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水溶性テトラゾリウム塩を用いた酵母活性の測定
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塚谷 忠之 (Tadayuki Tsukatani)) 福岡県工業技術センター 生物食品研究所 食品課 |
[Abstract]
Brewing yeast strains have traditionally been used in food processing. Therefore, the measurement of yeast vitality is important to maintain proper fermentation and to produce high-quality food products. In this study, a method for the colorimetric assay of yeast vitality was developed using 2,3,5,6-tetramethyl-1,4-benzoquinone (BQ) and water-soluble tetrazolium salts. The metabolic efficiency of 2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQ by yeast cells was used as an index of yeast vitality. We demonstrated the reaction mechanism for the reduction of tetrazolium salts by yeast cells using spectrophotometric, electrochemical, and ESR methods. It became clear that superoxide anion radicals generated in the metabolic process of 2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQ reduced mainly tetrazolium salts to formazan dyes. A good linear relationship between the absorbance obtained by the proposed method and viable cell density was obtained. During the cultivation of yeast cells, the absorbance showed an almost anti-parallel change with that of glucose in yeast growth and fermentation, suggesting that the absorbance change reflected the vitality of yeast cells. The proposed method can provide a measurement of the yeast vitality in area of process control, such as proliferation and fermentation.
キーワード:酵母活性、水溶性テトラゾリウム塩、電子メディエータ、キノン
伝統的発酵食品の製造において、酵母等の微生物の生理状態を把握することは発酵を最適に制御するために極めて重要である。現在、酵母活性の測定法としてメチレンブルー染色法1,2)、スライドカルチャー法2)、acidification power test 2)、cumulative acidification power method3)、細胞内 pH測定法4)などその代謝活性に注目した方法がいくつか提案されている。この中で最も汎用されているのがメチレンブルー染色法である。メチレンブルーは細胞内に取り込まれた後、細胞内の酸化還元酵素の作用を受けて無色のロイコメチレンブルーになる。したがって、生細胞は染色されず、死細胞のみが染色される。酸化還元反応は呼吸という生命活動と密接に関係しているため、酵母等の生菌と死菌を区別するのに利用されている。しかし、この手法では染色具合の曖昧さが生じやすく、測定者による誤差が大きい。
我々は簡便かつ迅速な酵母活性の測定を目的として、酵母によるキノン類の代謝と様々な検出系(発色法、電気化学法、化学発光法)を組み合わせた活性測定法を開発してきた。この中でも発色法は最も汎用性に優れた方法と考えられる。そこで、本稿ではキノン類に代表される電子メディエータ及び水溶性テトラゾリウム塩WSTを利用した酵母活性測定法の開発とその発色反応機構の検証に関する研究を中心に紹介する。キノン類は細胞内NAD(P)Hとキノンレダクターゼをはじめとする細胞膜の酸化還元酵素の働きによりヒドロキノンへ還元されると考えられており、ここでいう細胞活性とは細胞内NAD(P)Hと細胞膜酵素活性に依存するものであると考えられる(Fig. 1)5)。NAD(P)Hは主にミトコンドリアで生産されると考えられており、呼吸や代謝活動を続けている間は作られ続けることから、微生物によるキノン類の代謝は生命活動と密接に関連していると考えてよい。したがって、このキノン類の代謝を検出できれば微生物の活性を把握することができる。
