Topics of Chemistry

分析化学と共に歩んだ 46 年間の軌跡
分析機器の開発の歴史と人的分析の在りし姿とは?

株式会社同仁化学研究所 日高 三男

1. はじめに

 「分析化学」は、医薬品、食品、環境分析等様々な分野を支える技術であり、「分析機器」とは「物質の組成、性質、構造、状態等を定性的・定量的に測定する機械、器具又は装置」を指すいわゆる分析手段といえる。更に、これらと密接に関連しているのは「試薬」である。現在まで、多種多様な「試薬」が開発され、その数は百万品目ともいわれている。ちなみに小社で扱うのは、その内の 0.1% に過ぎないが、上市した製品(商品)は、大学や公的機関の研究分野や臨床検査試薬などに幅広く活用されている。ここでは入社以来 46 年 の間に試薬の開発と密接に関連した分析装置(機器)の用途とその歴史、更には、試薬の品質を評価する公定法と分析(自動と手動)における問題点について述べたいと思う。 表 1 に用途別分類を示す。

表 1  用途別の分析装置一覧

ラボ用(実験・研究用)
①電気化学的分析装置 電位差分析装置、電量滴定装置、ポーラログラフ、導電率系、pH メーター等。
②光分析装置 UV-VIS(紫外・可視分光光度計)、IR(赤外分光光度計・分散型、フーリエ変換型)、施光光度計、AA(原子吸光光度計)(フレーム式・電気加熱式)、ICP-AES(化学発光分析)、RF(分光蛍光光度計)、色差計、屈折率計等
③電磁気分析装置 NMR(核磁気共鳴、フーリエ変換型核磁気共鳴)、ESR(電子スピン共鳴)、質量分析装置(GC/MS, LC/MS, ICP/MS)、電子顕微鏡(透過・走査・走査トンネル)等
④分離・分析装置 HPLC(液体クロマトグラフ)、GC(ガスクロマトグラフ・キャピラリー、パックド)、IC(イオンクロマトグラフ)、TLC(薄層クロマトグラフ)、電気泳動装置等
⑤熱分析装置 示差熱分析装置、示差走査熱量計(DSC)等
⑥その他 カールフィッシャー K. Fischer 水分測定装置、粒度分布測定装置、融点測定装置、分析用天秤(上皿天秤、精密天秤)等
医学用(検査・検出装置)
自動分析装置 臨床化学自動分析装置、免疫血清検査装置、輸血血清検査装置、血液検査装置等
環境分析用
①ガス分析・計測装置 ガス検知器(可燃性、酸素、毒性ガス、複合ガス)、ガス分析計(排ガス、酸素、ガスクロマトグラフ)
②臭気計 臭気計
③ 水質・濃度・粘土計測装置 酸化還元電位計(ORP 計)、pH・溶存オゾン・残留塩素・溶存酸素計、透視度・濁度計、導電率計、自動全窒素・全りん測定装置、粘土計
④騒音・振動計測装置 騒音・振動計測装置
⑤大気分析・計測装置 大気分析・計測装置
食品分析用
  UV-VIS、RF、AA、FT-IR、GC、HPLC、IC、GC-MS、LC-MS、ICP/ICP-MS 等

2. 分析機器・計測機器の年表

  表 2 に分析機器・計測機器の年表を示す。
 この年表はラボ用分析機器の電気化学的分析装置をはじめ、上市された分析機器等についてまとめたものである。ここでは、詳細については省略する。

