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(Yuji Imaizumi) 名古屋市立大学 大学院 薬学研究科 |
[ Summary ]
High Throughput Screening (HTS) is getting a new massive wave in drug discovery by pharmaceutical industries. Although ion channels are attractive targets for therapeutic manipulation, assays of drugs acting on them do not always fit to HTS. It has been widely accepted that Ca2+ activated K+ (KCa) channels play the central roles in the negative feed back mechanism to regulate Ca2+ influx through voltage-dependent Ca2+ channels in excitable cells. Opening of KCa channels may enhance cellular protective mechanisms under pathophysiological circumstances. The usefulness of slow response voltage-sensitive fluorescence dye such as DiBAC4(3), an oxonol anion, for the assay of KCa channel openers in the scope of HTS was evaluated in heterologous expression system in which BK channel, one of three classes of KCa channels, was stably expressed. Using this screening system, some new terpenoid compounds having BK channel opening action were actually discovered from natural products and their derivatives. Further possible application of newly developed voltage-sensitive dyes and novel technologies to improve drastically HTS system for the discovery of seed compounds acting on specific ion channels is also discussed.
キーワード:
high throughput screening(高効率探索系)、ion channel(イオンチャネル)、voltage sensitive fluorescence dye(電位感受性蛍光色素)、Ca2+-activated K+channel(カルシウム依存性カリウムチャネル)、K +channel opener (カリウムチャネル開口薬)、gene transfection(遺伝子導入)、mammalian stable geen-expression system(哺乳動物遺伝子定常発現系)
医薬品シード化合物の探索法は最近の10年間で大きく発展し、 ロボット化したアッセイ系システムを用いて、ソースとなる数十 万検体の化合物から無作為に目的とする薬物活性を持つ化合物を 高速・高効率に探索する方式(high throughput screening; HTS)によることが多くなってきた。大規模なHTSの稼動に要する費用 とそれに拠って得られたシード化合物の有用性のコストパー フォーマンスに関しては議論のあるところであるが、大きな方向 性としてHTSが定着しつつあると思われる1)。 抗高血圧薬や抗不整脈薬などのイオンチャネル作用薬は臨床で使用されている(い わゆる医家向け)医薬品の売上高として全体の10%程度を占めて おり、この分野での新薬開発意欲も高いと言われている。従って イオンチャネル作用薬開発のためのHTSシステムは強い潜在需要 を有すると思われる。しかしGTP結合タンパク共役型薬物受容体 や酵素をターゲットとした作用薬開発の場合と異なり、イオン チャネル作用薬開発においては、DHP系Ca拮抗薬のように 3H-ラベル化合物のチャネル蛋白への結合実験が有効な場合を除くと、 高効率アッセイ系を確立することが困難な場合も多い。このこと もイオンチャネルに作用する新薬開発の障害要因になっていたよ うに考えられる2)。ここではbis-(1,3-dibutylbarbituric acid)-trimethine oxonol (DiBAC4(3))などのslow response voltage-sensitive fluorescence dyeを用いたイオンチャネル作用薬の効率的探索実験系の長所と問題点および展望について、当研究室の 研究対象の1つであるCa2+依存性K+ チャネル開口薬探索を例にして概述したい。