Fig. 1 |
Schematic representation of the proposed mechanism of cellular reduction of quinones. |
発色法は、酵母活性を測定する上で簡便性や汎用性の面から最も有効な手法と考えられる。そこで、我々は発色試薬として水溶性テトラゾリウム塩であるWST-1(同仁化学研究所製)を利用した酵母活性測定法の開発を行った。また、本法を酵母培養時における活性測定に適用した。
我々が開発した酵母活性測定法は、WST-1を含む50 mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁させた酵母(Saccharomyces cerevisiae)に対して電子メディエータとしてキノン類を添加し、一定時間インキュベーション後に得られるホルマザン色素を440 nmにおける吸光度測定に供するといった簡単な操作で行うことができる6)。Fig. 2は電子メディエータに2,3,5,6-tetramethyl-1,4-benzo-quinone(BQ)あるいは2-methyl-1,4-naphthoquinone(NQ)を用いた際の発色反応機構を示したものであり、以下のように説明できる。ベンゾキノンあるいはナフトキノンは酵母により代謝されて、それぞれヒドロキノン体を生成する。ナフトヒドロキノンはpH中性付近でも速やかに酸化され、その過程で生じるスーパーオキシドアニオンラジカル()がテトラゾリウム塩を還元してホルマザン色素が生成する(Fig. 2(B))。一方、ベンゾキノンから生じるヒドロキノンは中性pH付近では比較的安定でありこのままでは発色はみられないが、アルカリ条件下では速やかに酸化されるため、代謝後にNaOH水溶液を添加することで発色が生じる(Fig. 2(A))。WST-1は一連の反応で生成した
により還元を受けると440 nm付近に最大吸収波長を有する黄色のホルマザン色素を生成する(Fig. 3)。
Fig. 2 |
Reaction mechanism for the reduction of tetrazolium salt in the presence of yeast cells and electron mediators |
Fig. 3 |
Photographs of the formazan produced from WST-1. |
Fig. 4は、最適な電子メディエータの選択を行うために酵母に様々な電子メディエータを代謝させ、pH7.0あるいは代謝後にNaOH水溶液を添加してpH9.8で発色させた結果である。pH7.0ではほとんどのベンゾキノン類で発色がみられなかったが、ナフトキノン類、特に2-methyl-1,4-NQにおいて最も高い発色が得られた。一方、反応後にpH9.8に移行させた系では2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQにおいて最も高い発色度が得られた。そこで、電子メディエータとして2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQ及び2-methyl-1,4-NQを選択し、酵母数と発色度の相関関係を調べたところ、2-methyl-1,4-NQでは酵母数2.0×105〜4.0×106 cells/mlの範囲で測定が可能であったのに対して、2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQでは2.0×104〜4.0×106 cells/mlの範囲で直線性が得られ、2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQのほうが感度良く測定できることがわかった(Fig. 5)。
Fig. 4 |
Effect of electron mediator on the amount of formazans produced by yeast. |
Fig. 5 |
Cell proliferation assays using different methods with yeast cell line. |
では何故、2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQのほうが2-methyl-1,4-NQよりも感度良く測定できるのか?この感度の差は生成したヒドロキノン体の特性の相違によるものであると考え、pH7.0における2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQ 及び2-methyl-1,4-NQのヒドロキノン体の挙動について電気化学的手法を用いて検討を加えた。酵母により生成したヒドロキノン体は電極により直接酸化させることでモニターすることができる。まず、2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQを酵母に代謝させた場合、好気あるいは嫌気いずれの条件下においても、ほぼ直線的な応答電流が得られた(Fig. 6)。これは、溶存酸素が存在してもpH7.0では2,3,5,6-tetramethyl-1,4-hydroquinone(HQ)は比較的安定であることを示している。