表 2  分析機器・計測機器の年表

~1940 年代 ポーラログラフ、 pH 計 (ガラス電極式)(ベックマン・コールター)、電子顕微鏡(JEOL)、卓上ガラス電極 pH 計(電気化学計器)、ガス分析装置
1950 年代 卓上ガラス電極 pH 計 (東亜電波工業)、pH メータ(堀場製作所)、ガスクロマトグラフ(島津製作所)、 GC 用 熱伝導検出器(TCD)、 GC 用 水素炎イオン化検出器(FID)(島津製作所)
1960 年代 アミノ酸自動分析装置(LC-1)(橋本製作所)、純水測定用導電率計(電気化学計器)、示差走査型熱分析装置、核磁気共鳴装置(NMR)(60MHz)(BRUKER)、分光光度滴定記録装置(MAT-1)(自動光度滴定)、自動サイクル滴定記録装置 CAT-1) (平沼産業)、電量滴定記録装置(FAT-1)(平沼産業)、卓上型溶液導電率計(CM-01)、カールフィッシャー水分測定装置(MK-SS)(京都電子工業)、電位差自動滴定装置(AT-05)(京都電子工業)
1970 年代 カールフィッシャー水分測定装置(MK-A)(京都電子工業)、ガスクロマトグラフ(GC6A)(島津製作所)、カールフィッシャークーロメトリー水分計(MK-H)(京都電子工業)、ゼーマン原子吸光光度計(日立)、IR、精密天秤(ME215)(ザルトリウス)、旋光度計、原子吸光/フレーム分光光度計(AA-640)(島津製作所)、核磁気共鳴装置(NMR)(200MHz)(BRUKER)、ガスクロマトグラフ(GC7A)(島津製作所)、レポーティングタイトレータ(COMTITE-7)(平沼産業)、フューズドシリカキャピラリーカラム、融点測定装置(MP-2)(ヤマト)
1980 年代 フューズドシリカキャピラリーカラム(ガスクロ工業)、カールフィッシャー微量水分測定装置(CA-10)(三菱化成)、LC 用蛍光モニター(RF-530)、高速自動施光計(SEPA-200)(堀場製作所)、化学結合型フューズドシリカキャピラリーカラム(ガスクロ工業)、自動滴定装置(COMTITE-7)(平沼)、汎用型高速液体クロマトグラフ(LC6A)(島津製作所)、電子天秤(1475 型)(ザルトリウス)、蛍光分光光度計(日立)、ガスクロマトグラフ(GC8A)(島津製作所)、赤外分光光度計(HITACHI 270-30)、自動滴定装置(AUT-501)(東亜)、自動水分測定装置(KF-05)(三菱)、ダブルビーム分光光度計(U-2000)(日立製作所)、分取液体クロマトグラフ(島津製作所)、オートサンプラー付 pH メーター(HM-60V),ターンテーブル(TTJ-1)(東亜)、自動滴定装置(COM-900)(平沼産業)、核磁気共鳴装置NMR(AC-200)(BRUKER)
1990 年代 電子顕微鏡: HAADF, EELS, EPMA、自動滴定用プローブ電極、自動電位差滴定装置(AT-410)(京都電子産業)、高速液体クロマトグラフ(LC10A)(島津製作所)、イオンクロマトグラフ(IC7000)(電気浸透型サプレッサー)(横河アナリティカルシステムズ)、電子スピン共鳴装置(ESR JES-FA100)(日本電子)、蛍光光度計(F-4500)(日立)、HPLC 用蛍光検出器(RF-530)、水素炎イオン化検出器(FID-17)(島津製作所)、分光光度計(UV-2200A)(島津)、プレートリーダー、HPLC 用蛍光検出器(10AXL)(島津)、カールフィッシャー水分計(容量式)(MKA-610)(京都電子)、微量水分計(CA-07)(三菱化成)、自記分光光度計(U3000)(日立製作所)、キャピラリーガスクロマトグラフ(GC17AAFw)(島津製作所)、自記分光光度計(U-3000)(日立)、自動滴定装置(平沼)、上皿天秤(PG-503 型)(メトラー)、オートサンプラー付き pH メーター(HM60V),ターンテーブル(TTT-1)(東亜)、自動滴定用プローブ電極、示差走査熱量計(DSC6200)(セイコーインスツルメンツ)、自動滴定装置(AVT-501)(東亜)、電位差自動滴定装置(AT-510)(京都電子)、キャピラリーガスクロマトグラフ(GC1700)(島津製作所)
