全身性アミロイドーシスの新たな診断法
(Novel diagnostic methods for amyloidosis)

写真

安東由喜雄
(Yukio Ando)
熊本大学医学部臨床検査医学講座

 

[ Summary ]

Amyloidosis is a disorder of protein metabolism in which normally soluble autologous proteins are deposited in tissues as abnormal insoluble fibrils, which cause structural and functional disruptions. They are usually characterized by an intra- and extracellular deposition of amyloid in various tissues and are classified as localized or systemic amyloidoses. So far, 18 different amyloid precursor proteins have been discovered. It has been generally considered that amyloidosis is a rare disease. However, when we actively suspect amyloidosis in an unknown cause of a disease, more cases may be diagnosed. To make a diagnosis as an amyloidosis, histopathologic examination is one of the indispensable methods. Recently, (trans, trans) -1-bromo-2, 5-bis-(3-hydroxycarbonyl-4-hydroxy) styrylbenzene (BSB) has been focused in the recent attension as a useful tool for histochemical examinations. In this review, we refer to the possibility as a inhibitory effect of BSB on amyloid formation.

キーワード:
アミロイドーシス、BSB、家族性アミロイドポリニューロパチー、 Congo red、アルツハイマー病、トランスサイレチン、アミロイド線維

 

1)はじめに

 アミロイドーシスとは、アミロイドとよばれる線維状の難溶性 蛋白質が主として種々の臓器の主に細胞外に沈着することにより 機能不全を来す疾患単位である。沈着様式により全身性と局所性 の2つに大別され、前駆蛋白の違いにより更に細かく分類されて いる(表1)。最近、我々はラクトフェリンが原因となって角膜に アミロイドを形成した限局性アミロイドーシスを新たに発見し、 前駆蛋白はそれをあわせると合計18種類となっている 1)。一般にアミロイドーシスは比較的稀な疾患と考えられがちであるが、診 断不能な疾患を疑い、下記の手法で診断できるケースも少なくな い。本症の診断には組織学的な検討が不可欠であるが、近年我々 の研究グループと同仁化学により研究開発されている( trans, trans) -1-bromo-2,5-bis-(3-hydroxycarbonyl-4-hydroxy) styrylbenzene (BSB)は、各種アミロイドーシスの組織診断に有用であるばかりでなく、アミロイド沈着阻止剤としても有用であ る可能性がある。

アミロイドーシスの診断手順
 アミロイドーシス診断の最大のポイントは、臨床医が患者の臨床 所見や病歴などから、まずアミロイドーシスを疑うことである。古 典的な内科学の教科書には、原因不明な疾患は、アミロイドーシス である可能性が記されている。本症を疑った場合、まず生検可能な 部位から組織を採取し、Congo red染色を行なう2)。Congo red陽性所見が得られれば、原因蛋白を想定し、その抗体による免疫染 色を行なう。しかしCongo red染色は偏光顕微鏡下で検討しても、しばしば陽性か否かを判断しかねることがあるため、以下に述べる BSBなどの新たなアミロイド検出試薬の開発が必要となる。

1.アミロイドーシスの臨床診断

 アミロイドーシスの診断においては、何と言っても臨床症状が決 め手となる。全身性アミロイドーシスでは10年以上の透析歴を持 つ患者では必ず透析アミロイドーシス(DRA)を、慢性の炎症性 疾患を持つ患者に浮腫や蛋白尿、腎障害を伴った場合は二次性アミ ロイドーシスを疑う。特に慢性関節リウマチ症では、剖検により約 半数の患者の諸臓器にアミロイド沈着が認められることから、本症 の合併を強く疑う必要がある。また、発熱や全身倦怠感を強く訴え る患者で、蛋白尿がみられる場合、骨髄腫の有無に関わらず常に ALアミロイドーシスを鑑別診断に入れておく必要がある。ALアミ ロイドーシスは骨髄腫を伴うタイプと、伴わない原発性アミロイ ドーシスとに大別されるが、原発性アミロイドーシスは骨髄腫に伴 うタイプの約4倍存在するため、骨髄腫を疑わせる所見がない場合 でも上記の症状があれば本症を疑う必要がある。家族性アミロイド ポリニューロパチ−(FAP)では、トランスサイレチン(TTR)の 変異の種類に関わらず、常染色体優性遺伝の形式をとるため、家族 歴が重要となる。しかし、弧発例も存在することから、下痢・便秘 などの消化器症状、四肢末梢の感覚・運動障害、起立性低血圧、発 汗障害などの自律神経障害などの症状が主症状である場合、本症を 疑う。また高齢者において、正常のTTRがアミロイドの原因蛋白 となり、主として心不全、心肥大などを起こす老人性アミロイドー シス患者が存在することもわかって来ているので、原因不明の高齢 者の心疾患は本症を疑ってみる必要がある3)。 限局性アミロイドーシスにおいては組織に限局した腫瘤、結節が 悪性の増殖パターンを示さず、H-E染色などで無構造なピンク色 に染まる物質が検出された場合、本症を疑い、まずCongo red染色あるいは後に述べるBSB染色を行う。

