ケミストからみたポストゲノム4

〜タンパク質相互作用の解析法(1)〜

九州大学工学研究院応用化学部門

片 山 佳 樹

 


1. はじめに

 ゲノム配列が明らかになり、ORFが推定され、遺伝子配列が同 定されると、多くの未知遺伝子が発見されてくる。さらに、それ らの中から、DNAアレイを用いた遺伝子の発現差解析により疾患 などに関連した遺伝子が同定されてくると、それらを用いた創薬 などの産業利用が期待される。しかし、実際にはそれら遺伝子の 機能が分からなければ、産業利用は困難である。遺伝子の機能と は、それから発現してくるタンパク質の機能であるが、これを調 べることは容易ではない。細胞内でのタンパク質の種類は10万種 ともいわれるが、これらのタンパク質が様々に相互作用しあい、極 めて複雑なネットワークを形成しているからである。ゲノム研究 の究極の目的も、このタンパク間ネットワークの解明にあるとい える。残念ながらこれを解決する手法はまだ存在しない。しかし、 これを解決していく一つの糸口は、2つのタンパク間あるいはタン パクとリガンド、DNA等の相互作用を網羅的に解析していくこと である。
 タンパク間の相互作用を評価する手法としては、これまで免疫 共沈降法1)や光アフィニティーラベル 2)、架橋剤を用いてタンパク複合体を架橋後クロマトグラフィーで単離するなどの手法が あったが、少量の試料では困難であった。近年、これらをハイス ループットで網羅的に行える手法が様々報告されている。それら は、大きく分けて以下のようなものである。

1)免疫共沈法などの概念の改良法

2)プロテインアレイを用いる手法

3)in vivoで行える手法

4)蛍光エネルギー移動を利用する手法

5)その他

これらの手法には、一長一短があるが、最近、3)に属する手法が 注目され、多くの手法が開発されている。これらの手法は、Yeast Two Hybrid System(Y2H)に代表される手法であり、対象とする 2つのタンパク間の相互作用が、あるタンパクの機能の再構成(回 復)を促すことを利用し、相互作用の有無を判定する。今回は、こ のカテゴリーに属する手法についてご紹介する。

2.Yeast Two Hybrid System(Y2H)

 Y2Hは、FieldsとSongにより初めて報告された手法である 3,4)。真核細胞において、遺伝子の転写を制御する転写制御因子は、分子内に標的遺伝子配列に結合するDNA結合ドメイン(DBD)と転 写を活性化するドメイン(AD)が機能的に独立に存在する。これを 利用したのがY2Hであり、酵母の転写活性化因子であるGAL4の DBDとADをそれぞれ、調べたい2種類のタンパク(PreyとBait) と結合したキメラタンパクを発現する遺伝子を設計し、酵母で発 現する。もし、発現した2種類のタンパクが相互作用すれば、各々 に結合したDBDとADが再び近傍に配置され、GAL4の転写活性 化能が回復する。酵母内に、β-ガラクトシダーゼ等の遺伝子を GAL4プロモーター下流に組み込んだレポーター遺伝子を導入し ておくと、回復したGAL4活性により、レポーター遺伝子が発現 し、その酵素活性を発色基質などで計測すると、タンパク間の相 互作用の有無が判定できる(Fig.1a))。
 この手法は、感度が高く、タンパクが精製あるいは同定できて いなくとも、遺伝子さえ手に入れば評価可能であり、ゲノム研究 向きである。最近、これを用いたハイスループット手法により、 6000種の酵母遺伝子ライブラリを用いて相互作用のマップを作成 するなど5)、千種を超えるタンパク間の相互作用を網羅的に解析す る試みがなされている6)。ただし、Y2Hには欠点もある。例えば、 相互作用は細胞核内で、しかも転写装置の近傍で起こらねばなら ず、細胞質や特に細胞膜のタンパクには不向きである。タンパク 自身が転写活性を持つ場合も正確な評価ができない。また、哺乳 類のタンパクを酵母内でアッセイすると、正確なタンパクの折り 畳みができなかったり、翻訳後修飾がなされなかったり、他の会 合に必要な因子が存在しないなどの理由で、実際には相互作用す るにもかかわらず、酵母内では相互作用しない場合がある。調べ たいタンパクがホモダイマーを形成する場合も、ヘテロダイマー に競合して、相互作用が同定されない可能性がある(Fig.1b))7)。加えて、本手法は感度が高い反面、擬陽性が極めて出易く、実際 には相互作用の判定はかなり困難である。