2000 年代 キャピラリーガスクロマトグラフ(GC2010)(島津製作所)、核磁気共鳴装置 NMR(ECP-300)(日本電子)、液体クロマトグラフィー(LC-10Ai)(島津)、電子天秤(PR503)(メトラー)、導電率計(TOA CM-30G)、精密天秤(ME215S)(ザルトリウス)、カールフィッシャー水分計(容量式)(MKA-610)、(電量式)(MKC-610)(京都電子工業)、930MHz: FT-NMR、CV 測定装置電極交換(Cypress System)、赤外分光光度計(FT/IR-470Plus)(日本分光)、質量分析器 Q Advantage)(Termo electron corporation)、キャピラリーガスクロマトグラフ(GC2014)(島津製作所)、クライオ電子顕微鏡、アタゴ屈折率計(Type3)(ATAGO)、分光光度計(UV-2450)(島津)、融点測定装置(Opti Melt)(Automated Melting Point System)(SRS: Stanford ResearchvSystems)、旋光度計(D-1020)(日本分光)、精密天秤(XP205)(メトラー)、プレートリーダー(TECAN)(ジェニオス)、示差熱量分析装置(DSC 220)(セイコー電子工業)、電子スピン共鳴装置更新(ESR JES-FA100)(日本電子)、蛍光分光光度計(FP-6300)(日本分光)、光度滴定用自動滴定装置(京都電子)、フローサイトメーター(FACS Canto2(3 レーザー))(日本べクトンデッキンソン)、分光光度計(UV-2450)(島津)、電量滴定カールフィッシャー水分計(MKC-610-DT)(京都電子工業)、ハイエンド電動倒立型顕微鏡(Axio Observer Zi)(カールツアイス)、落射型蛍光顕微鏡、電位差自動滴定装置(AT-610-S/2ND)(京都電子)、電気化学アナライザー(Cypress System)
2010 年代 分光光度計(UV-2450)、プレートリーダー(M200PRO)(モノクロメーター、吸光度、蛍光、発光可)(TECAN、インフィニット)、電位差自動滴定装置(AT-700)(京都電子)、多検体チェンジャー(CHA700)、世界初イオン液体塩橋搭載pH ガラス複合電極(堀場アドバンスドテクノ)、キャピラリーガスクロマトグラフ(GC-2014AFsc)、オートインジェクター(AOC-20i)(島津製作所)、電磁式ふるい振盪機(AS200 コントロール(レッチェ)、EQCM(電気化学とQCM: 水晶振動子マイクロバランス同時測定)アナライザー(エー・エル・エス/ ビー・エー・エス)、pH/ 導電率計(pH、導電率、溶存酸素)(メトラー)、カールフィッシャー水分計(容量タイプツインビュレット)(MKA610)(MKA-610-TT)(京都電子)、液中パーティクルカウンター(Syring Liquid Sampler)(SLS-1500)(Particle mearsurig Systems)、核磁気共鳴装置NMR(AVANCE III 400N)(BRUKER)、マイクロ波硫酸灰化装置(マイルストーンゼネラル)、電子天秤(CPA623S)(ザルトリウス)、SECM 走査型電気化学顕微鏡、カールフィッシャー水分計(容量法 MKV-710、電量法MKC-710)(京都電子)、電位差自動滴定装置(AT710)、多検体チェンジャー(CHA-600-12)(京都電子)、紫外・可視分光光度計(ダブルモノクロメーター)(UV2700),電子冷熱式恒温セルホルダー(TLC-100)(島津)、施光光度計(P-1020 用光源 Hg ランプ交換)(日本分光)、融点測定装置(MPA100 型)(カメラ機能、自動昇温)(スタンフォードリサーチ)、プレートリーダー(Infinite200Pro)(TECAN)、質量分析計(MS)(SQD2)(ウォーターズ)、共焦点レーザー顕微鏡(システムの増設)、紫外・可視分光光度計(U3900H)(日立)、分光光度計(UV-2600)(島津)、精密天秤(XPE205)(メトラー)、蛍光分光光度計(FP-8300)(日本分光)、電位差自動滴定装置及び多検体チェンジャー(AT-710M)(京都電子)、pH メーター用マイクロ電極、電気伝導率計低電気伝導率用セル(CT-57101C)(東亜DKK)、光度滴定用自動滴定装置(AT-710S),多検体チェンジャー(CHA-700)(京都電子)、複合銀電極
2020 年代 赤外分光光度計(FT/IR)(FT-4600)(日本分光)、分光光度計(UV-2600i)(島津)、プレートリーダー(Synegy H1)(アジレント)

