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イガイな万能表面修飾法株式会社同仁化学研究所 渡辺 栄治 バルク材料表面の化学修飾は、化学、生物学、材料科学や工学技術など多くの分野で重要な役割を果している。従来はイオンビームを用いた表面特異的な化学反応や自己組織化膜等が使用されてきたが、汎用的なものではなく、広い領域の材料に用いることはできなかった。例えばクロロシランやアルコキシシラン化合物は容易に酸化物表面を修飾することができるが、金属やポリマーフィルムに用いることはできない。 様々な材質の材料に適応可能な万能な表面修飾法として、Russelらはランダム共重合体の薄膜のクロスリンクに基づいた表面相互作用の制御と修飾方法を報告している1)。スチレンとメタクリル酸メチル、及び反応性のベンゾシクロブテンのランダム共重合体をスピンコート後、熱によりクロスリンクする。膜厚はスピンコート時のポリマー濃度で、界面相互作用の強さはスチレンとメタクリル酸メチルの比でコントロールすることが可能である。本手法により、金、シリコン、アルミニウム、ポリイミド、PET基板表面を同様に修飾することに成功している。 最近、更に容易に且つ応用範囲の広い汎用表面修飾法がMessersmithらによって報告された2)。Messersmithらは貝の一種であるイガイが濡れた面やPTFE表面など吸着し難い表面に張り付くことができる点に着目した。イガイの吸着タンパク質は3,4-dihydroxy-L-phenylamine(DOPA)とリジン残基を多く含んでいる。DOPAや他のカテコール化合物は無機化合物のコーティング剤として良く用いられているが、有機物表面への適用は難しかった。そこで、Messersmithらはイガイのように様々な材質の表面に吸着するためには、カテコール(DOPA)とアミン(リジン)が必要であると考え、両方の官能基を有するドーパミンを利用した方法を開発した(Fig.1)。 ![]() Fig.1 ドーパミンを用いる表面修飾法 ドーパミン水溶液(2 mg/ml, pH8.5)に基板を浸漬すると、高分子薄膜の自発的な堆積が起こる。これは、ドーパミンの酸化により5,6-ジヒドロキシインドールが生成し、それが重合してポリドーパミンが形成しているためである(Fig.2)。AFM観察の結果、膜厚は浸漬時間に依存し、24時間で50 nmまで増加した。XPSによる表面分析では、3時間以上浸漬した25種類の異なる材質の基板で基板特異的なシグナルが消失していることが確認され、窒素/炭素比はドーパミンと同様の値であった。ポリドーパミンの形成は、ゲル浸透クロマトグラフィーと飛行時間型2次イオン質量分析(TOF-SIMS)によって確認された。 ![]() Fig.2 ポリドーパミン及び2次反応の反応スキーム 本手法では、貴金属(Au、Ag、Pt、Pd)、金属の自然酸化膜(Cu、ステンレス、NiTi形状記憶合金)、酸化物(TiO2、SiO2、Al2O3、Nb2O5)、半導体(GaAs、Si3N4)、セラミックス、合成ポリマー(PS、PE、PC、PET、PTFEなど)の全ての材質の表面にポリドーパミンをコーティングすることが可能であった。 また、ポリドーパミンは2次的な反応が可能であり、非常に用途の広いプラットホームであることが明らかとなった。例えば、カテコール部の金属との結合能は、無電解メタライゼーションによって様々な材質(セラミック、ポリマー、金属)の均一な金属コーティングに利用できる。論文中ではニトロセルロースフィルム、コイン、プラスティック製サイコロの銅コーティングについて写真付きで紹介されている。 更に、ポリドーパミンは様々な有機物と反応し、機能性の有機膜を生成することが可能である。例えば、酸化条件下でカテコールはチオールやアミンとマイケル付加やシッフ塩基反応によって反応可能である。ポリドーパミン被覆基板をアルカンチオール溶液に浸漬すると、金基板上のそれと同様のアルカンチオール単分子膜が形成される。Messersmithらはこの単分子膜を「pseudo-SAM (pSAM)」と呼んでいる。オリゴエチレングリコールを有するアルカンチオールで作成されたpSAMは線維芽細胞を吸着し難く、これは金基板上のSAMの性質と同様のものであった。 このように、イガイから発想されたこの新しい基板修飾法は材質の如何に関わらず修飾が可能な万能な方法である。また、金属やアルカンチオールSAMで更に被覆できることによりその応用性は更に広がる。今後、様々な分野で利用されるものと期待される。 参考文献1) D. Y. Ryu, K. Shin, E. Drockenmuller, C. J. Hawker, T. P. Russell, Science, 2005, 308, 236. 2) H. Lee, S. M. Dellatore, W. M. Miller, P. B. Messersmith, Science, 2007, 318, 426. |
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