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はじめに

 解糖系は細胞の主要な代謝経路の1つであり、その代謝産物である乳酸は解糖系の機能をモニタリングするための指標として利用されています。また、ミトコンドリアは細胞が生きていくためのエネルギーを産生する重要なオルガネラであり、ミトコンドリア膜電位はミトコンドリア機能の指標の1つとしてよく用いられています。ミトコンドリア機能が低下した老化細胞では解糖系を亢進させること1)や、解糖系に強く依存するがん細胞においては、解糖系が抑制されてもミトコンドリア機能を活性化することで生存を維持することが報告されています2)。このように、解糖系とミトコンドリアの機能を併せて見ることは、老化やがんなどの様々な疾患における治療戦略の開発に繋がることが期待されています。
 Glycolysis/JC-1 MitoMP Assay Kitは、乳酸産生量の測定(Lactate Assay)とミトコンドリア膜電位の測定(JC-1 Assay)ができるキットです。本キットには、これらの評価に必要な試薬が全て同梱されています。

キット内容

Dye Mixture (青キャップ) × 1 Lactate Assay に使用します
Lactate Standard (10 mmol/l) (青キャップ) 150 µl × 1
LDH Solution (緑キャップ) 12 µl × 1
Lactate Assay Buffer 5.5 ml × 1
Reconstitution Buffer (白キャップ) 550 µl × 1
JC-1 Dye (赤キャップ) × 1 JC-1 Assay に使用します
Imaging Buffer (10 ×) (赤キャップ) 6 ml × 1
  • 本キットには、96穴マイクロプレート48 well分のLactate Assay用試薬、JC-1 Assay用試薬が含まれます。本キットで測定可能なサンプル数については製品webページに掲載しています。
  • Lactate Assayによる評価は、吸光度を用いた相対評価で行います。

保存条件

0–5 °Cで保存して下さい。

必要なもの(キット以外)

  • マイクロプレートリーダー (450 nmの吸光フィルター)
  • 蛍光検出器 (蛍光顕微鏡、蛍光プレートリーダー)
  • 96穴マイクロプレート、96穴ブラックマイクロプレート(透明底)
  • インキュベーター(37 °C)
  • 20–200 µlのマルチチャンネルピペット
  • 100–1000 µl、20–200 µl、2–20 µlマイクロピペット
  • Dimethyl sulfoxide (DMSO)
  • 1.5 mlマイクロチューブ
  • コニカルチューブ

使用上のご注意

  • キットの中の試薬は、室温に戻してからご使用下さい。
  • 輸送中の振動等により、内容物がチューブ壁面やキャップ裏面に付着している場合がありますので、内容物を底面に落とした後に開封して下さい。
  • LDH Solutionは酵素懸濁液です。静置しておくと酵素が沈殿しますので、ピペッティングにより均一な懸濁液にしてご使用下さい。
  • Lactate Assay用のLactate working solutionをサンプルに加えると直ちに発色が始まります。各ウェル間のタイムラグによる測定誤差を少なくするためにマルチチャンネルピペットをご使用下さい。
  • JC-1 Assayで使用する蛍光検出器毎の推奨測定波長は表1を参照して下さい。
  • 正確な測定値を得るために、1つの測定試料につき複数(n=3以上)のウェルをご使用下さい。
  • 本キットにはガラス製容器およびアルミ製シールキャップを使用しております。取扱いに際しては、保護手袋を着用して下さい。
  • 測定はJC-1 Assayを先に行って下さい(下記フロー図参照)。


表1.蛍光検出器別の推奨測定波長

蛍光プレートリーダー 共焦点レーザー顕微鏡 落射型蛍光顕微鏡

緑色蛍光
 励起波長 480-490 nm
 蛍光波長 525-545 nm

赤色蛍光
 励起波長 530-540 nm
 蛍光波長 585-605 nm

緑色蛍光
 励起波長 488 nm
 蛍光波長 500-550 nm

赤色蛍光
 励起波長 561 nm
 蛍光波長 560-610 nm

緑色蛍光
 GFPまたはFITCフィルター

赤色蛍光
 Cy3またはTRITCフィルター

溶液調製・測定法(Lactate Assay)

Dye Mixture stock solutionの調製

Dye Mixtureのバイアル瓶にReconstitution Buffer (白キャップ)を全量加えて溶解する。

  • Dye Mixture stock solutionはReconstitution Bufferが入っていた瓶に移し、遮光下、冷蔵保存(0–5 °C)して下さい(4ヶ月間安定)。

 

Lactate working solutionの調製

(1) コニカルチューブにDye Mixture stock solutionを加え、Lactate Assay Bufferで希釈する。
(2) 操作(1)で調製した溶液にLDH Solution (緑キャップ)を加える。

  • Lactate working solution調製における各溶液使用量は、表2を参照して下さい。
  • Lactate working solutionは光に不安定であるため、使用直前に調製し、調製後はアルミホイルで覆うなどして遮光して下さい。
    また、調製後のLactate working solutionは保存できません。その日のうちにお使い下さい。
表2 Lactate working solution 調整法
  24 well 48 well
Dye Mixture stock solution 250 μl 500 μl
Lactate Assay Buffer 2.25 ml 4.5 ml
LDH Solution (緑キャップ) 5 μl 10 μl

