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(Hideji Yamashita) 九州東海大学農学部 |
[ Summary ]
The fluorescence representational genomic profiling (FRGP) method is capable of making a genome-wide survey of many loci. This method employs PCR-mediated size selection and FITC-labeling of restriction fragments containing landmark sites. Using this method with methylation-sensitive restriction enzyme Eag I as a landmark enzyme, we scanned quail genomic DNAs from several tissues to detect the transcriptionally active regions. This approach is based on the assumption that CpG methylation, particularly of CpG islands, might be associated with gene transcriptional regulation. Sixty out of 520 FRGP spots were identified as tissue-specific changes of the DNA methylation state. One of the spots, which show a testis-specific appearance, was cloned and sequenced to identify the gene. The spot clone contained the segment of the quail orthologue of FOXF1 gene, one of members of the forkhead gene family of transcription factors. The FOXF1 gene encodes the winged helix class of DNA-binding protein and is expressed in lung and placenta. The RT-PCR analysis of quail mRNAs from various tissues revealed that the quail orthologue is also lung-specific expressed. Thus, FRGP using methylation-sensitive restriction enzyme can offer a mean for detecting systematically the gene in which the state of DNA methylation.
キーワード:
DNAメチル化、CpGアイランド、遺伝子発現、メチル化感受性制限酵素、PCR法、蛍光標識、二次元電気泳動法
シトシンのピリミジン環5位にメチル基が付加した5-メチルシトシン(5mC)は、脊椎動物のゲノム中に見出される唯一の生理的修飾塩基であり、その出現はCpG配列に限られている。5mCは化学的に不安定であり、脱アミノ反応を起こしてチミンに変換されやすく、CpG配列はTpG配列へと定常的に変換されていると考えられている。脊椎動物のゲノム全体では、GC含量は約40%と低く、CpG配列も塩基組成から確率論的に期待される20〜25%程度しか存在しない。しかし、ゲノム中には非メチル化CpG配列の密度が高く、GC含量も60〜70%と非常に高い領域が散在している。このような領域はCpGアイランドと呼ばれており、すべてのハウスキーピング遺伝子や約40%の組織特異的遺伝子の転写調節領域あるいはその近傍に存在することが示唆されている1-3) 。また、Eag I(C↓GGCCG)やBssH II(G↓CGCGC)などのCpG配列を含むGC塩基のみからなる配列を切断する制限酵素は5mCを含む認識配列を切断できないという特性(メチル化感受性)を有しており、その認識配列はCpGアイランド中に高頻度で存在している 4)。
