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トップページ > 超分子ゲル系化学の新展開 〜分子認識化学との融合によるブレイクスルー〜 |
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超分子ゲル系化学の新展開
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田丸 俊一 崇城大学工学部ナノサイエンス学科 |
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新海 征治 崇城大学工学部ナノサイエンス学科 |
Abstract
Interest in stimuli-responsive materials has persevered over several decades and in the last decade, the remarkable progress to develop environmentally sensitive macromolecules and supramolecular architectures has been achieved toward the construction of a new class of smart materials. The supramolecular gels possessing the molecular recognition triggered stimuli-responsiveness are strong candidates to develop the stimuli-responsive soft materials. This review describes our recent findings relating with the development and applications of the stimuli-responsive supramolecular gel as follows; 1)controlling the gel-to-sol phase transition utilizing the crownalkali metal interactions, 2)creation of thixotropic gels applicable to a memory-erasing recycle system, 3)colorimetric sensing of the positional isomers of dihydroxynaphthalene in a supramolecular gel matrix, 4)guest-induced controlling of thixotropy, and 5)functionalization of the polymer gel system on the bases of molecular recognition.
ゲルは、例えばこんにゃくなどの食品としてもなじみ深い、最も身近な素材の形態の一つである。古くからの定義では、ゲルとは複数成分の組成を持つ凝集体の分散系であり、固体の特徴を持つ力学的挙動を示し、分散質・分散媒のいずれもが試料全体に連続的に広がっているもの、とされる 1) 。一般的に分散質であるゲル化剤は分散媒(溶媒)中で緻密な繊維状ネットワークを形成し、このネットワーク内に溶媒を取り込むことで、全体として固化している。ゲルには様々な分類の方法があるが、全ての分散質が共有結合によって三次元的に結ばれたものは化学ゲルと呼ばれる。化学ゲルは安定な共有結合によって架橋されているため、一般的に物理的に堅固で脆いゲルが形成し、ゲル形成過程は不可逆である。これに対して、分散質が非共有結合によって架橋されているものを物理ゲルと呼ぶ。物理ゲルは温度などの外部刺激によって架橋点が解離できるため、ゾル-ゲル間の相転移が可逆的に進行する。
超分子ゲルは物理ゲルの代表的な系のひとつであるが、一般的に分子量が数百程度の小分子が溶媒中で非共有結合により集積した繊維状会合体を形成し、これが絡み合うことでゲルを形成する。このようなゲルは元々、小分子を再結晶操作によって精製する際に期せずして形成してしまう「厄介者」として見出されていた。それでも、1990 年代になると、超分子ゲルも徐々に研究対象として注目を集め、その形成機構やゲルを形成する超分子会合体(非共有結合的に集合した、明確な規則構造を持つ分子組織体)の構造の解明を中心とした研究が進められるようになってきた 2) 。その後それらの研究から得られた知見を基に、近年では物理ゲルとしての特徴を大いに活用して、様々な刺激応答型材料の構築が精力的に進められている。
