML は結合定数(この場合は錯体の安定度定数)であるが、別にキレート生成でなくても勿論 構わない。今、金属の初濃度を [M]0、配位子の初濃度を [L]0とした場合、[L]0を一定にして[M] 0をゼロから徐々に増やし、吸光度(A)の変化を測定する(図1)。ここでは例として吸光度が変化 するケースを想定しているが、蛍光強度でも、NMR のケミカルシフトでも、要するに濃度と一次の対応をしているシグナルであ れば、何でも構わない。

図1
(図1)

A0は金属がないときの吸光度(つまり配位子のみの吸光度)、Aは全て結合したときの吸光度(実際には、これ以上変化しないと きの値)を表しているが、これらはもちろん実測可能な値である。

 (1) 式の KMLを求めるには、[M]、[L]、[ML] の3つの平衡状態での濃度を求める必要がある。そこで次の3つの式を用いることに しよう。

[M]0 = [M] + [ML]・・・・・・・・(2)

[L]0 = [L] + [ML]・・・・・・・・・・(3)

A = εL[L] + εML[ML]・・・・・・・・(4)

初濃度[M]0、[L]0 は既知であり、測定の間じゅう一定である。問題は (4) 式で、εL、εML を各々、配位子および錯体のモル吸光係数とすると、吸光度 A はそれらの和として表される。εL、εML は別途求めなくても、次のように A0、A を用いて表すことができる。すなわち、A0 = εL[L]0、A = εML[L]0 なので(ちょっと考えるとすぐに思いつく)、(4) 式は、

A[L]0 = A0[L] + A[ML]・・・・・・・・(4)’

のように書き換えることができる。これで、求めたい3つの未知 数を含む式が揃った。後は、中学校で習った (3) と (4)' 式の一次の連立方程式を[L],[ML]について解くと、

[M + L] = (A - A0)
[L]0・・・・・・・・(5)
(A - A0)
[L] = (A - A)
[L]0・・・・・・・・・・・(6)
(A - A0)

得られた [ML] を (2) 式に代入すると、

[M] = [M]0 - (A - A0)
[L]0・・・・・・・(7)
(A - A0)

これからKML(= [ML] / [M] [L])が求まるが、普通は、KML[M] = [ML] / [L] のように置き換え、[M] に対して [ML] / [L] をプロットする。 つまり、

KML ([M]0 - α[L]0) = (A - A0)
・・・・・・・(8)
(A - A)
(ここでα = (A - A0)
)
(A - A0)

とおき、[L]0一定条件下、[M]0 を変化させ、A、A0、A を実測し、下図のプロットの傾きから結合定数(KML )を求めることができる。

図2
(図2)

(8)式は吸光度(A)の代りに、蛍光強度(F)やケミカルシフト(δ )を用いても同様に成立する。

また、ある系中の金属(ターゲット分子)濃度を既存のキレーター (プローブ分子)を用いて求めたいような場合には、[M] Oが未知、KMLが既知なので、式(1),(5),(6)より、

[M]= [ML]
= 1
(A - A0)
・・・・・・・・(9)
KML [L] KML (A - A)

を用いればいいことが分かる。