一方、2-methyl-1,4-NQを好気条件下で酵母に代謝させた場合、応答電流は直線性を示さず頭打ちしたが、嫌気条件では直線的な応答が得られた。さらに、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)やカタラーゼを共存させると応答の増加が認められた。この結果より、生成した2-methy-1,4-naphtho-hydro-quinoneは溶存酸素存在下で速やかに酸化されて減少するとともに、や過酸化水素などの活性酸素種が生じ、これらが酵母に酸化ストレスを与えていることが推察される。さらに、ここにはデータを示していないが、低密度(約103 cells/ml)の酵母に2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQあるいは2-methyl-1,4-NQを共存させ、24時間培養した際の増殖曲線を取得したところ、2-methyl-1,4-NQでは増殖が阻害されたのに対して、2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQでは無添加群と比べ若干の遅れはあるものの増殖がみられた。これらの結果から、2-methyl-1,4-NQを用いた場合、測定中に酵母が酸化ストレスを受け続けるため活性が低下し、測定感度の低下がもたらされたものと考えられる。これに対して、2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQは、pH7.0で酵母により代謝されている間は活性酸素種はわずかしか生成されず、酸化ストレスを受けることがないため、2-methyl-1,4-NQより有効な電子メディエータといえる。
Fig. 6 |
Time course for the oxidation current in the presence of yeast cells and mediators under various conditions. |
そこで、2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQ及びWST-1を用いた測定法を実際の培養系における酵母活性のモニタリングへ適用し、発色度の変化が培養過程における酵母の活性変化を反映しているかどうか、つまり、対数増殖期、定常期を経て死滅期へ至る過程を反映しているかどうかを調べた(Fig. 7)。菌体密度(660 nm)は時間の経過とともに増大していき、約24時間で菌体はフルグロースに達し、それ以降変化はみられなかった。一方、発色度(440 nm)は24時間で最大に達し、72時間までほぼ一定値を示したが、それ以降は低下がみられた。これは、72時間で培地中のグルコースがほぼ消費されたため、細胞内NAD(P)H量が低下し、その結果、キノンの代謝活性が低下したものと考えられる。このように得られた発色度は見かけ上の菌体密度とは異なり、対数増殖、定常及び死滅期における生命活動を反映したものであると考えられる。本法は、酵母の細胞数あるいは同一発酵系における活性変化を迅速かつ簡便に測定できる手法であり、様々な発酵食品の製造工程の管理への応用が期待できる。
Fig. 7 |
Time course for the absorbance, cell density, and glucose concentration. |
2,3,5,6-Tetramethyl-1,4-BQ及びWST-1を用いた発色反応はFig. 2(A)のような機構で起こっていると考えられる。そこで、電気化学的手法や電子スピン共鳴法を用いて発色反応機構の検証を行った。また、酵母による代謝産物であるヒドロキノン体の酸化特性を検証することで、本法において2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQが最も効率的な電子メディエータであることを明らかにした。
まず、Fig. 2(A)に示す2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQを電子メディエータとして用いた際の発色反応機構を立証するために、電子スピン共鳴法を用いて反応に関与していると考えられる及びセミキノンラジカルの検出を試みた(Fig. 8)6)。その結果、好気条件下において酵母により2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQを代謝させた際のDMPO付加体のESRスペクトルは、ヒポキサンチン/キサンチンオキシダーゼ系で生じる
由来のDMPO付加体のスペクトルと同様なものであった。さらに、酵母の2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQ代謝系にSODを添加して測定を行ったところスペクトルは消失した。この結果より、
が発色反応に関与していることが確認できた。一方、嫌気条件下で酵母により2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQを代謝させた後、アルカリ条件にするとセミキノンラジカルのスペクトルが得られ、さらに、上記の系を好気条件へ移行させたところ、スペクトルは消失した。この結果より、セミキノンラジカルも本反応に関与していることが確認でき、Fig. 2(A)の発色反応機構におけるラジカル種の関与を立証することができた。