一方、分子認識化学(ホスト-ゲスト化学)は C. J. Pedersen によるクラウンエーテルの開発(1967 年発表) 3) に端を発し、現在も各分野で精力的に研究が進められている、古くて新しい研究分野である。分子認識化学における根底的な理念は、「特定の標的(ゲスト)に対する高選択的な捕捉」であり、このゲスト捕捉過程において化学・物理変化が誘起されれば、例えば標的ゲスト捕捉を色調変化により高感度に読み出すようなセンサへの応用に繋がる。このために、良好なホスト分子にはゲストとの錯形成に連動して、特定の物理的・化学的な変化が誘起されるような分子設計が求められる。
超分子ゲルおよび分子認識化学に関する研究は、ともにここ 20 〜 30 年の間に勃興して急速に成長した分野であるが、それぞれを見比べてみるとお互いが極めて相性が良い研究課題であることに気づく。すなわち、超分子ゲル化剤を設計するに当たって、ゲスト捕捉前後でそのゲル形成能に摂動を与えるホスト部位を分子内に効果的に導入することで、ゲストの捕捉・解離をトリガーとしたゲル状態の変化(たとえばゾル-ゲル相転移の制御)が実現できると考えられる。このようなシステムは分子認識という分子レベルで進行する極めて微弱な変化を、ゾル-ゲル相転移というヒューマンサイズのマクロな変化に増幅できるため、高感度な分子センサ開発にも応用することが可能である。本稿では、以上のような超分子ゲルと分子認識の融合により達成した超分子ゲル研究の新展開について、当グループが近年発表した研究成果 4) を紹介しながら解説する。
前述のように、クラウンエーテルは分子認識化学における最も古典的なホスト分子であり、環サイズに適合する金属イオンを選択的に捕捉する。この過程で、本来中性のクラウンエーテルがカチオン性の金属錯体となり、結果として錯形成前後での分子全体の極性(溶解性)が大きく変化する。一方、 π 共役系オリゴマーはその豊富な π 電子の存在により導電性材料などの電子材料としての応用が可能であるばかりでなく、光吸収特性、発光特性を利用した応用展開も可能である。これらの分子は共役系が拡張するほどに π - π スタッキングを主な駆動力とした自己会合力が増強される。よって適度な π 共役系の拡張は分子集積に優位に働くが、過度の拡張は分子の溶解性を著しく低下させる結果となる。そこで、π 共役系オリゴマーに溶媒への溶解性を付与し、かつ分子認識部位として機能し得るクラウンエーテル骨格を導入したオリゴチオフェン型 π 電子系小分子を合成し、その分子集合過程の精密な制御および外部刺激による分子集積体の形態・機能変換について検討した。
スペーサー部位に水素結合部位としてアミド基を導入したベンゾクラウンエーテル型の分子 (1) は種々の有機溶媒とクロロホルムの混合溶媒に対して良好なゲル形成能を示すことが明らかとなった 5) 。形成するゲルは K+ および Cs+ の添加に伴ってゲルの安定性が低下した。興味深いことに、このゲル強度の変化は 1 と金属イオンのモル比に鋭敏に応答していた。すなわち、ゲルの不安定化は添加量が 1: 金属イオン = 1 : 1 に至ったところで劇的に進行し、ゾルへの相転移が誘発されることが確認された。一次元構造のゲル組織の中で、クラウン/金属イオン錯体が空のクラウンに挟まれている間はその構造は安定であるが、1 : 1 のモル比を越えると隣にもクラウン/金属イオン錯体が存在することになり、静電反発でゲルの不安定化が誘起されるものと考えられる。顕微鏡観察結果から、この相転移に伴って、超分子ゲル繊維の消失が確認されたことから、クラウンエーテル部位と金属カチオンの錯形成に伴って、 1 の溶解性が向上し、その結果相転移が誘起されたと考えられる。この超分子ゲル系は、特定の金属カチオン濃度に閾値応答を示す鋭敏なセンサシステムへの応用が期待される。
さらに、化合物 1 が形成するゲルは、シクロヘキサン-1,2- ジアンモニウムのようなキラルなビスアンモニウム型のゲスト分子の添加に伴って、円二色性(CD)活性となることが明らかとなった 6) 。キラルなモノアンモニウム型分子共存下では CD が発現しないことから、ビスアンモニウムとクラウンが相互作用することにより 2 分子の 1 がキラル配向することで、ゲルが CD 活性になるものと理解される。また、ゲルが示す CD 強度はビスアンモニウム型分子の添加に伴って上昇し、クラウンエーテル部位とアンモニウムカチオンの量論比が等しくなる 1: ビスアンモニウム = 1 : 1 までの添加で飽和することが確認された。このことから、K+ 添加時と同様に、ゲストのアンモニウムカチオン部位はクラウンエーテルと一個おきに錯形成していることが示唆された。
