はじめに
α-ケトグルタル酸は、TCAサイクルの中間代謝物として重要な基質です。グルコース代謝物のTCA回路への取り込み亢進の指標や、グルタミンを基質に、α-ケトグルタル酸を供給する経路である「グルタミノリシス」亢進の指標の1つとして用いられています。α-ケトグルタル酸は、神経伝達物質であるグルタミン酸やγ-アミノ酪酸(GABA)の生成において重要な役割を果たすだけでなく、活性酸素種の消去にも大きく寄与しています。また最近のがん研究では、α-ケトグルタル酸が、がん抑制遺伝子産物のp53タンパク質を介した腫瘍抑制に効果的に働くことが報告されています1)。
α-Ketoglutarate Assay Kit-Fluorometricは、α-ケトグルタル酸を定量するキットです。反応により生成したResorufinの蛍光を測定することにより、細胞内のα-ケトグルタル酸を定量することができます。また、本キットは96穴マイクロプレートに対応しているため、多検体測定が可能です。
図1 α-Ketoglutarate Assay Kit-Fluorometricの測定原理
キット内容
-
α-KG Standard (10mmol/l) (白キャップ) 300 μl x 1 A Control Buffer 25 ml x 1 B Lysis Solution 2 ml x 1 C ALT Solution (青キャップ) 35 μl x 1 D Reaction Buffer (青キャップ) 5 ml x 1 E Enzyme Mix (赤キャップ) x 1 F Coenzyme (黄キャップ) x 1 G Fluorescent Dye (緑キャップ) x 1 H Assay Buffer (赤キャップ) 6.5 ml x 1 I ※本キットでは、n=3の測定で標準サンプル8点と測定用サンプル 12 サンプル分の測定が可能です。
保存条件
遮光し、0-5 ℃で保存して下さい。
必要なもの (キット以外)
- 蛍光マイクロプレートリーダー(530-560 nmの励起フィルター、580-600 nmの蛍光フィルターを推奨)
- 蛍光測定用96 穴マイクロプレート(ブラックプレート)
- インキュベーター(37 ℃)
- 20-200 μlのマルチチャンネルピペット
- 100-1000 μl、20-200 μl、2-20 μlマイクロピペット
- PBS、DMSO、10 mmol/l HCl
- コニカルチューブ
使用上のご注意
- キットの中の試薬は、室温に戻してからご使用下さい。
- 輸送中の振動等により、内容物がスクリューキャップマイクロチューブ壁面やキャップ裏面に付着している場合がありますので、内容物を底面に落とした後に開封して下さい。
- tep 1で使用するALT Solutionは酵素懸濁液です。静置しておくと酵素が沈殿しますので、ピペッティングにより均一な懸濁液にしてご使用下さい。
- 正確な測定値を得るために、1つの測定試料につき複数(n=3以上)のウェルを使用下さい。
- Working solutionをサンプルに加えると直ちに発色が始まります。各ウェル間のタイムラグによる測定誤差を少なくするためにマルチチャンネルピペットをご使用下さい。
- 本品は細胞内α-ケトグルタル酸の定量に最適化されています。測定試料は、検量線範囲内に入るように希釈したものを数種類調製し、測定に用いて下さい。
溶液調製
Fluorescent Dye stock solutionの調製
Fluorescent Dye (緑キャップ)にDMSO 70 μlを加え、ピペッティングにより溶解する。
- 内容物が見えづらくなっています。DMSOを添加後、ピペッティングを数回繰り返し、よく混合してからご使用下さい。
- Fluorescent Dye stock solutionは遮光し、冷凍保存(-20 ℃)して下さい(2ヶ月間安定)。
Enzyme Mix stock solutionの調製
Enzyme Mix (赤キャップ)にPBS 70 μlを加え、ピペッティングにより溶解する。
- 内容物がチューブ底面から外れ、チューブ壁面やキャップ裏面に付着している場合があります。内容物を底面に落とした後に開封して下さい。
- Enzyme Mix stock solutionは氷浴上で使用し、溶解後は冷蔵保存(0-5 ℃)して下さい(2ヶ月間安定)。
Coenzyme stock solutionの調製
Coenzyme (黄キャップ)に超純水130 μlを加え、ピペッティングにより溶解する。
- 内容物がチューブ底面から外れ、チューブ壁面やキャップ裏面に付着している場合があります。内容物を底面に落とした後に開封して下さい。
- Coenzyme stock solutionは氷浴上で使用し、溶解後は冷蔵保存(0-5 ℃)して下さい(2ヶ月間安定)。
ALT reaction mixtureの調製
ALT Solution (青キャップ)をReaction Buffer (青キャップ)で希釈する。
- ALT reaction mixtureは、表1をご参照の上、調製して下さい。
- ALT reaction mixtureはStep 1の操作で使用します。
表1 ALT reaction mixture調製例
24 well分 | 48 well分 | 96 well分 | |
Reaction Buffer (青キャップ) | 550 μl | 1100 μl | 2200 μl |
ALT Solution (青キャップ) | 6 μl | 12 μl | 24 μl |
Working solutionの調製
- コニカルチューブにAssay Buffer(赤キャップ)を加える。
