はじめに
グルタミン酸は、タンパク質やグルタチオンの生合成に利用されているだけでなく、神経伝達物質としても重要な働きをしており、グルタミン酸が過剰に存在することは、アルツハイマー病などの神経変性疾患の原因となると考えられています。また近年では、シスチンを取り込み、グルタミン酸を放出するシスチン/グルタミン酸トランスポーター(xCT)を阻害すると、鉄依存性細胞死であるフェロトーシスが誘導されるといったことが報告されており、xCTを標的としたがん研究も行われています1), 2)。
Glutamate Assay Kit-WSTは、代謝産物であるグルタミン酸を定量するキットです。細胞培養液中あるいは細胞内のグルタミン酸は、WSTの還元反応により定量することができ、グルタミン酸の定量下限値は5 μmol/lです。
また、96穴マイクロプレートに対応しているため、多検体測定が可能です。
図1 Glutamate Assay Kit-WSTの測定原理
キット内容
Dye Mixture | x 1 |
Glutamate Standard (10 mmol/l) (赤キャップ) | 300 μl x 1 |
Enzyme (緑キャップ) | x 1 |
Reconstitution Buffer (白キャップ) | 750 μl x 1 |
Assay Buffer | 7.5 ml x 1 |
Lysis Buffer | 25 ml x 1 |
Filtration Tube | x 24 |
- キット付属のFiltration Tubeは、細胞内グルタミン酸を定量する場合に使用します。本キットでは、n=3の測定で標準サンプル8点と測定用サンプル24サンプル分の測定が可能です。そのため、Filtration Tubeは24サンプル分を同梱しております。24サンプル以上の測定試料を調製する際は、別途Filtration Tube (ナノセップ遠心ろ過デバイス(10K)([OD010C33]、PALL社))をご準備頂く必要があります。
保存条件
0-5 °Cで保存して下さい。
必要なもの (キット以外)
- プレートリーダー(450 nmの吸光フィルター)
- 96 穴マイクロプレート
- インキュベーター(37 °C)
- 20-200 μlのマルチチャンネルピペット
- 100-1000 μl、20-200 μlマイクロピペット
- PBS
- コニカルチューブ
使用上のご注意
- キットの中の試薬は、室温に戻してからご使用下さい。
- 輸送中の振動等により、内容物がスクリューキャップマイクロチューブ壁面やキャップ裏面に付着している場合がありますので、内容物を底面に落とした後に開封して下さい。
- 正確な測定値を得るために、1つの測定試料につき複数(n=3以上)のウェルを使用下さい。
- Working solutionをサンプルに加えると直ちに発色が始まります。各ウェル間のタイムラグによる測定誤差を少なくするためにマルチチャンネルピペットをご使用下さい。
- 測定試料は、検量線範囲内に入るように希釈し、測定に用いて下さい。
- 本キットにはガラス製容器およびアルミ製シールキャップを使用しております。取扱いに際しては、保護手袋を着用して下さい。
- 本品は細胞培養上清中および細胞内のグルタミン酸の定量に最適化されています。細胞内グルタミン酸濃度を測定する場合、細胞溶解液の調製およびGlutamate standard solutionの調製にはキット付属のLysis Bufferをご使用下さい。また、細胞溶解液はFiltration Tubeにて除タンパク処理したものを測定に用いて下さい。
溶液調製
Dye Mixture stock solutionの調製
Dye Mixtureのバイアル瓶にReconstitution Bufferを全量加えて溶解する。
- Dye Mixture stock solutionはReconstitution Bufferが入っていた瓶に移し、遮光下、冷蔵保存(0-5 °C)して下さい(2ヶ月間安定)。
Enzyme stock solutionの調製
EnzymeにPBS 120 μlを加え、ピペッティングにより溶解する。
- 内容物がチューブ底面から外れ、チューブ壁面やキャップ裏面に付着している場合があります。内容物を底面に落とした後に開封して下さい。
- Enzyme stock solutionは氷浴上で使用し、溶解後は冷蔵保存(0-5 °C)して下さい(2ヶ月間安定)。
Working solutionの調製
- コニカルチューブにDye Mixture stock solutionを加え、Assay Bufferで希釈する。
- 操作1. で調製した溶液にEnzyme stock solutionを加える。
- Working solutionは、表1をご参照の上、調製して下さい。
- Working solutionは光に不安定であるため、使用直前に調製し、調製後はアルミホイルで覆うなどして遮光して下さい。また、調製後のWorking solutionは保存できません。その日のうちにお使い下さい。
24 well分 | 48 well分 | 96 well分 | |
Dye Mixture stock solution | 175 μl | 350 μl | 700 μl |
Assay Buffer | 1575 μl | 3150 μl | 6300 μl |
Enzyme stock solution | 24.5 μl | 49 μl | 98 μl |