興味深いことに、ゲスト不在下でのゲルは物理的振動による破壊に対して不可逆であり、ゲルを自己修復(self-healing)することはないのに対して、ビスアンモニウム型のゲスト分子存在下では物理的破壊に対して可逆的にゲルが修復・再形成する「チキソトロピー性」を獲得することが明らかとなった。しかし、再形成したゲルには破壊前に存在した CD 活性が消失していた。この結果は、次のように考察される。熱的に溶解した後冷却に伴って形成するゲルは熱力学的に安定化されるため、ビスアンモニウム型ゲストのキラリティーを反映した 1 の配向が生まれ CD 活性となる。一方、物理的振動による破壊の後、自己修復を経て再形成したゲルは動力学的に安定化されるため、ビスアンモニウム型ゲストのキラリティーの反映に乏しい無秩序なものとなる。このような「熱モード」と「振動モード」による変換は、本系がメモリーとして有用なことを示している。
ナフタレンジイミドもまた広いπ共役平面を有し、π-π スタッキングによる一次元的会合体を発現する分子である。このナフタレンジイミドの両端にアミド結合を介してアルコキシ没食子酸骨格を導入した分子 2-1 は、様々な有機溶媒に適用可能な良好な有機ゲル化剤として機能する。我々はこの有機ゲルがチキソトロピー性を発現することを見出し、その発現機構を明らかにしてきた 7) 。さらに興味深いことに、ゲル系では特異な分子認識能が発現することが見出された 8) 。1,5- ジメトキシナフタレンとナフタレンジイミドは良好なドナー・アクセプター関係にあり、溶液中でも選択的に相互作用し、特有の色調を呈することが知られている。 ところが、1,5- ジメトキシナフタレンもしくはその類縁体不在・共存下で形成するシクロヘキサンゲルでは、一切の色調変化が観測されなかった。これは 2-1 にゲル形成能を付与する目的で導入したアルキル鎖やアミド基が効率よく van der Waals 相互作用や水素結合を形成し、その結果として 2-1 の自己会合力が 1,5- ジメトキシナフタレンとのドナー・アクセプター型の複合体形成力を凌駕したため、本来の分子認識が発現しなかったものと考えられる。このように、ゲル形成を伴う本系では極めて強力なセルフソーティング(自己識別・他者排除)機構が発現していることが判る。
そこで、このゲル化剤が持つ自己会合能と競合できるゲスト分子として、環境汚染物質としても知られる一連のジヒドロキシナフタレンに着目した。ジヒドロキシナフタレンは、1,5- ジメトキシナフタレンのメトキシ基を水酸基に変えただけのものであるが、これによってメチル基による立体障害の緩和と水酸基による水素結合形成能の付与が期待できる。 2-1 のヘキサンゲルに 2,6- ジヒドロキシナフタレン(3f)を添加したところ、CT 錯体に典型的な青紫色を呈した。電荷移動錯体に対応する 600 nm の吸光度変化は 2-1 に対する 3f のモル比が 1 : 1 に至った時点で飽和したことから、このゲル系での CT 錯体は 1 : 1 の化学量論比を持つことが確認された。次に、水酸基の導入位置が異なる様々のジヒドキシナフタレンを添加すると、それぞれ異なる色調を示した。興味深いことに、ゲル形成能を有しない 2-1 の類縁体 (2-2) の溶液に同濃度のジヒドロキシナフタレンを添加しても、わずかな色調変化が観測されるにとどまった。以上のように、本系ではゲル化剤が持つ自己会合能に調和できるゲスト分子のみを高選択的に識別できるが、この発現機構は DNA 系に見られるインターカレーションに類似性を見出すことができる。
ここまでに紹介してきた超分子ゲル系はいずれもチキソトロピー性を発現することが確認されているが、そもそもチキソトロピー性の発現は特異な現象であり、その発現機構などについては、未知な部分が多い。我々は、このチキソトロピー性を分子認識によって制御することに成功している 9) 。アントラセンにアミド結合を介してアルコキシ没食子酸骨格を導入した化合物 x は飽和炭化水素系溶媒をゲル化するが、この超分子ゲルはチキソトロピー性を示さない熱可逆的な物理ゲルである。興味深いことに、5 を光二量化して得られる構造異性体混合物 5-2 はゲル可能を喪失してしまうのに対して、5-2 とは異なる混合組成を持つ 5-1 はチキソトロピー性を有する超分子ゲルを形成することが明らかとなった。走査型電子顕微鏡観察結果から、5-1 は二次元的に集合したディスク状の一次会合体を形成し、これが経時的に積層することで一次元的な超分子ファイバーを二次会合体として形成していることが明らかとなった。さらに、このゲルを物理的に破壊して得られるゾル中には二次会合体である超分子ファイバーが消失し、ディスク状の一次会合体が再形成していることが確認された。