3.Y2Hの欠点を解決する種々の手法

3-1:酵母以外でのTwo Hybrid System

 前述したように、酵母内で哺乳類タンパクを発現した場合、実 際の相互作用が再現できない場合がある。また、そのタンパクが 酵母にとって毒性を有する場合もある。したがって、哺乳類由来 のタンパクを調べる場合は、Two Hybrid Systemは、哺乳類細胞で行うことが理想的である。しかしながら、一般的には哺乳類 細胞への遺伝子の導入効率は、酵母に比して低く、手間がかかる。 遺伝子が導入された細胞を選別する場合、成長促進遺伝子や細胞 表面抗原を用いると、より強い相互作用の組み合わせばかりが同 定されてきたりする8,9)。Shiodaらは、EBウイルス核抗原(EBNA) を発現したサルの腎臓上皮細胞株を用い、レポーター遺伝子とし て蛍光タンパクであるGFPを染色体内に組み込むことで安定化し た系を用いている10)。この細胞では、EBNA存在下で遺伝子複製 開始配列(OriP配列)を有するプラスミドは、比較的低コピーで染 色体外に安定に保たれ、転写できる。これを利用し、このプラス ミドにPrey−AD融合タンパクを組み込み、哺乳類での発現効率 を保障している(Fig.1c))。彼らはこの系の有用性を、Baitとし てSmad4、Preyとしてメラノサイト特異的転写活性化因子 (MSG1)を用いて検討している。Smad4とMSG1は、TGF-β依存性に相互作用するが、酵母中では相互作用しないためY2Hでは 陽性とならない。Smad4をGAL4DBDと融合した遺伝子と、MSG1をコードした遺伝子を共にトランスフェクトすると、 TGF-b依存性に、GFPの発現が認められている。

 これとは別に、Ras-GEF(GTP交換因子)であるhSosが細胞 膜にリクルートされて活性化することを利用したSRSシステムも 報告されている(Fig.1d)) 11-13)。すなわち、BaitタンパクをSosと結合しておき、パートナー(Prey)をv-Srcミリストイル化などの 膜局在シグナルと結合しておくと、PreyとBaitが相互作用する場 合にSosが膜にリクルートされて活性化する。このシステムを温 度感受性Cdc25株(Cdcは、酵母のRas-GEF)に用いると、対 象タンパクが相互作用する場合に限り、Cdc25が失活する温度で、 哺乳類hSosが活性化して生存することでモニターできる。Ras- GEF欠失哺乳類細胞などを用いれば、このシステムは哺乳類細胞 でも用いることができる。ただし、Sosは大きいタンパクであるた め、結合する調べたいタンパクが小さい場合に制限がある。また、 Baitの30%がSosと結合するとPreyが無くとも陽性を与えるな どの欠点がある。これを解決するため、より小さいタンパクである 哺乳類Rasを用いるシステム(RRS)も報告されている 14,15)。この 場合、Rasの膜局在化に必要なファルネシル化部位を除いた物を用 い、これにBaitを結合した遺伝子を、前述のSosの代わりに導入 する。Ras活性化の膜局在要求性は、Sosよりずっと厳密であり、 擬陽性の確率は大きく低減できる。

 哺乳類細胞ではなく、バクテリア(原核細胞)でTwo Hybrid Systemを行うと、別の意味でメリットがある。バクテリアは、増 殖速度が大きく、遺伝子導入効率も高い。また、多くの分子生物 学的手法は、バクテリアで最適化されている。Karimovaらは、大 腸菌のカルモデュリン依存性アデニル酸シクラーゼを1~224番目 までのアミノ酸配列断片(T25)と225~399番目までのアミノ酸配 列断片(T18)に分け、これにそれぞれPreyとBaitを融合し、そ れらが相互作用するとき、アデニル酸シクラーゼ活性が回復する ようにした16, 17)。これによりサイクリックAMPが合成されてく ると、CAP(サイクリックAMP結合タンパク)依存性プロモーター 支配下のレポーター遺伝子(β―ガラクトシダーゼ)が発現する (Fig.1e))。これをp−ニトロフェニルリン酸などの発色基質で検 出する。これは、Y2Hの変法というよりは、むしろ次項で述べる タンパク再構成アッセイ(Protein complementation assay)であるが、Y2Hのバクテリア版として評価されている。レポーター 遺伝子の下流に抗生物質耐性遺伝子を組み込んでおくと、簡単に セレクションできる。また、タンパク間相互作用がY2Hの様に核 内で起きる必要がないため、細胞内で起きる相互作用にも用いる ことができる。また、サイクリックAMPを仲介することで、シグ ナルが増幅されるメリットも考えられる。真核細胞のタンパクに 可能と報告されているが、もちろん翻訳後修飾などの問題で、あ る程度の制限はあると考えられる。