ゲノムDNAのメチル化は、遺伝子の発現抑制に関与していることが古くから知られていたが、最近になって遺伝子機能抑制の二つの分子機構に関与していることが明らかになってきた。一つは 5mCを認識して結合するメチル化CpG結合タンパク質(MeCP2)が、遺伝子の転写調節領域に結合して転写因子の結合を抑制する機構である5)。他の一つはヒストン脱アセチル化酵素と複合体を形成したMeCP2が5mCを認識し、ヒストン脱アセチル化酵素の作用によってメチル化部位近傍のクロマチン構造が凝縮して転写が抑制される機構である6 -7)。これらは互いに独立した現象ではなく、密接に連携しながら、ゲノム中の各座位の遺伝子発現を制御していることから、ゲノムDNAのメチル化が遺伝子発現調節機構の最上位に位置するものと考えられている8)。これらのことから、CGメチル化感受性制限酵素による切断片は全ゲノム領域から活発に転写されている遺伝子を探索する際の目印となるものと考えられる。
1990年代初めにゲノム全体を高速に検索するgenomic differential cloning法として、Restriction Landmark Genomic Scanning(RLGS)法9)およびRepresentational Difference Analysis(RDA)法10)が相次いで開発された。RLGS法はゲノム上の位置指標となるランドマーク制限酵素切断部位(restriction landmark)を放射性標識し、二次元電気泳動によって検出される数千にも及ぶスポットの差異を検索する方法である。他方、RDA法は制限酵素消化とPCRによってゲノムの複雑度を1/100〜1/10にしたampliconと呼ばれるPCR産物(representation)を作製し、 amplicon間での競合的ハイブリダイゼーションによりゲノム差異を検索する方法である。RLGS法ならびにRDA法は強力なge nomic differential cloning法であり、様々な遺伝子探索に多用されている 11-14)。しかしながら、両方法ともにゲノム変異の検出工程あるいはクローニング工程において一長一短がある。
筆者は、RLGS法およびRDA法からそれぞれrestriction landmarkおよびrepresentationという概念を導入し、新たなgenomic differential cloning法としてFluorescence Representational Genomic Profiling(FRGP)法を考案・開発した。FRGP法とは、制限酵素断片をPCRによってサイズ選択的に増幅するとともに、ランドマーク制限酵素切断部位のみを蛍光標識した後、二次元電気泳動によって展開したスポットパターン(ゲノムプロファイル)からゲノム差異を検出する方法である。本法の考案に際しては、@多量のDNAサンプルを必要としないこと、A放射性標識を用いずに一度に短時間で多数のゲノム座位を視覚化できること、 B煩雑な操作によらずに変異DNA断片が確実にクローニングできることなどに留意した。
Fig.1に示すように、FRGP法は@ゲノムDNA抽出、Aランドマーク制限酵素(制限酵素1)消化、B制限酵素2による再断片化、 C制限酵素切断部位への特異的アダプターの連結、DFITC標識プライマーによるPCR、E一次元アガロースディスクゲル電気泳動、 F制限酵素3によるゲル中消化、G二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動、H蛍光イメージアナライザーによるスポット検出という 9つの工程からなる。
このFRGP法の中で最も注目されるのが、5番目のPCRの工程である。この工程は、制限酵素断片長の違いをPCR産物の存在の有無に転換するrepresentationという概念、ならびに特定の制限酵素切断部位のみを視覚化してゲノム上の位置指標とするrestriction landmarkという概念の両側面を兼ね備えている。実際の操作では、ランドマーク制限酵素切断部位に特異的なプライマーの5'末端のみをFITC標識し、約2kb以下のDNA断片のみが指数関数的に増幅するような条件下でPCRを行っている。Fig.1によると、DNA断片CとDはランドマーク制限酵素切断部位がFITC標識されたPCR 産物(Amplicon CとD)を生じ、DNA断片AはFITC標識されていないPCR産物(Amplicon A)を生じる。しかし、DNA断片BはPCR増幅限界鎖長よりも長いために増幅されない。次に、二次元電気泳動によってPCR産物を分離・展開すると、Amplicon D、ならびにAmplicon Cに由来する制限酵素3による切断片(xとyの長さの断片)は蛍光検出によって視覚化されるが、Amplicon Aは検出されない。したがって、サイズ選択的に増幅された制限酵素断片のうちランドマーク制限酵素切断部位を有するもののみによってゲノムプロファイルが構成されることになる。また、検出されるスポットはPCR産物であるために容易にクローニングすることができる。