5-1 が形成するゲルのチキソトロピー性は、フラーレンをゲストとすることで制御することができた。前項で議論したように、ゲル化剤と強く相互作用する分子は、ゲル化剤の一次元的な会合形成を阻害するため、ゲル形成を強く阻害する。よって、チキソトロピー性を制御する目的で使用されるゲスト分子には、1)ゲル化剤と適度に相互作用し、2) ゲル化剤の自己会合様式を大きく変化させることがない、という点が求められる。その点、フラーレンはその球状の分子構造がアントラセン二量体が持つ湾曲したπ 平面に良く適合しており、非極性の有機溶媒中で適度な強度の van der Waals 相互作用を形成すると期待される。また、フラーレン分子そのものは極めて等方性の分子であり、ホストと相互作用する上で分子の方向性を考慮する必要がない。つまり、フラーレンを捕捉するためには、「ゲスト捕捉に有効な特定の相互作用を特定の位置に正しい向きに配置する」という予備組織化をそれほど必要としない。このことにより、フラーレン分子はゲル形成においてホスト分子(ゲル化剤)の自己会合を著しく阻害せず、適度な van der Waals 相互作用を形成できる位置におとなしく捕捉されると考えられる。さらに、外部からの物理的破壊によって分子配列が乱されても、フラーレン自身はその前後であまり影響を受けない(分子配向が変わっても事実上何の変化もない)ので、ゲルの物理破壊後のゲル組織修復過程で効率よく機能すると考えられる。実際に 5-1 に C60 または C70 を混合したところ、チキソトロピー性を保持した超分子ゲルが形成した。このゲスト混合ゲルを物理的に破壊しその回復過程を経時的に調査したところ、興味深いことに、ゲスト不在条件よりもより早いゲル状態の回復が確認された。この自己修復過程は C70 混合時に最も早く、 C60 混合時ではそれよりも若干遅かった。以上のように、超分子ゲルのチキソトロピー性を分子認識的に制御することに成功し、さらに本戦略が、ゲストの選択性を自己修復過程の差として読み出す新しいタイプのセンサとしての応用に繋がることを明らかにした。
小分子が自己会合して形成する超分子ゲルは、弱い分子間相互作用を基調としているため、外部刺激に対して鋭敏であり、刺激応答型のソフトマテリアル開発に極めて有望である。一方、高分子を基調とするゲルは、ゲル化剤となる高分子鎖を合成する際に多様な機能(感温性、感光性、イオン性など)を盛り込むことができるため、多機能性のゲルを生み出すのに有用である。これら両者の特徴を併せ持つゲル系では多様な機能設計が可能であり、特に分子認識化学を盛り込んだ多機能性物理ゲルの創出に繋がると期待される。そこで先ず我々は、近年特異な分子捕捉能を発現する天然高分子として様々な応用例を報告してきたらせん性多糖類・β -1, 3- グルカンを、分子認識機能を持つ物理ゲルへと発展させる研究を進めた。
カードラン(CUR)、シゾフィラン(SPG)に代表される β-1,3- グルカン類は三重らせん構造を有する天然多糖類である。我々のグループではすでに、このらせん構造の内部に疎水性相互作用を駆動力としてカーボンナノチューブ(CNT)などの機能性高分子を取り込むことが可能であること、更に DNA などのらせん性の高分子との共らせん形成による複合化が可能であることを報告している 10) 。これらを物理ゲル系へと展開するために、我々は SPG の側鎖のグルコースに着目した。我々のグループではすでに、フェニルホウ酸とシスジオールが pH 依存的に可逆的な共有結合を形成することを利用して、糖分子を識別するフェニルホウ酸型分子センサを数多く報告してきた 11, 12) 。そこで、 SPG の側鎖間をフェニルホウ酸による分子認識によって架橋することで、 pH 応答によりゾル-ゲル相転移を発現する高分子物理ゲルを開発した 13) 。架橋剤には側鎖にフェニルホウ酸部位を導入した(導入率 3%)ポリアクリル酸(pAA-BA)を採用した。 SPG と pH 9.9 の水中で混合したところ、透明なヒドロゲルが形成した。このゲルをホウ酸-ジオール間の結合が解裂する pH 8.4 にすると、速やかにゾルへと相転移を起こした。ゾルへの相転移は、単純なシスジオールよりもホウ酸の有効なゲストとなり得るフルクトースを系中に添加することでも誘起された。以上のゾル-ゲル相転移現象は、このゲル形成が SPG 側鎖のグルコースユニットとポリアクリル酸上のフェニルホウ酸間の分子認識によるものであることを示している。さらに、 SPG が持つ CNT 認識能を利用することで、水中でありながら著しく疎水性である CNT が網目状に分散した超分子ヒドロゲルの構築にも成功した。