電位感受性蛍光色素
膜電位感受性蛍光色素を利用したアッセイがイオンチャネル作 用薬の高効率検索には特に有効な手法と考えられる。しかし膜電 位感受性蛍光色素自体は20年ほど前から開発され、主に生理・生 化学学系の研究に用いられてきたにもかかわらず、この手法を活 用した新薬候補化合物探索あるいは薬理学的検討についての結果 が学術誌に報告されるようになったのは、ごく最近である。現在 まで用いられてきた膜電位感受性色素を大別すると、膜電位感受 性と時間分解能からTable 1に示すような2種類に分類される。一方の色素は電位感受性が低い(100 mVあたり2-10%の蛍光強度変化)ものの反応は速く(fast response probe: di-4-ANEPPSやRH414など;時定数はミリ秒)、脳スライス標本の活動電位伝 播の検出などに用いられているが、新薬候補化合物の高効率探索 には現在のHTSシステムでは適していない。他方、電位感受性が より高い色素(slow response probe: oxonol系陰イオン化合物としてDiBAC4(3), carbocyanine系陽イオン化合物としてDiSC2(5)など;1 mVあたり1%程度の蛍光強度変化)は、電位変化に伴う蛍光変化が数十秒の時定数を持つため、活動電位や slow waveなど比較的速い電位変化を測定することは不可能であ るが、緩徐な膜電位変化を捕らえることはできる3) 。これをマーカーとして膜電位が消失した細菌数をセルソーターで定量し、抗 生物質等の効力を検定すること等にも利用されている 4)。イオンチャネル作用薬に関しては、ATP依存性K +チャネルを発現させた培養細胞において、K +チャネル開口薬及び経口糖尿病薬を効率的かつ定量的に評価するためにDiBAC 4(3)などが用いられている5)。次に述べるCa 2+依存性K+チャネル作用薬の検索にも活用され 始めている。しかし一方ではslow response probeによる薬効評価にはアーチファクトが入りやすいという報告もあり、製薬企業 におけるそれぞれのチャネル作用薬評価系での具体的な結果が論 文公表されることは少ないため、評価系としての妥当性は充分明 らかとなってはいない。
K+チャネルはNa+ やCa2+ チャネルと比較して、蛋白構造的な面からも、また活性化機構の面(電位依存型・リガンド活性型など) からも極めて多様性に富み、大まかに8種類ぐらいに分類される。
また、生体内分布に強い組織・部位選択性の見られる場合が多く、 様々な疾患・病態に関与しているため、選択的な薬物の標的として 魅力的である6,7,8)。Ca2+依存性K +チャネルは細胞内Ca2+濃度上昇により活性化されるK +チャネルであり、機能的には単一チャネルの大中小のコンダクタンスの違いからBK,IK,SKに分類される 9)。
細胞内へのCa2+流入は、神経・筋・膵臓ラ氏島 β細胞などの興奮性細胞においては主に電位依存性Ca 2+チャネルを介して行われ、化学伝達物質やホルモン遊離・収縮などの細胞機能を発揮するため の情報伝達系で最も重要なステップである。同時に過剰な流入は Ca2+過負荷による細胞障害をもたらすため、殆どの興奮性細胞種 はNa+チャネルやCa2+チャネル活性に負帰還を掛ける機構を有す る。Ca2+依存性K+チャネルは細胞内Ca 2+濃度上昇により活性化され、膜電位をK+ の平衡電位(-80 mV程度)に傾ける(過分極させる)ため、活動電位の再分極相や後過分極あるいは静止膜電位 の過分極を引き起こす。過分極はNa+チャネルやCa 2+チャネルを抑制し、活動電位発生や定常的なCa 2+流入を抑制するので、結果として細胞内Ca 2+濃度は低下する。従ってCa2+活性化K +チャネルは細胞内Ca2+過上昇の負帰還機構の好適な担い手となり得る10)。
ここではBKチャネルの機能と作用薬についてごく簡単に述べる。 BKチャネルは中枢神経および血管を始めとする臓器全ての平滑筋、 腺細胞に高発現しており、それぞれに重要な機能を担っている。