3-2:タンパク再構成アッセイ
(Protein ComplementationAssay, PCA)

 これは、酵素などを2つの断片に分解し、各々をPreyとBaitに 融合して、これらが相互作用した場合、元のタンパクが再構成さ れ、活性が回復することを利用して相互作用を同定するものであ る。Y2Hに比べ、ホスト特異的なプロセスや酵素が必要なく、利 用できる細胞のタイプに制限が少ない。またタンパク間相互作用 が、核内で起こる必要がない。さらに、タンパクの再構成を見る ので、PreyとBaitに結合する断片の方向が重要で、これを利用す れば、調べたタンパク間相互作用の方向性も評価できるなどの利 点がある。

3-2-1:PreyとBaitの相互作用で直接タンパクを再構成する タイプ(Fig.2a))

18)やβ―ガラクトシダーゼ(β-Gal) 19)を用いる例がある。

 DHFRを用いる例では、107番目のアミノ酸で切断した2つの 断片F[1,2]とF[3]に分けて用いる。これに結合するPreyとBait としては、2量化するロイシンジッパーや、p21RasとRafのRas 結合ドメイン、FK506結合タンパク(FKBP)と酵母ラパマイシン 標的タンパク(TOR2)のラパマイシン依存性結合、Epoレセプター タンパクなどが報告されている20)。検出としては、DHFR欠損株 での細胞の生存(タンパクが相互作用してDHFRが再構成されな いと細胞は死滅)やフルオレセイン標識メトトレキセート(fMTX) のDHFRへの結合を利用した蛍光法が用いられる20) 。細胞の生存で見る場合、バクテリアでアッセイすれば、DHFRを欠損させな くても、これを阻害するトリメトロプリムで処理するとよい。哺乳 類のDHFRは、この薬剤に対し1200分の1の親和力しかないた め、影響を受けずにアッセイできる。またfMTXを用いる場合、 THFRに結合しない場合、細胞から迅速に排除され、また、結合し たものは蛍光量子収率が4.5倍向上するので、感度良くDHFRの 再構成がモニターできる。この手法の利点は、蛍光強度から結合し たMTXを定量できるので、タンパク間相互作用のKd 値や、それに影響する薬剤の能力を定量的に評価できる点である。

 β-Galを用いる手法では、11~41番目のアミノ酸を欠損させた Δαと始めの788アミノ酸部分であるΔωの2つの断片を用いる。 この2つの断片自身の会合能力は低く、各々に結合したPreyと Baitの相互作用に依存している。FKBP12とラパマイシン依存性 にFKBPと結合するFRAPを用いた例がある19)