シクロデキストリンはその内部空孔に適合した疎水性分子を選択的に取り込んで錯形成する。この分子認識を利用して、CUR の側鎖にシクロデキストリン(CD)を導入した CD-CUR とアゾベンゼンを導入したポリアクリル酸 (pAC12-Azo)を混合することで、超分子ヒドロゲルの形成に成功した 14) 。アゾベンゼンは UV 光を照射することでトランス型からシス型へと構造変換され、さらに可視光を照射することでトランス型に戻るが、シス型アゾベンゼンは立体障害により CD に包摂されないため、UV 照射後の pAC12-Azo は CD-CUR と錯形成できない。そこで、CD-CUR と pAC12-Azo が形成した超分子ゲルに UV 光 (365 nm)を照射したところ、予想通りゾルへの相転移が誘起され、さらに可視光を照射することでゲル状態を復活させることに成功した。このような相転移は繰り返し可能であることも確認された。
化学ゲルはゲル組織全体が共有結合的に架橋されているため、基本的に物理ゲルよりも外部刺激応答に鈍く、特に外部刺激によりゾル-ゲル相転移を誘起することは困難である。しかし、十分な柔軟性をもつゲル組織を構築することで、分子認識に伴う状態変化を引き起こすことが可能となる。オクタデシルアクリル酸エステルと p- ニトロフェニルチオ尿素骨格を持つアクリル酸エステル、および架橋剤となるエチレングリコールジメチルアクリル酸エステルを 95 : 5 : 1 の比でベンゼン・メタノール混合溶液中にて混合し、ラジカル重合反応を行うことで架橋ポリマー 6 を合成した 15) 。この架橋型ポリマーを乾燥させた後THFに浸すと、溶媒を吸収し大きく膨潤することが確認された。さらにここに種々のアニオンのテトラブチルアンモニウム(TBA)塩を共存させたところ、特にフッ素アニオン、または酢酸アニオンが共存条件下でさらなる膨潤によるゲルの肥大化が観測された。さらに興味深いことに、得られた膨潤ゲルはそれぞれ特有の赤色もしくは黄色を呈した。このような色調の発現はアニオン種が p- ニトロフェニルチオ尿素骨格と水素結合形成したことを示している。
以上のように、分子認識化学と超分子ゲルの融合は、特に刺激応答型のソフトマテリアルを開発する上で極めて有効な戦略である。刺激応答型のソフトマテリアルは、高感度な分子センサの開発に役立つだけでなく、薬物輸送システムのような特定条件下での刺激応答とそれに伴う薬効の発現を実現する上で極めて有用な素材である。また、生体内分子に対する分子認識機構を盛り込んだソフトマテリアルは、上記のような薬剤としてばかりでなく、疾病の早期発見を助ける診断剤の開発にも有用である。今後、様々なゲストに対する分子認識能を有する超分子ゲルの開発と、ゾル-ゲル相転移に代表される状態変化を活用した新しい分子システムが構築されることで、工業的・医療的な視野に留まらず広く応用される超分子ゲルシステムの開発が望まれる。
著者プロフィール | |
氏名 | 田丸 俊一 (Shun-ichi Tamaru) |
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所属・職位 | 崇城大学工学部ナノサイエンス学科准教授 |
連絡先 | 〒860-0082 熊本市西区池田 4-22-1 TEL&FAX : 096-326-3494 E-mail : stamaru@nano.sojo-u.ac.jp |
出身大学 | 九州大学 |
学位 | 博士 (工学) |
専門 | 分子集積化学、高分子化学、分子認識 |
氏名 | 新海 征治 (Seiji Shinkai) |
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所属・職位 | 崇城大学工学部ナノサイエンス学科教授 九州先端科学技術研究所所長 九州大学高等研究院特別主幹教授 九州大学名誉教授 |
連絡先 | 〒860-0082 熊本市西区池田 4-22-1 TEL : 096-326-3111 E-mail : shinkai_sj@nano.sojo-u.ac.jp |
出身大学 | 九州大学 |
学位 | 博士 (工学) |
専門 | 超分子化学、分子認識、機能性高分子 |
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