2.アミロイドーシスの組織診断

 アミロイドーシスの確定診断は、まず生検材料からアミロイド を病理組織学的に証明することにより始められる。一般的には、下 記A〜Cが行なわれるが、より確実な診断を必要とする場合には Dまで行なう。

A. ヘマトキシリン・エオジン(H-E染色)

  H-E染色では淡ピンク色の無構造な物質として認められる。

B. アミロイド特殊染色

  アミロイド沈着部位はCongo red染色で赤紫色に染まり、その配向性のため偏光顕微鏡下でアップル・グリーンの複屈折を示 す。Congo red染色で赤紫色に染まっても複屈折性を呈さない場合は、通常アミロイド沈着とはみなさない。組織沈着アミロ イド量が比較的少量であった場合、アミロイドの沈着の有無の 判断がしばしば困難なことがある。最近、Congo red誘導体であるChrysamine-G、X-34、BSB( (trans, trans),-1-bromo-2, 5- bis- (3-hydroxycarbonyl -4-hydroxy) styrylbenzene )(図1)といった物質を用いたin vivoの系でのアミロイド検出法がアルツハイマー病における老人斑のアミロイドの検出など に利用され、注目されていたが、中でもBSBは後述するごと く、脳のみならず全身性アミロイドーシスの診断薬として有用 であることが明らかとなっている。

C. 免疫染色

  アミロイドの存在が証明された後、そのアミロイド線維を構成 する前駆蛋白に対する抗体を用いて免疫染色を行ない、アミロ イドーシスの病型を決定する(各抗体の適正使用濃度について はカタログや文献等を参照のこと)。

D. 電子顕微鏡による線維状物質の確認

  電子顕微鏡下では、多くのアミロイド線維は幅8〜14 nm、長さ30〜1000 nmの枝分かれのない周期的へリックス構造を有する細線維の集簇として認められる。

E.その他の特殊な組織診断

  ABOの血液型は毛髪を試料とし、ABOの抗体を用い組織学的 に血液型を診断することが出来る。我々はこの事実に着目し、 異型TTRに対するmonoclonal抗体を用いた免疫染色で、毛 髪髄質の異型TTRを同定することにより、FAPを診断するこ とが出来ることを証明した4)。本法は、FAP以外にも毛髪に存 在する様々な異常蛋白を検出する画期的な診断法として有用で ある可能性がある。

F.BSBによるアミロイドーシス診断の有用性

  BSBは、Congo red誘導体で、lipophilicであることから、in vivoで投与した場合、血液脳関門を通過し、アルツハイマー 病のモデルマウスに本誘導体を静注すると脳内のアミロイド組 織に集積することが知られている。またその構造にベンジジン 構造を持たないことから、将来的にヒトに投与した場合、発癌 性などの問題性が少ない可能性が高い。そこで我々はBSBを 用いて、全身性アミロイド−シスにおいてin vitroおよびin vivoでの有用性を検討した。図2 に示す如く、BSBは検討し た全ての全身性アミロイド−シスの組織において、沈着アミロ イドをCongo red染色よりもより鋭敏に検出することに成功した。in vivoでの有用性を検討するため、結核死菌を用いて 二次性アミロイド−シスを誘起したマウスにBSBを静注した ところ、沈着アミロイドにBSBが集積することも判明した (図3)。BSBの構造の中のBrは、化学修飾が可能なことから、 これをRIラベルしたヨウ素などに置換すると、シンチグラ フィーとしてアミロイド沈着の検出に有用である可能性が考え られる。