イオンチャネル本体を形成するBKαサブユニットは遺伝子多型が あるものの基本的に1種類であるが、機能調節因子である βサブユニットは現在4種類が知られ、組織特異的に分布している。4量体 αサブユニットのそれぞれにβサブユニットが結合し、機能的BK チャネルを形成すると推測されている。主に平滑筋に存在している BKチャネルのβ1サブユニットのノックアウトマウスが作成された ところ、BKチャネル機能の低下により血管平滑筋が収縮気味とな り、高血圧を発生している事がわかった11)。逆にBKチャネルの活 性を上昇させる薬物(開口薬)は高血圧・膀胱過敏症などの平滑筋 緊張度の上昇した疾患に有用ではないかと推測され、NS-1619の 誘導体の開発が試みられている(Fig.1)。BMS-189265が脳血栓 による虚血部の神経保護に有効であることも報告された12)。これまで検討された合成化合物は類似した化学構造に限定され、 αサブユニットに作用する。しかし実際に臨床利用されるBKチャネル開口 薬はまだ得られていない。例えば主に脳・神経に発現する β4サブユニット13)をターゲットとしたβ4選択的BKチャネル開口薬など は極めて魅力的である。Estradiolなどはβサブユニットに作用 してBKチャネル開口作用を示すが14)、特定の βサブユニットだけに作用するわけではない。特異的なBKチャネル開口薬の開発には新規 の化学構造を見出すことが重要と考えられるが、そのためには高効 率の探索系が必須となる。
これまでBKチャネル作用薬の高効率探索には125 Iラベルされたペプチド性特異的拮抗物質のカリブドトキシン(ChTX,サソリ毒 成分)のBKチャネルへの結合阻害実験が用いられることが多かっ た15)。しかし、その方法で見つけられたdihydrosoyasaponin Iやmaxikdiolなどの天然物は、βサブユニットに結合して作用を発 揮するという特徴はあるもののBKチャネルへ細胞質側からのみ 作用し、しかも細胞膜透過性が低いため、シード化合物とは成り 得なかった。一方、先に示したNS-1619などの合成化合物は 125I-ChTX結合阻害実験では充分な探索ができず、非効率的な電気生 理学的実験が主に用いられてきた。
依存性K+チャネル発現細胞の膜電位測定
我々は大コンダクタンスCa2+依存性K +チャネル(BKチャネル)αサブユニットと平滑筋型 β1サブユニットを単独あるいは共発現させたHEK293細胞(HEKBK α及びHEKBKαβ1)において、BKチャネル開口作用を持つ化合物の作用を、DiBAC 4(3)による光学的膜電位測定とパッチ電極を用いた膜電位・電流固定法を併用し て評価し、DiBAC4(3)による膜電位評価の妥当性とHTSへの応 用性を検討した16)。同時に細胞内Ca2+ 濃度もFura 2あるいはFura 2-AMを用いて測定した。
Fig.2に示すようにラット子宮平滑筋由来BKα(U55995)および β1サブユニット(AF020712)の遺伝子を哺乳動物細胞への発現ベ クターであるpcDNA3.1(+)とpcDNA/Zeo(+)にそれぞれ組み込 み、HEK293細胞に導入した。G418/Zeocin耐性細胞を選択す ることにより定常的にこれらのサブユニットを単独あるいは共発 現させたHEK293細胞(HEKBKα及びHEKBKαβ1)を作成した。機能発現は単一チャネル電流記録により、 αサブユニットは90%以上、α+β1サブユニットは80%以上の細胞で発現していること を確かめた。イオンチャネル作用薬のHTSにおいて最も重要なの は、対象となるチャネルの定常発現効率を高く保つことである。例 えば探索試験に用いる全細胞のうち少なくともBKαを機能発現し ている細胞が90%以上占め、BKαβ1発現細胞は平均40%(残り 50%はBKαのみ)しか機能発現していない場合、Fig.2のように BKαとBKαβ1に対する作用の差から、β1をターゲットとする化 合物を見出すのはかなり困難である。しかし定常発現系で2種類 以上の遺伝子を同時に機能発現した細胞を70%以上の確率で得る ことは大量培養の場合において、一般的にそれほど容易ではない。 1つのベクターに2種の遺伝子(例えばα及びβ、サブユニット) を同時に組み込んでの発現も行われているが、ごく限られた例に とどまっている。HTSシステム構築の際にアキレス腱となる場合 が多い。
DiBAC4(3)は陰イオンであるがlipophilicであり 17)、静止電位においても細胞膜を通過して内にも取り込まれて細胞質蛋白と結 合すると推定される18)。励起光(490 nm)照射により発する蛍光(520 nm)は蛋白との結合により寿命が著しく増大する。細胞が 脱分極すると細胞内へDiBAC4(3)の分布が増すため蛍光が増大す る。100 nmol/lのDiBAC4(3)を含む外液にHEK293細胞を20 分間浸して色素を取り込ませた後、色素の存在下で実験を行った。 490 nmの励起光を用いて、505 nmのダイクロイックミラーとフィルターで選択した520 nm以上の蛍光画像をイメージングシステム(ARGUS-HiSCA, 浜松ホトニクス)により取得した。細胞内Ca2+ 濃度測定は10 μmol/lのFura 2-AMを含む外液に20分間浸した細胞を用いて、色素非存在下で励起は340および380 nmの紫外光により行い、480 nmでの蛍光画像を取得した。場合によっては同時にホールセルパッチクランプ法による電流記録を 行った。