 これらの手法は、対象とするタンパクや用いる細胞に制限が 少なく、相互作用を直接評価できるのが利点だが、擬陽性が多い とも言われている。

3-2-2:タンパクの再構成と共にレポータータンパクの切断を 介在させる方法

 単純に、対象タンパクの相互作用が、それらに結合するレポー タータンパクの再構成を促すのではなく、相互作用に伴いレポー タータンパクが切断されてくるタイプもある。まず、Johnssonら は、ユビキチンを用いた系を報告している(Fig.2b)) 21)。ユビキチンは76アミノ酸からなる小さなタンパクで、プロテアソームを介 する不要タンパクの分解に関係する。真核細胞では、ユビキチン がタンパクに結合すると、ユビキチン結合タンパク(UBP)により、 迅速にユビキチン−タンパク結合部位で切断される活性がある。 ただし、このためにはユビキチンが正確にフォールディングされ ている必要がある22)。そこで、ユビキチンをN末端1~37残基 (Nub)とC末端36~76残基(Cub)に分割し、NubのC末端とNub のN末端にそれぞれ対象とするタンパクをリンカー介して結合し、 さらにCubのC末端にはDHFRなどのレポータータンパクを結 合する。もし、対象タンパクが相互作用すると、互いに接近する ユビキチンが正しい折り畳みを起こし、UBPにより結合している レポータータンパクが切断される。この切断を電気泳動などで確 認する。この手法では、Cubに結合しておくレポータータンパク の種類をいくつか用意しておくと、これにそれぞれ異なるタンパ クを結合させることにより、どのタンパクがどのくらい切断され てくるかで、Nubに結合したタンパクとの相互作用の強さを比較 することもできる。ただし、切断前後でレポータータンパクの機 能が変化するわけではないので、切断は電気泳動などでアッセイ せねばならず煩雑さが伴う。

 これに対し、Umezawaらは、タンパクスプライシングを利用 した手法を報告している23, 24)。これは酵母の発生期の翻訳産物か ら内部のタンパク(Intein)が正確に切り出され、その両側(外側 の)2つのタンパク断片(Extein)がライゲーションされる現象 を利用したものである。すなわち、このInteinを2つに分割し、そ れぞれにExteinを結合し、他方の末端にPreyとBaitを結合する と、それらが相互作用した場合、2つのIntein由来の断片が接近 し、元の形にフォールディングされることにより、スプライシン グ活性が回復し、Exteinがライゲートされ切り出される。この Exteinにレポータータンパクの断片を用いると、これによりレ ポータータンパクが再構成され、その回復した酵素活性などの機 能によりタンパク間相互作用が評価できる(Fig.2(c))。彼らはま ず、120kDaのVMA1翻訳産物のInteinである50kDaエンドヌ クレアーゼ(VDE)を128番目のアミノ酸で2つの断片に分けたも のに、蛍光タンパクであるEGFPを2つに分割した断片をExtein として結合し、反対側に調べたいタンパクをそれぞれ結合した 23)。モデル系としてカルモデュリンとそれに結合するM13ペプチドを 結合したところ、大腸菌内でのその相互作用に基づきEGFP由来 の蛍光の増大が見られる。この手法は、酵素基質などが要らない などの利点があるが、哺乳類細胞では感度が足りなかった。そこ で、Inteinとして酵母のDnaEタンパクを用い、レポーターとし てルシフェラーゼを用いて同様のシステムを構成することで、こ の問題を解決している24)。モデル系として、インスリンレセプター 基質1(IRS-1)とそのターゲットであるPI-3キナーゼのSH2ドメ インを用い、そのインスリン依存性の結合をCHO-HIR細胞内で 評価し、その有用性を報告している。ただし、実際にインスリン 刺激によりIRS-1がリン酸化されていると考えられる時間より、 本アッセイでIRS-1とSH2ドメインの相互作用が確認できるには 長い時間が必要で、また、他のインスリン非依存性リン酸化によ るバックグラウンド増加などいくつかの改善されるべき問題もあ るが、薬物やアゴニストのスクリーニングなどにも使える可能性 があり、興味深い。

4.タンパク間相互作用以外への応用

 これまでの手法は、いずれもPreyとBaitの相互作用が、別の タンパクの何らかの機能の変化を引き起こすものであるが、これ を応用すると、タンパク間の相互作用以外のアッセイにも適用で きる。

4-1:DNA−タンパク相互作用評価法(One Hybrid System) (Fig.3a))

 標的DNA配列に結合するタンパクを、ライブラリーから探索し たり、逆にあるタンパクが結合するDNA配列を探したりする場 合、対象タンパクに転写活性化ドメイン(AD)を結合し、レポー ター遺伝子の上流に調べたいDNA配列を結合しておくと、これが 対象タンパクと結合した場合のみ、レポーター遺伝子の発現が起 こり、容易にアッセイできる25, 26)。Wangらは、このシステムを用い、嗅覚細胞特異的な遺伝子の発現スイッチに関係する転写活 性化因子Olf-1を発見している26)。また、Paboらは、バクテリア でDNA結合性ZnフィンガータンパクのターゲットDNA結合配 列をこのシステムを利用してデザインしている25)

4-2:タンパクー小分子相互作用評価法(Three Hybrid System)(Fig.3b))