測定用サンプルの調製

細胞培養上清測定試料を準備する。

  • 測定試料は、1 mmol/l Lactate standard solutionの吸光度の値よりも低くなるように、超純水で希釈したものを調製して下さい(図1参照)。
  • 培地に血清を含む場合、バックグラウンドが高くなります。バックグラウンドコントロールとして、使用した血清入り培地のみの測定試料を準備することをお勧めします。
  • 測定試料は1ウェルあたり20 µl必要です。


 

表3 希釈倍率の目安
  薬剤処理時間
3時間 5時間 24時間
96 穴プレート HeLa, HepG2, A549 (1×104 cells/well) 10 倍希釈 10 倍希釈 15 倍希釈
Jurkat (1×104 cells/well)   10 倍希釈 10 倍希釈
24 穴プレート HeLa, HepG2, A549 (5x104 cells/well) 10 倍希釈 10 倍希釈 20倍希釈
Jurkat (1×106 cells/well) 10 倍希釈 10 倍希釈 15 倍希釈

測定法

  1. 測定用サンプル20 µlを各ウェルに入れる。
    • 正確な測定値を得るために、1つの測定試料につき複数(n=3以上)のウェルをご使用下さい。
  2. Lactate working solution 80 µlを各ウェルに入れる。
    • Lactate working solutionを加えると直ちに発色が始まります。各ウェル間のタイムラグを少なくするためにマルチチャンネルピペットをご使用下さい。
  3. 37 °Cで30分間インキュベートする。
    • インキュベートする際は、溶液の揮発を防ぐため、マイクロプレート用シール等をご使用下さい。
  4. プレートリーダーを用いて450 nmの吸光度を測定する。

溶液調製・測定法(JC-1 Assay)

Imaging Buffer solutionの調製

Imaging Buffer (10×)を超純水で10倍希釈する。

  • Imaging Buffer solutionの調製は表4を参照して下さい。
  • Imaging Buffer solutionは洗浄操作および観察時に使用します。
  • 希釈したImaging Buffer solutionは使用する当日に必要な分量を調製し、その日のうちにお使い下さい。
表4 培養器材別 Imaging Buffer solution の推奨使用量
  付着細胞 浮遊細胞
培養器材 6-well 96-well ibidi 8 well plate 35-mm dish 1.5-ml microtube
Imaging Buffer solution
必要量
2 ml/well 100 μl/well 200 μl/well 2 ml/dish 0.5 ml/tube

 

JC-1 DMSO stock solution (2 mmol/l)の調製

JC-1 DyeにDMSO 25 µlを加え、ピペッティングにより溶解する。

  • JC-1 DMSO stock solutionは冷凍保存(-20 °C)して下さい(1ヶ月間安定)。
  • JC-1 DMSO stock solutionは使用時以外は遮光して下さい。

 

JC-1 working solutionの調製

  1. コニカルチューブにJC-1 DMSO stock solutionを加える。
  2. 操作(1)のコニカルチューブに培地を加えて即座にピペッティングを10回行い、溶液を均一にする。
  • JC-1 working solutionの調製は表5を参照して下さい。
  • JC-1 working solutionの調製に使用するJC-1 DMSO stock solutionおよび培地は、室温に戻してからご使用下さい。
  • 調製したJC-1 DMSO stock solutionを培地に添加すると、色素が析出する可能性があります。必ず上記操作手順にて調製して下さい(JC-1 DMSO stock solutionに培地を加える。図2参照)。
  • 調製後のJC-1 working solutionは保存できません。その日のうちにお使い下さい。
表5 JC-1 working solution(1ウェルあたり)の調整例
  付着細胞 浮遊細胞
培養器材
(JC-1 working solution)
6-well
(1 ml/well)
96-well
(50 μl/well)
ibidi 8 well plate
(100 μl/well)
35-mm dish
(1 ml/dish)
1.5-ml microtube
(0.25 ml/tube)
培地量 1000 μl 50 μl 100 μl 1000 μl 250 μl
JC-1 DMSO stock solution 6.6 μl 0.33 μl 0.66 μl 6.6 μl 1.6 μl

   

  • JC-1 working solutionはJC-1 DMSO stock solutionを培地で150倍希釈して調製して下さい。

 

測定法

表6 培養器材別 JC-1 working solution の添加量
  付着細胞 浮遊細胞
培養器材 6-well 96-well ibidi 8 well plate 35-mm dish 1.5-ml microtube
細胞培養上清体積
(操作(1))
1000 μl 50 μl 100 μl 1000 μl 250 μl
JC-1 working solution 添加量
(操作(2))
1000 μl 50 μl 100 μl 1000 μl 250 μl

付着細胞

  1. ディッシュまたはマイクロプレートに播種した細胞を準備する。
  2. 調製したJC-1 working solutionを添加し、インキュベーター(37 °C、5% CO2存在下)で30分間静置する。
  3. 上清を除去した後、Imaging Buffer solutionで2回洗浄する。
  4. Imaging Buffer solutionを添加し、蛍光顕微鏡で観察またはプレートリーダーで測定する。
  • 励起光を照射し続けると蛍光の退色が起こる可能性があります。できる限り素早く観察を行って下さい。
     