電位固定下に過分極を生じさせると、電位変化に対し最も蛍光 強度変化の大きい電位領域(-30 mV付近)で蛍光の減少が観察された。さらに、実験プロトコールの最後に外液K + 濃度を140 mmol/lに上昇させ、電位固定を外すと膜電位はほぼ0 mVになる。この時の蛍光強度をFKとし、各保持電位での蛍光強度Fとの比(F/ FK)の関係を求めたところ、ボルツマン式に適合した定量的関係が 見出された。(Fig.3)。さらにこのキャリブレーションが妥当か(実 用可能か)を検討するため、電極法を用いて実測した膜電位とそ の時のF/FK値の関係をプロットすると、キャリブレーションと良 く適合し、定量的関係が見出された。HEKBKαβ1では静止膜電位 がnative HEKより深く、BKチャネル抑制薬の1 mmol/l tetraethylammoniumにより脱分極した。HEKBKα/αβ 1においてEvans blueによるBKチャネル開口作用を介した過分極は、その青色に阻害されることなく測定された。 Slow response voltage-sensitive dye の欠点は、当然のことながら時定数約30秒という時間分解能の悪さにある。HEK293細 胞にもともと存在するムスカリン受容体をアセチルコリンで刺激 し、細胞内Ca2+濃度を上昇させると、BKチャネルが活性化され 過分極を示すが、電極を介して直接測定した速い過分極にくらべ、 DiBAC4(3)による信号は遥かに遅く、一過性の反応は捉えられな い。むしろ細胞内Ca2+濃度変化を反映するFura 2のシグナルの方が遥かに変化が速いことがわかる。 HEKαβ1では青色素のEvans blueによるBKチャネル開口作用を介した過分極は測定できたが、BKチャネル開口試薬として汎用 されるNS-1619は開口作用と対応した速やかな蛍光減少に加え て、アーチファクトとして緩徐な減少も生じさせた。NS-1619は 細胞質蛋白とDiBAC4(3)の結合に影響を与えている可能性が高い
上記のHEKBKαβ1とDiBAC4(3)を用いた探索システムを利用 して、植物成分テルペノイドを中心に天然物及びその誘導体化合 物数十種類の内から、BKチャネル開口作用を有する化合物を探索 した19)。それらのうちピマル酸および関連ピマラン化合物に開口 作用を見出した。一方、ピマル酸と極めて効力の近いアビエチン 酸には作用が認められなかった(Fig.1)。インサイドアウトパッ チクランプ法を用いて検討したこれら化合物のBKチャネル開口 作用の効力は、DiBAC4(3)を用いた結果と非常によく良く一致し たので、同検索システムの有用性が裏付けられた。ピマル酸は HEKBKαとHEKBKαβ1で同じ程度単一チャネル活性を増強した ので、おそらくαサブユニットに作用すると推測される。また同 様にDiBAC4(3)を用いた高効率検索は、中コンダクタンス(IK)あ るいは小コンダクタンス(SK)のCa依存性Kチャネルαサブユニッ トをHEK293細胞に発現させた系でのchlorzoxazoneとその関 連化合物などの開口作用検出も充分可能であった。IKやSK2を発 現させたHEK293細胞では、10 μmol/lのピマル酸はチャネル開口作用を示さなかったので、Ca 2+依存性K+チャネルのうち、BKチャネルだけに作用することが明らかとなった。
ピマル酸及び関連ピマラン系化合物のBKチャネル開口作用は、 細胞外から投与しても有効であり、1 μmol/l以上で有意な作用が見られることから注目に値する。 αサブユニットに作用し、チャネルコンダクタンスには影響を与えずCa 2+依存性及び電位依存性を増大させることにより開口確率を高めると推測される。アビエチ ン酸は極めて類似した化学構造を持つにもかかわらず開口作用を 持たないことは、C13の残基の立体化学的位置関係が作用発現に 重要な影響を持っていることを示唆しているかもしれない。
尚、これらのテルペノイド類のなかにも本探索システムでアー チファクトを生じさせるものが数個あり、BKチャネルを発現させ ていないHEK293細胞でも有意な蛍光強度変化を生じさせた。し かしその変化の程度は軽度であり、常にnative HEKに対する作用も対照群として検出していればアーチファクトとして検出でき る。何よりも見過ごしの過誤よりも行き過ぎの過誤の方が、効率 的検索システムとしては罪が軽いので、実際のHTSでアーチファ クトが出た場合は更に別途の方法で検討することで製薬企業は対 応していると推測される。