脊椎動物の体は、形態的・機能的な違いが著しい約200種類の細胞から構成されているが、元をたどれば1個の受精卵にたどり着く。受精卵は分化全能性をもっているが、発生の進行に伴って細胞系列の限定された遺伝子群だけが発現し、その他の遺伝子群の発現は抑制され、細胞の種類に特徴的な性質が備わるとされている。つまり、ゲノムの塩基配列の変化を伴わずに遺伝子機能が選択的に活性化あるいは不活性化される分子機構が存在する。この機構は後成的遺伝子発現修飾(epigenetics)と呼ばれており、その中心的な役割をゲノムDNAのメチル化が担っているものと考えられている。
筆者は、ウズラ雄1羽の脳、心臓、腎臓、精巣より抽出したゲノムDNAを材料として、ランドマーク制限酵素にCGメチル化感受性制限酵素Eag I、二次元展開制限酵素にHinf Iを用いたFRGP法により組織特異的遺伝子の単離・同定を試みた。4組織のうち精巣のゲノムプロファイルをFig.2に示している。4組織のゲノムプロファイルにはそれぞれ約520個のスポットが検出され、これらのうち60個に組織特異的なスポットの有無あるいは蛍光強度の差異が認められた。同一個体の各組織から抽出したゲノムDNAを用いていることから、スポット変異が塩基置換によって生じた切断片長多型であるとは考えられず、Eag I認識配列中のメチル化状態の差異に起因するものと考えられた。
変異スポットのうち精巣ゲノムにのみ検出されたスポット QTEH56(Fig.2の矢印、Fig.3)をプローブとして脳、肺、心臓、肝臓、膵臓、腎臓、浅胸筋、精巣についてサザンブロット解析を行ったところ、肺と精巣にはゲノム差異の起因となったEag I認識配列が非メチル化状態にある細胞が特異的に存在することが明らかとなった。また、QTEH56の塩基配列解析の結果、ヒトの肺や胎盤で特異的に発現している転写因子フォークヘッドファミリーの1つであるForkhead Box F1(FOXF1)と非常に高い相同性を示し、QTEH56はFOXF1 遺伝子のウズラオーソログの一部であることが明らかとなった。さらに、サザンブロット解析に用いた8組織についてRT-PCR解析を行ったところ、Fig.4に示すように肺においてのみ強いシグナルが認められた。これらの結果より、 FOXF1遺伝子はウズラにおいてもCpG配列のメチル化によって転写調節がなされ、肺で特異的に発現していることが明らかとなった。
以上のようにFRGP法は一度に多数のゲノム差異を視覚的に捉え、そのゲノム差異から容易に遺伝子にたどり着くことが可能である。本法の利点として次のような点が挙げられる。@1枚のゲル上に500個以上のスポットとしてrestriction landmarkを検出することができる。A異なる制限酵素の組み合わせを用いることで解析するゲノム領域を拡大できる。Bスポットの蛍光強度が restriction landmarkのコピー数を反映しており、diploidとhaploidの識別も可能である。C認識配列にGC塩基が豊富な制限酵素を用いると、遺伝子転写単位の近傍に存在するとされている CpGアイランドを特異的にスクリーニングできる。DCGメチル化感受性制限酵素を用いると、ゲノムDNAのメチル化状態をスクリーニングできる。
従って、本法はoligogeneやpolygeneの量的・閾値的な効果によって左右される量的形質や成人病(通常疾患)などの多因子遺伝形質のゲノム解析に有効であると考えられる。現在、1枚のゲル上で多検体のゲノムプロファイルを作成できる多重蛍光標識 FRGP法についての検討も行っている。
参考文献
1) F. Larsen, G. Gundersen, R. Lopez and H. Prydz, Genomics, 13, 1095 (1992).
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12) S. Komatsu, Y. Okazaki, M. Tateno, J Kawai, H. Konno, M. Kusakabe, A. Yoshiki, M. Muramatsu, W. A. Held and Y. Hayashizaki, Biochem. Biophys. Res. Commun., 267, 109 (2000).
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14) K. Muller, H. Heller and W. Doerfler, J. Biol. Chem., 14, 14271 (2001).
著者紹介 | |
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氏 名 | 山下 秀次(Hideji Yamashita) |
所属 | 九州東海大学農学部 バイオサイエンス学科 講師 |
出身大学 | 鹿児島大学大学院連合農学研究科 |
学位 | 博士(農学) |
1)ウズラの組織特異的遺伝子の単離・同定
2)ニワトリの抗病性に関与する遺伝子の探索 3)精神神経疾患成因に関与するDNAメチル化機構の解明
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