Fig. 8 |
ESR spectra of superoxide anion radical and semiquinone radical. |
ところで、第2節の中で少し触れたが、ベンゾキノンから酵母により代謝されて生成したヒドロキノン体は中性pH付近では比較的安定に存在するため、電極を用いて電気化学的に測定することができる。したがって、この手法によっても酵母活性の測定が可能である。測定方法は、酵母を懸濁させた溶液に電極(作用電極:グラッシーカーボン電極、参照電極:銀・塩化銀電極、対極:白金電極)を挿入し、電子メディエータを添加して酸化電流をモニターするといった単純な系で行うことができる7)。WST-1を用いた発色法も同様に酵母により代謝されて生成したヒドロキノンを検出しているため、電気化学法と発色法により得られた結果には相関性があって当然のように思えるが、適用するベンゾキノンの種類により結果が著しく異なるという現象が見られた。Fig. 9は7種類の1,4-BQ誘導体を酵母に代謝させ、発色法及び電気化学法で測定した結果を比較したものである。この結果から検出されたヒドロキノン量がほぼ一致しているのは2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQのみで、他のベンゾキノンでは一致が見られないことがわかる。電気化学法では生成したヒドロキノンを直接電極でモニターしているので、正確な値と考えられる。したがって、発色法において何らかの影響で生成したヒドロキノン量に比例した発色度が得られていないものと考えられる。何故、そのような現象がみられるのか? 1つの仮定として、ヒドロキノンが酸化される過程で生成するがテトラゾリウム塩を還元する経路とは別に、
がさらに1電子還元を受けて過酸化水素が生成する経路があるのではないかと考えた。
Fig. 9 |
Comparsion of the amounts of hydroquinones measured by the colorimetric and electrochemical method. |
そこで、酵母による代謝産物である各ヒドロキノン体の酸化特性を調べるために、7種類の1,4-HQ誘導体をテトラゾリウム塩共存下でアルカリ条件において生じるホルマザン色素量及び過酸化水素量を測定した。Table 1は50 nmolの各ヒドロキノンから得られたホルマザン色素及び過酸化水素量である。2,3,5,6-Tetramethyl-1,4-HQではほぼ100%の効率でホルマザンが生成したのに対して、1,4-HQや2-methyl-1,4-HQではホルマザンの生成はほとんど起こらず、代わりに過酸化水素が生じることが明らかとなった。また、ジメチルやトリメチル体ではホルマザンと過酸化水素が一定の割合で生じた。さらに、ホルマザン量と過酸化水素量の合計が最初に加えたヒドロキノンのモル量とほぼ一致することから、1分子のヒドロキノンからは1分子のホルマザン色素あるいは過酸化水素が生成することがわかった。
以上の結果から、アルカリ条件下におけるヒドロキノンの酸化反応はFig. 10のようなスキームで進行するものと考えた8-11)。ほぼ100%の効率でホルマザンが生成する2,3,5,6-tetramethyl-1,4-HQはアルカリ条件下で酸化されて、まず、反応式(1)のようにとセミキノンラジカルが生成する。セミキノンラジカルは反応式(2)で酸化されてさらに
を与え、この
が反応式(5)でテトラゾリウム塩WST-1を還元する。したがって、反応式(1)、(2)及び(5)より、見かけ上、2,3,5,6-tetramethyl-1,4-HQは反応式(6)を経ることになり、1分子のヒドロキノンからは1分子のホルマザンが生成することになる。一方、発色がほとんど見られない1,4-HQなどでも、まず反応式(1)によりセミキノンラジカル及び
が生成すると考えられる。しかし、生成した
は反応式(5)でWST-1を還元するよりも、反応式(3)のように1,4-HQ自身と反応して過酸化水素を生成し、一方、セミキノンラジカルは反応式(4)のように不均化反応を起こす。したがって、反応式(1)、(3)及び(4)より、見かけ上、1,4-HQなどは反応式(7)を経ることになり、1分子のヒドロキノンからは1分子の過酸化水素が生成することになる。つまり、1,4-HQと 2,3,5,6-tetramethyl-1,4-HQのいずれのヒドロキノン体でもまず反応式(1)でセミキノンラジカルと
が生じ、次に反応式(5)のように
が先にWST-1を還元して発色するか、反応式(3)のように
がWST-1より先にヒドロキノン自身と反応して最終的に過酸化水素を与えるかの違いがあると考えられる。
Fig. 10 |
Stepwise oxidation of hydroquinones under alkaline conditions. |
そこで、本当にヒドロキノンの種類の違いでが先にWST-1を還元して発色したり、
がWST-1より先にヒドロキノン自身と反応して最終的に過酸化水素を与えるようなことが起こりうるのか調べるために、外来の
と1,4-HQあるいは 2,3,5,6-tetramethyl-1,4-HQとの反応性の比較を行った(Fig. 11)。外来の
は超酸化カリウムを用いて誘導した。その結果、pH9.8において超酸化カリウムのみの場合は一定の発色を与えたが、ここへ1.4-HQを共存させると発色は著しく阻害された。これは、超酸化カリウムから生じた