本稿ではDiBAC4(3)や関連のslow response probeは、BKチャネル開口薬の高効率探索に有用であることを概説した。しか し、アーチファクトの発生を感知するためチャネルを発現してな い対象群でも必ず同時に検討する必要があることも明らかとなっ た。本探索システムを利用して、実際にBKチャネル開口作用を持 つピマル酸が天然物テルペノイドから発見された。ピマル酸及び その誘導体が有用なBKチャネル開口薬のシード化合物となる可 能性を更に検討している。
数十万検体から、目的の作用を持つシード種化合物をHTSによ り検索するには、精度(再現性)が高いことと共に1検索あたり の所要時間が短くコストが低いことが要求される。現在、国内外 のいくつかの企業が独自にイオンチャネル作用薬を含む新薬開発 用HTSシステムを開発・販売している。ATP感受性あるいはCa 依存性Kチャネルなどのように不活性化を持たないチャネル(一 部の種類は持つ)の作用薬に関しては、slow response probeを用いたこれらのHTSは極めて有効な手段と考えられ、既にかなり の製薬企業で利用されつつある。その場合の要件は、上記のよう にむしろ目的とするチャネルが少なくとも70%以上の細胞で定常 的に機能発現している系を確立することであろう。複数のサブユ ニットや関連蛋白を同時に定常的に高発現させた培養細胞系の大 量調整は容易ではない。例えばFig.2の最下段に示すように、 BKαβに加えて発現効率の比較的低い電位依存性L型Ca 2+チャネルのα1Cとβ2サブユニットを共発現させ、両イオンチャネルの 機能的相関を含めた探索を行う必要がある場合は、HTSシステム に繰り入れることは現在のところ極めて困難と思われる。
これらのHTSシステムを利用してイオンチャネル作用薬開発を 行う場合に、最も大きな障害を伴うのは、言うまでもなく速い活 性化・不活性化を持つ電位依存性イオンチャネルに対する作用薬 を検索する場合であろう。様々な工夫がされているが、少なくて も従来のslow response probeを用いて正確な検索が可能かどうかは、時間及び電位分解能の点から疑問が大きいように思われる。 最近DiBAC4(3) (acceptor) 及びcoumarin-labeled phosphatidylethanolamine (donor) を用いてFluorescence resonance energy transfer (FRET)に基づいた巧妙な膜電位変化記録法が報告されている 20)。非常に速い電位変化が蛍光強度比変化として捉 えられ、HTSにも実用化され得るので21)、やがて一般化する方法 かも知れない。
一方、最近slow response voltage-sensitive dyeにSYTOと呼ばれるcyanine系のカチオン色素が開発された(Table1;構造 式・分子量不明;Molecular Probe 社)。カチオン系色素としてはDiSCが従来から知られているが、細胞呼吸抑制作用などを有 するため、oxonol系色素ほど利用されていない。アニオン系とカ チオン系色素を同時に利用すると、膜電位変化がratiometricなシ グナルとして捉えることができ、定量性が格段に上昇しアーチ ファクト検出も容易になる可能性がある。実際、SYTO62と DiBAC4(3)を併用した例が、免疫系細胞のSK/IKチャネルをター ゲットとしたHTSシステムを含めて報告されている22) 。このようなFRETの応用や新規電位感受性色素の開発を含めた新たなHTS 系の確立は、新規イオンチャネル作用薬開発の可能性を飛躍的に 高めるものと期待される。
参考文献
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22) Farinas J, Chow AW and Wada HG, Anal Biochem., 295, 138 (2001).
著者紹介 | ||
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氏 名 | 今泉祐治 (Yuji Imaizumi) | |
所 属 | 名古屋市立大学大学院 薬学研究科 | |
細胞分子薬効解析学分野 教授 | ||
出身大学 | 東京大学薬学部・大学院修士 | |
学 位 | 薬学博士 | |
イオンチャネルの分子薬理・電気生理学 | ||
連絡先 | 〒467-8603 名古屋市瑞穂区田辺通り3-1
TEL & FAX: 052-836-3431 E-mail: yimaizum@phar.nagoya-cu.ac.jp |