3.アミロイドーシスの生化学的診断

 多くのタイプのアミロイドーシスでは、血液、尿などの生化学 的検査データにより診断が確定する可能性は低い。しかし、多く の場合、病態解析の重要な情報となり、いくつかのタイプのアミ ロイドーシスでは、これらの所見が治療効果の判定や病態を把握 する有用なマーカーとなる。

A. 血液生化学検査

(a) ALアミロイドーシス

 ALアミロイドーシスにおいては、単クローン性の免疫グロブリ ン産生による血清中のM蛋白の出現がみられる。以下に示す所見 は、アミロイドーシスの確定診断になることはないが、病態把握 や治療効果のマーカーとして有用である5)

 ・血清蛋白レベル

 A/G比の減少を伴う蛋白の異常高値がみられた場合、まず多発 性骨髄腫が疑われる。しかし、発症初期には血清、尿ともに正常 所見を呈することも多く、さらに原発性ALアミロイドーシスの場 合、蛋白の高値を認めないこともあるため注意が必要である。そ の場合は免疫組織診断が重要な決め手となる。

 ・血清蛋白分画

 ALアミロイドーシスを疑った場合、電気泳動法により血清の蛋 白分画を調べる。α2 〜 γ 領域にシャープなピークが認められた場合、M蛋白血症を疑う。M蛋白の比率の減少は、病態把握や治療効果の マーカーとして有用である。血清でなく血漿を用いた場合や、高度 の溶血血清では、偽M蛋白が現れることがあるので注意を要する。

 ・血清蛋白免疫学的検査

 M蛋白血症が疑われた場合、特異抗血清(抗IgG, 抗IgA, 抗IgM, 抗κ鎖, 抗λ鎖抗体)を用いて、電気泳動免疫固定法あるいは免疫 電気泳動法により、M蛋白の構成成分である免疫グロブリン鎖の 種類を同定する。

(b) FAPの診断

 FAPの場合、TTRレベルの上昇は認められないが、TTRのア ミノ酸変異型を同定する必要がある。方法としては、PCR-SSCP を用いた塩基レベルでの検出法、あるいは質量分析装置を用いた アミノ酸レベルでの検出法があり、最終的にはシークエンスによ り変異残基を同定する。

塩基変異の検出

・PCR-SSCP (single-strand conformation polymorphism) 法

 塩基変異に伴う分子内高次構造の変化による泳動の違いを、RI を用いて検出する方法である。TTRは4つのエクソンから構成さ れており、その各々を切り出し、RIを加えた反応液でPCRを行 なう。熱変性後、非変性条件下で電気泳動を行ない、正常と異な る泳動パターンを示すエクソンをオートラジオグラフィーにより 検出し、変異があるエクソンを同定する。 ALIGN="JUSTIFY">・NIRCA (non-isotopic RNase cleavage assay)法

 標的DNAが転写したRNAを野生型RNAにハイブリダイズさ せた後、RNase処理を行うことで、変異が存在する場合、RNase 切断によるRNAの小断片が検出される。本法は、RI実験施設を 用いることなく変異エクソン及び変異のおおよその位置を検出で きるため、実際の臨床の場ではSSCPより有用である。

・PCR-RFLP (restriction fragment length polymorphism) 法

 既知の遺伝子変異の同定に用いる。たとえばFAP ATTR Val30Metの診断の場合、Val (GTG)がMet (ATG)に変異している遺伝子が存在すれば、制限酵素NSI 1で切断されるため、これにより診断が可能である。

アミノ酸変異の検出

 近年、我々は質量分析装置を用い、簡便でかつ高感度のアミノ 酸変異の検出法を開発した(図4) 6)。アミノ酸変異は質量の変化 として検出され、検出限界も鋭敏である。さらにこの方法は、大 量のサンプルの測定が短時間ですみ、未知のアミノ酸変異の予測 も可能であることから、遺伝子変異によるアミノ酸変化を検出す るスクリーニング法として優れている。また、正常、及び変異蛋 白の翻訳後修飾も検出できるため、本検査法は、病態解析に重要 な情報を提供するものとしてその有用性が期待されている。 ALIGN="JUSTIFY">B. 尿検査