※メーカー名は発売当時のもの

3. 公定法による規格試験の種類

  表 3 に公定法による規格試験の種類を示す。
 化審法では、「試薬」とは「化学的方法による物質の検出もしくは定量、物質の合成の実験または物理的特性の測定のために使用される化学物質」と定義されているが、日本試薬協会では、「検査、試験、研究、実験など試験研究用途において、測定基準、物質の検出・確認、定量、分離、精製、合成、物性の測定等に用いられものであり、各々の使用目的に応じた品質が規格(JIS 規格や日本薬局方、試薬メーカー各社独自に定めた規格など)で保証され、少量使用に適した供給形態の化学薬品」と定義して工業薬品と明確に区別している。一方、臨床検査試薬は「体外診断用薬品」と称し、一般の試薬とは区別されている。

表 3  公定法による規格試験の種類

日本産業規格(JIS) (Japanese Industrial Standards の略)または JIS 規格と通称されており、1949 年以来日本工業規格と呼ばれていたが、法改正に伴い 2019 年 7 月 1 日改称された。日本の産業製品に関する規格及び測定法等が定められた日本の国家規格である。
日本薬局方 初版は明治 19 年 6 月に公布され、今日に至るまで医薬品の開発、試験技術の向上に伴って改訂が重ねられ現在では第十八改正日本薬局方が公示されている。
日本薬局方外医薬品規格 「日本薬局方外医薬品成分規格」から 1993 年に名称変更された規格。医薬品原料や医薬品添加物等の医薬品の成分規格をまとめたもの。
医薬品添加物規格 「日本薬局方外医薬品成分規格」から医薬品添加物が 1993 年に分けられた規格。当初の収載は 206 品目。
医薬部外品原料規格(外原規) 平成 18 年 3 月 31 日、旧外原規 2006 から新外原規 2021 に改正されている。
薬機法 医薬品、医療機器の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律で、2014 年に薬事法が薬機法に改正されている。

4. 機器分析(自動分析)と人(手技・手動分析)による分析のメリットとデメリット

 例えば、生化学・免疫自動分析装置に望まれる特性を装置サイドと試薬サイドから見た場合、前者においては検体の微量化、迅速性、多項目測定が可能、自動キャリブレーション付帯、分析途中での試薬などの追加が可能、キャリーオーバーがない、液面センサー付き、ノズルつまり検知、操作が簡単で故障が少ない、メンテナンスが容易、小型化、安価であることなどがあげられる。 更に、イムノアッセイ法が必要とする条件は、精確性、高感度、微量検体、コストパフォーマンス、測定原理、多項目同時測定、測定値の標準化などがあげられる。これらは、分析機器(装置)全般に共通する特長である。一方、後者は、高感度(検出感度)、測定域が広く再現性が良好、試薬の微量化、品質のロット間差がない、保管・管理が容易、安価であることなどがあげられる。
 機器分析(自動分析)のメリットは、保守管理が実施され、正常な状態にある装置・機器を用いた時に、正しい結果が迅速に報告され、そのデータが保証されていることである。つまり精確度(正確で高精度)が良好で標準化された結果が報告されることにある。一方、手技・手動分析のメリットは、小回りが利くことであるが、デメリットは、時間を要する、多検体同時分析の制約、個々人の技量・技術にデータが依存する危険性があることである。そのためには、定期のクロスチェックの実施、使用する分析機器・装置の保守点検(定期点検、使用時点検)、測定原理の習得、使用する装置備品・実験器具の保守管理と得られたデータを分析する能力が必要となる。特に、得られたデータが正常値範囲なのか異常値であるかの判断能力とデータの解析能力が要求される。

5.まとめ

 今日、分析機器(付随する備品)の更なる開発により、迅速かつ微量サンプルでの高感度分析が可能となってきているが、分析手法は多種多様であり、どの分析機器や検出手法を採用しているかで、その性能に大きな影響を及ぼすために、そこから得られた結果は必ずしも一致しないということは多くの研究者が痛感していることと思う。機器分析は万能と思われがちだが、そこに一つ落とし穴があると考える。しかし多くの研究者、技術者のトライアンドエラーの努力があって上市され、それから更にリニュアルされ続けて今日の高感度分析が可能となっているのも事実である。
 一方、試薬の用途は多岐にわたり、科学(医学、生化学、化学など)研究・実験、材料の開発、医薬品の開発、品質管理、環境分析、食品分析などに使用されており、機器分析と試薬とは密接に関係しているといえる。分析対象を高感度に、短時間で検出させうるものが分析機器であり、分析対象(目的物)と反応して、色、光、熱等を発生させるものが「試薬」=「色素」といえる。
 検出の手法により、分光、蛍光、発光分析などが用いられるが、機器分析を行う際には、必ず「人= 手技」が関わってくる。ただ単に、機器の操作をするだけで分析データは簡単に入手できる時代となってきているが、生体成分や混合物の分離分析のみならず、単一物質の分析を行う場合においても、前処理工程(秤量、溶解、定量、分取、抽出、注入などの工程)が必ず発生する。また、分析機器の開発は、人(手技)による試薬の特性をいかに正確に入手できるかが最も重要となるファクターであり、ここでは今まで培われた人の知識と技術が必要不可欠となる。このように試薬と分析機器とは切っても切れない運命共同体といえる。現在、有機合成を専攻している若い研究者、技術者の知識・技能が新しい試薬(色素)を生み出し、これが今後の分析機器の発展に大きく絡んでくるので、自信をもって日々の研究に励んでいただきたいと思う。

【参考文献】

  1. 試薬ガイドブック 改訂第 3 版 製品評価技術基盤機構/日本試薬協会
  2. 分析機器一覧、医用分析機器(検査装置)(Japan Analytical Instruments Manufacturers Association, JAIMA)
  3. 臨床検査 23 巻 7 号(1979)(7)
  4. 医機学 Vol. 80, No. 4(2010)(11)「これからの自動分析装置」前川真人、濱田悦子

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