浮遊細胞

  1. マイクロチューブに細胞を準備する。
  2. 調製したJC-1 working solutionを添加し、ピペッティングにより懸濁後、インキュベーター(37 °C、5% CO2存在下)で30分間静置する。
  3. 300×gで5分間遠心し、上清を除去する。
  4. Imaging Buffer solutionを加え、ピペッティングにより懸濁後、300×gで5分間遠心し、上清を除去する。この操作を2回繰り返す。
  5. Imaging Buffer solutionを添加し、蛍光顕微鏡で観察またはプレートリーダーで測定する。
  • 励起光を照射し続けると蛍光の退色が起こる可能性があります。できる限り素早く観察を行って下さい。

操作

表7 培養器材別上清回収量および JC-1 working solution の添加量
  付着細胞 浮遊細胞
培養器材
(細胞数目安)
6-well
(2 x 105 cells/well)
96-well
(1 x 104 cells/well) 
ibidi 8 well plate
(2 x 104 cells/well)
35-mm dish
(2 x 105 cells/dish)
1.5-ml microtube
(1 x 106 cells/tube)
薬剤刺激時培地量
(操作(2))
2000 μl 100 μl 200 μl 2000 μl 500 μl
上清回收量
(操作 (3))
1000 μl 50 μl 100 μl 1000 μl 250 μl
JC-1 working solution 添加量
(操作(4))
1000 μl 50 μl 100 μl 1000 μl 250 μl

付着細胞

  1. 細胞をディッシュまたはマイクロプレートに播種し、インキュベーター(37 °C、5% CO2存在下)で一晩培養する。
  2. 培地を吸引除去し、必要に応じて薬剤刺激を行う。
  3. 1.5 mlマイクロチューブに細胞培養上清を半分量回収する。
  4. ディッシュまたはマイクロプレートに残った細胞をJC-1 Assayに用いる。
  5. 操作3. で回収した細胞培養上清を用いてLactate Assayを行う。

 

浮遊細胞

  1. マイクロチューブに細胞を準備する。
  2. 300×gで5分間遠心し、上清を除去した後、必要に応じて薬剤刺激を行う。
  3. 300×gで5分間遠心する。
  4. 1.5 mlマイクロチューブに細胞培養上清を半分量回収する。
  5. マイクロチューブに残った細胞をJC-1 Assayに用いる。
  6. 操作4. で回収した細胞培養上清を用いてLactate Assayを行う。

実験例

Carbonyl cyanide p-trifluoromethoxyphenyl hydrazone (FCCP)で処理したHeLa細胞の乳酸産生量およびミトコンドリア膜電位の評価

  1. HeLa細胞(1×104 cells/well、10% fetal bovine serum、1% penicillin-streptomycinを含むMEM培地)を96穴ブラックプレート(透明底)に播種し、インキュベーター(37 °C、5% CO2存在下)で一晩培養した。
  2. 培地を除去し、0 µmol/lまたは10 µmol/l FCCPを含むMEM培地100 µlを添加する。
  3. インキュベーター(37 °C、5% CO2存在下)で4時間静置した。
  4. 1.5 mlマイクロチューブに各ウェルから細胞培養上清50 µlを回収し、超純水で10倍希釈したものを調製し、Lactate Assay用の測定試料とした。
    • バックグラウンドコントロール用に、MEM培地のみを超純水で10倍希釈したものも調製した。
  5. 上清回収後の96穴ブラックプレートに、調製したJC-1 working solution 50 µlを各ウェルに加えた。
  6. インキュベーター(37 °C、5% CO2存在下)で30分間静置した。
  7. 上清を除去した後、Imaging Buffer solution 100 µlで2回洗浄した。
  8. Imaging Buffer solution 100 µlを添加し、蛍光顕微鏡観察(Zeiss社 LSM800)およびプレートリーダー(TECAN社 Infinite M200 PRO、ボトムリーディング)測定を行った。
  9. 操作4. で調製した測定試料を20 µlずつ、新しい96穴マイクロプレートに入れた。
  10. 調製したLactate working solution 80 µlを各ウェルに加えた。
  11. 37 °Cで30分間インキュベートした。
  12. プレートリーダーを用いて450 nmの吸光度を測定し、得られた吸光度の値を比較した。


図3 FCCPで処理したHeLa細胞の乳酸産生量およびミトコンドリア膜電位の変化
(a) ミトコンドリア膜電位 (蛍光イメージング)
(b) ミトコンドリア膜電位 (プレートリーダー測定)
(c) 乳酸産生量
FCCP処理によりHeLa細胞のミトコンドリア膜電位は低下するが、乳酸産生量は増加することを確認した。
 

参考文献

  1. E. Liao, et al., Cell Death and Disease, 2014, 5, e1255.
  2. R. Shiratori, et al., Sci. Rep., 2019, 9, 18699.

G272: Glycolysis/JC-1 MitoMP Assay Kit
Revised Jun., 02, 2023