 ALアミロイドーシスにおいては、尿中のBence-Jones蛋白の 証明が重要である。

 ・尿蛋白の検出および定量

 テープ法はアルブミンに特異的であり、通常BJPでは陰性とな るため、注意が必要である。必ずスルホサリチル酸法または煮沸 法を用いて検出する。また、血清の場合と同様に、治療効果や病 勢を把握するために必要な検査である。

 ・Bence Jones蛋白の検出および同定

 尿蛋白電気泳動法で、β〜γ領域にシャープなピークが見られた 場合、Bence Jones蛋白を疑い、血清の場合と同様に、特異抗血清を用いた電気泳動固定法や免疫電気泳動法により、その構成成 分を同定する。

C. 髄液検査

 アルツハイマー病において、髄液中のタウ蛋白の上昇や、A β蛋白レベルの低下をELISAなどを用いて証明することが出来るが、 病態との関連は議論が分かれる。臨床診断としては、むしろMRI で他疾患を除外した上でのPETによる側頭・頭頂連合野での血流 量低下といった、画像診断が用いられている。また、アポリポ蛋白 E4アイソフォームをもつ群で本症の発症率が有意に高いことや、 本症患者の髄液中のTTRレベルが低下することも知られている。

4. BSBのアミロイド形成阻止能

 上記のごとく、BSBがアミロイドに親和性を持つことから、本 剤がアミロイド表面をマスクし、その形成に阻止的に働く可能性 を検討した。TTRを酸性条件下でインキュベーションすると数日 後にはアミロイド線維を形成するが、この系にBSBを添加すると 有意にアミロイド形成が阻止されることが判明した(図5)

5.おわりに

 以上、アミロイドーシスの診断およびBSBの有用性について述 べた。本症は、特異的とされる症状に乏しく、またその病型は多 岐にわたるため、原因不明の疾患として取り扱われているケース が未だに少なくない。従って有用な診断ツールを用い、速やかに 確定診断を行ない、早期に治療を開始することが望まれる。FAP では早期に診断が確定し、肝移植を行なえば症状の進行が停止す ることが証明されている。さらに研究が進めば、他のアミロイドー シスにおいても対症療法のみならず、根治療法の道が開けるもの と期待される。そのためには、何事もまず本症を疑い、正確に診 断することから始めなければならない。

参考文献

1) Ando Y, Nakamura M, Kai H et al., A novel localized amyloidosis associated with lactoferrin in the cornea. Lab. Invest., (2002).

2) 石原徳得:アミロイドーシス シンポジウム難病研究の進歩Z,(1997).

3) 安東由喜雄、原岡克樹:アミロイドーシスの診断プロトコル. Medical Technology 29, 794 (2001).

4) 安東由喜雄、坂下直実、田中由也、安藤正幸,原発性アミロイドーシスの症 状, リウマチ科, 第11巻 第2号,(1994).

5) Ando Y, Anan I, Suhr O, Holmgren G, et al., Detection of a variant protein in the hair: A new diagnostic method in familial amyloidotic polyneuropathy (FAP) (Met30) Br. Med. J., 316, 1500,(1998).

6) Ando Y, Ohlsson PI, Suhr O, et al., A new simple and rapid screening method for variant transthyretin (TTR) related amyloidosis., Biochem. Biophys. Res. Commun., 228, 480,(1996).

著者紹介
氏 名 安東由喜雄(Yukio Ando)
所属 熊本大学医学部臨床検査医学講座
出身大学 熊本大学医学部(昭和58年卒)
学位 医学博士
現在の研究テーマ アミロイド沈着機構の解析と治療
自律神経疾患の病態解析と治療
趣味 映画鑑賞・エッセイを書くこと。
連絡先 〒860-8556 熊本市本荘1丁目1番1号
E-mail: yukio@kaiju.medic.kumamoto-u.ac.jp


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