 前述のβ-GalやDHFR再構成を利用するPAC法では、ラパマ イシン依存性のFKBPとFRAPの結合が用いられたし、タンパク スプライシングを用いる方法では、インスリン依存性のIRS-1と SH2ドメインの結合がアッセイされている。これらは見方を変え れば、ラパマイシンやインスリン類似物質やアゴニストの標的タ ンパク結合のアッセイにも用いることができる。この考え方をさ らに発展させたのが、Three Hybrid Systemである27-32)。このシステムでは、レポーター遺伝子の上流の配列に結合するDNA結合 ドメイン(DBD)とリガンドAのレセプターを結合したHook、リ ガンドBのレセプターを転写活性化ドメイン(AD)と結合した Fish、リガンドAとBを化学的に結合した人工リガンド(Bait)を 用いる。HookとFishをコードする遺伝子を細胞に導入し、人工 リガンドを細胞内に投与すると、リガンドとそれぞれのレセプ ターの結合により、DBDとADが近傍に固定され、レポーター遺 伝子の発現が起こる。ここで、例えばリガンドAとHook内のレ セプターは既知の強力に結合するものを用いると、人工リガンド のBに相当する部分をコンビケムなどで種々合成して、Fish内の レセプターBに結合するリガンド分子を探索できる。逆に、リガ ンドAにリンクしたリガンドBに結合するタンパクをライブラ リーからスクリーニングすることも可能である。このシステムは、

初めにFK506ダイマーをリガンドとして報告された 27)が、LicitraとLiuは、Hook側のレセプターAにグルココルチコイドレセプ ターのリガンド結合ドメイン、Fish側のレセプターBにFK506 結合タンパク(FKBP12)を用い、人工リガンドとしてデキサメタ ゾンとFK506を化学的に結合した分子を合成して、この系の有用 性を示し、既知薬物の細胞内ターゲットの同定に使えると主張し ている28)。実際、Jurkat T細胞ライブラリーでFK506に結合するタンパクの同定を行い、ヒトFKBP12の2種類のバリアントを 3週間で見出している。既存の手法では、1年以上かかるという。 ただし、元からあるFKBPの競合により、会合能力の強いものし か見つからない問題もある。また、人工リガンドは、この例のよ うに疎水性のものはよいが、親水性のリガンドでは酵母の細胞内 に透過しないという問題もある。それでも、同様の系を用いて FK506合成アナログの性能評価やデキサメタゾンとメトトレキ セートを結合したリガンドを用いたシステム、ラパマイシンと FK506結合リガンドを用いて、Fishに結合したラパマイシン会合 タンパクに種々の変異を導入してのラパマイシンに高選択的な ミュータントのスクリーニングの試みなどが報告されている 29)

4-3:RNA-タンパク相互作用の評価法(Three Hybrid System)(Fig.3c))

 RNA-タンパク間相互作用の評価は、RNA-タンパク融合体が in vivoで合成できないので、Y2Hの直接の応用は難しいが、 Three Hybrid Systemを利用することで解決できる33)。すなわ ち、前述の系で人工リガンドの部分にRNA分子を用いる。その際、 RNAの半分は、既知タンパクに結合する配列を用い、もう半分に 調べたい配列を結合する。すると、その部分がFishのタンパクと 結合した場合にだけ、レポーター遺伝子の発現が見られる。例え ばこの系を利用して、線虫の3ユ-fem-3遺伝子の非翻訳領域に結合 して精子/卵子のスイッチを仲介するタンパクの探索などが行われ ている34)

5.おわりに

 以上、遺伝子を用いて細胞内(in vivo)でタンパク間やタンパク−リガンドなどの相互作用を評価できる手法について概説した。 これらの手法は、いずれもタンパクが同定されなくても遺伝子さ え取得できれば評価に供することができ、迅速性、感度、ハイス ループット化などの点で、既存の手法よりも優れている。しかし、 系によって、擬陽性の出易さ、利用できる細胞のタイプ、利用で きるタンパクのタイプなどに制限があるなど、それぞれ長所と短 所がある。にもかかわらず、これらの使い分けをして、ハイスルー プットの網羅的解析系にもっていけば、今後、タンパク機能の解 明、未知タンパクや未知リガンド、新薬や遺伝子配列の探索に大 きな力を発揮するものと期待できる。次回は、これらの手法以外 のタンパク相互作用の評価法についてご紹介する。

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