表1 Working solution調製例
操作
1. 測定用サンプルの調製
-細胞培養上清中グルタミン酸定量用サンプルの調製-
細胞培養上清測定試料を準備する(Sample)。
- 測定試料は、検量線範囲内(0-0.5 mmol/l)に入るように超純水で希釈し、測定に用いて下さい。
- 測定試料は1ウェルあたり40 μl必要です。
-細胞内グルタミン酸定量用サンプルの調製-
- 細胞 (5-10×105 cells)を1.5 mlマイクロチューブに準備する。
- 300×gで5分間遠心し、上清を除去する。
- PBS 500 μlを加え、ピペッティングにより懸濁後、300×gで5分間遠心し、上清を除去する。
- Lysis Buffer 300 μlを加え、ピペッティングにより細胞を溶解した後、12,000×gで5分間遠心する。
- 上清250 μlをFiltration Tubeに移し、12,000×gで10分間遠心する。
- 測定用サンプルはn=3で測定する場合、合計120 μl以上は必要です(1ウェルあたり40 μl)。
- 遠心後の濾液が120 μl以上ない場合は、遠心時間を延長して下さい。
- 操作5. で得られた濾液を測定に用いる(Sample)。
- 測定試料は、検量線範囲内(0-0.5 mmol/l)に入るようにLysis Bufferで希釈し、測定に用いて下さい。
2. Glutamate standard solutionの調製
10 mmol/l Glutamate Standard 50 μlを超純水950 μlで希釈し、0.5 mmol/l Glutamate standard solutionを調製する。
さらに順次2倍希釈していき、標準液(0.5, 0.25, 0.125, 0.0625, 0.0313, 0.0157, 0.00785, 0 mmol/l)とする(図2参照)。
- 細胞溶解溶液中のグルタミン酸濃度を測定する場合、超純水の代わりに、Lysis BufferをGlutamate standard solutionの調製にご使用下さい。
図2 Glutamate standard solutionの調製方法
3. 測定
- Glutamate standard solutionおよびSampleを40 μlずつ、各ウェルに入れる(図3参照)。
- 正確な測定値を得るために、1つの測定試料につき複数(n=3以上)のウェルをご使用下さい。
- Working solution 60 μlを各ウェルに入れる。
- Working solutionを加えると直ちに発色が始まります。各ウェル間のタイムラグを少なくするためにマルチチャンネルピペットをご使用下さい。
- 37 °Cで30分間インキュベートする。
- インキュベートする際は、溶液の揮発を防ぐため、マイクロプレート用シール等をご使用下さい。
- プレートリーダーを用いて450 nmの吸光度を測定する。
- 測定試料(Sample)中のグルタミン酸濃度を検量線より求める。
- これにより求められた値は、調製した測定試料溶液中のグルタミン酸濃度です。希釈前の試料中に含まれるグルタミン酸濃度は、得られた測定値と試料の希釈倍率より算出して下さい。
-
図3 Glutamate standard solutionと
サンプルのプレートレイアウト例(n=3)
-
図4 Glutamate検量線の例
実験例
Erastinによるシスチン/グルタミン酸交換輸送体阻害評価
(1) | A549細胞(1×106 cells/well、10% fetal bovine serum、1% penicillin-streptomycinを含むDMEM培地)を6穴プレートに播種し、37°C、5%CO2インキュベーターで一晩培養した。 |
(2) | 培地を吸引除去し、DMEM培地で目的の濃度に調製したErastin溶液2 mlを加え、37°C、5%CO2インキュベーターで一晩培養した。 |
(3) | 1.5 mlマイクロチューブに細胞培養上清を100 μl取り、超純水で15倍希釈したものを調製した。 |
(4) | Glutamate standard solutionを調製し、標準液を調製した(Glutamate standard solutionの調製参照)。 |
(5) | 調製した測定試料およびGlutamate standard solutionを40 μlずつ、96穴マイクロプレートに入れた。 |
(6) | 調製したWorking solution 60 μlを各ウェルに加えた。 |
(7) | 37°Cで30分間インキュベートした。 |
(8) | プレートリーダーを用いて450 nmの吸光度を測定し、測定試料中グルタミン酸濃度を検量線より求めた。 |
図5 Erastinによるシスチン/グルタミン酸交換輸送体阻害評価
シスチン/グルタミン酸交換輸送体阻害剤であるErastin処理により、培地中に放出されるグルタミン酸は減少することを確認した。
参考文献
1) Cobler, L. et al., Oncotarget, 2018, 9, 32280-32297.
2) Tobias, M. et al., Free Radical Biology and Medicine, 2019, 133, 144-152.
よくある質問/参考文献
G269: Glutamate Assay Kit-WST
Revised May., 17, 2023