がWST-1を還元するよりも先に1,4-HQと反応したことを示すものである。一方、 2,3,5,6-tetramethyl-1,4-HQはそれのみでも一定の発色を示すが、過酸化カリウムと共存させると、その分だけ発色度も増加した。このように、WST-1の還元反応はヒドロキノンの酸化特性の違いに大きく左右されることが明らかとなった。
以上の結果は、WST-1の還元反応を利用する本法において、2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQが最も効率的な電子メディエータであることを支持するものである。
Fig. 11 |
Reactivity of hydroquinones with superoxide anion radicals. |
以上述べてきたように、酵母によるキノン類の代謝にはヒドロキノン体から生じる活性酸素種、特にや過酸化水素が反応に関与していることが明らかとなった。特に2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQを用いた測定系では
が反応に大きく関与していることから、WST-1の代わりに
を検出する発光プローブを使用すれば、発光法による高感度化が期待できる。本法では最終的にNaOH水溶液を添加してアルカリ条件下で検出を行うことから、アルカリ条件で高感度な測定が可能なルシゲニンを発光プローブとして選定した。そこで、ルシゲニンと2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQとの組み合わせにおいて最適条件を設定し、酵母密度の測定を行った(Fig. 5)。その結果、30分の反応で1.2×103〜4.8×104 cells/mlの範囲で測定が可能になり、発色法と比べて約100倍の感度を実現することができた。この方法は微生物の高感度検出への応用が期待できる。
本稿では、水溶性テトラゾリウム塩WST及び電子メディエータを用いた酵母活性測定法の開発について、発色反応機構の解明も交えて紹介した。今回使用したテトラゾリウム塩WST-1は還元体であるホルマザンが高い水溶性を有しているのが特徴である。既存のテトラゾリウム塩、例えばMTTやNBTは還元を受けると不溶性のホルマザンが生成されるため、細胞内組織や細胞表面へ沈着してしまい、分光学的に測定するためには適当な溶剤で溶解させるステップを踏まなくてはならない。これに対して、WSTは溶解操作も不要であり、リアルタイム計測への適用も可能である。しかし、カチオニックな構造を有するMTTやNBTは細胞膜を透過して細胞内へ入っていくことができるのに対して、水溶性を高めるためにスルホン酸基を導入したWST-1はアニオン性が高められたため、細胞内へ入っていくことができないと考えられる。そこで、電子の受け渡しを仲介する電子メディエータを併用することで細胞活性に依存したWST-1の還元を実現した。したがって、電子メディエータの選択は細胞活性を測定する上で非常に重要なものといえる。今回は、モデル系として清酒酵母を対象に代謝活性の比較や発色反応機構の検証を行い、本法において2,3,5,6-tetramethyl-1,4-BQが電子メディエータとして最適であるという結論に至った。しかし、他の微生物への適用を想定した場合、さらなる電子メディエータの検討が必要である。
我々は、これまでに得られた知見に基づき、現在、酵母以外の微生物への適用を図っており、電子メディエータと水溶性テトラゾリウム塩WSTシリーズを組み合わせた微生物検出用キットの開発にも取り組んでいるところである。近い将来、このような手法が微生物検出へ利用されることを期待したい。
本研究の遂行にあたり、多大なご支援、ご教授をいただきました九州大学大学院農学研究院の松本清教授、高知大学農学部の受田浩之教授に深く感謝いたします。
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2) European Brewing Convention., J. Inst. Brew., 1997, 83, 109.
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11) F. Guillen, M. J. Martinez, C. Munoz and A. Martinez, Arch. Biochem. Biophys., 1997, 339, 190.
氏名 | 塚谷 忠之(Tadayuki Tsukatani) |
年齢 | 37歳 |
所属 | 福岡県工業技術センター 生物食品研究所 食品課 |
連絡先 | 〒839-0861 福岡県久留米市合川町1465-5 TEL (0942)30-6644 FAX (0942)30-7244 E-mail:tukatani@fitc.pref.fukuoka.jp |
出身大学 | 九州大学大学院農学研究科食糧化学工学専攻 |
学位 | 博士(農学) |
現在の研究テーマ | ・電子メディエータを用いた微生物検出法の開発 ・固定化酵素リアクターを用いた食品成分のフローインジェクション分析 |
趣味 | テニス、阪神タイガース応援 |
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