- 操作 1. のコニカルチューブにFluorescent Dye stock solution (緑キャップ)、Enzyme Mix stock solution (赤キャップ)、Coenzyme stock solution (黄キャップ)を加える。
- Working solutionは、表2をご参照の上、調製して下さい。
- Working solutionは、Step 2の操作で使用します。
- Working solutionは光に不安定であるため、使用直前に調製し、調製後はアルミホイルで覆うなどして遮光して下さい。
また、調製後のWorking solutionは保存できません。その日のうちにお使い下さい。
表2 Working solution調製例
24 well分 | 48 well分 | 96 well分 | |
Assay Buffer (赤キャップ) | 1500 μl | 3000 μl | 6000 μl |
Fluorescent Dye stock solution (緑キャップ) | 15 μl | 30 μl | 60 μl |
Enzyme Mix stock stock solution (赤キャップ) | 15 μl | 30 μl | 60 μl |
Coenzyme stock solution (黄キャップ) | 30 μl | 60 μl | 120 μl |
操作
1. 測定用サンプルの調製
α-Ketoglutarate Assay Kit-Fluorometricを用いたサンプル中α-ケトグルタル酸濃度の定量方法は、図2に示す通りです。測定用サンプルはn=3で測定する場合、ALT reaction mixtureを添加する分(50 μl×3ウェル)と、ALT reaction mixtureを添加しない分(50 μl×3ウェル)の計300 μl (6ウェル分)が必要となります。
サンプル中α-ケトグルタル酸濃度(μmol/l)=(ALT reaction mixture添加有)-(ALT reaction mixture添加無)
図2 α-Ketoglutarate Assay Kit-Fluorometricを用いたα-ケトグルタル酸の検出方法
-細胞内α-ケトグルタル酸定量用サンプルの調製-
- 細胞 (2-4×106 cells)を1.5 mlマイクロチューブに準備する。
- 300×gで5分間遠心し、細胞ペレットを吸わないように上清を除去する(写真①参照)。
- PBS 500 μlを加え、ピペッティングにより懸濁後、300×gで5分間遠心し、細胞ペレットを吸わないように上清を除去する(写真①参照)。
- 10 mmol/lのHCl 80 μlを加え、ピペッティングにより懸濁後、凍結と融解を3回繰り返し、細胞膜を破壊する。
- Lysis Solution 20 μlを加え、ピペッティングにより混合後、8000×gで10分間遠心する。
- 上清 80 μlを新しい1.5 mlマイクロチューブに移し、Control Buffer 270 μlを加え、よく混合する。
- 操作(6)で得られた溶液を測定に用いる(Sample)。
- ここで得られた測定用サンプルは、ALT reaction mixtureを添加する分(50 μl×3ウェル)と、ALT reaction mixtureを添加しない分(50 μl×3ウェル)の計6ウェル分となります。
- 測定試料は、検量線範囲内(0-20 μmol/l)に入るようにControl Bufferで希釈したものを数種類調製してから測定して下さい。
2. α-Ketoglutarate (α-KG) standard solutionの調製
- 10 mmol/l α-KG Standard 10 μlを超純水490 μlで希釈し、200 μmol/l α-KG Standard solutionを調製する。
- 操作(1)で調製した200 μmol/l α-KG Standard solution 50 μlをさらにControl Buffer 450 μlで希釈し、20 μmol/l α-KG Standard solutionを調製する。さらに順次2倍希釈していき、標準液(20, 10, 5, 2.5, 1.25, 0.625, 0.313, 0 μmol/l)とする(図3参照)。
図3 α-Ketoglutarate (α-KG) standard solutionの調製方法
3. 測定
-Step 1-
- α-KG standard solutionおよびSampleを50 μlずつ、各ウェルに入れる(図4参照)。
- 正確な測定値を得るために、1つの測定試料につき複数(n=3以上)のウェルをご使用下さい。
- ALT reaction mixture 20 μlを、α-KG standard solutionおよびSample (ALT reaction mixture添加有)の各ウェルに入れる。
- Sample (ALT reaction mixture添加無)の各ウェルに、Reaction Buffer 20 μlを入れる。
- 37 ℃で30分間インキュベートする。
- インキュベートする際は、溶液の揮発を防ぐため、マイクロプレート用シール等をご使用下さい。
図4 α-KG standard solutionとサンプルのプレートレイアウト例(n=3)
-Step 2-
- 37 ℃で30分間インキュベート後、Working solution 50 μlを各ウェルに入れる。
- Working solutionを加えると直ちに発色が始まります。各ウェル間のタイムラグを少なくするためにマルチチャンネルピペットをご使用下さい。
- 37 ℃で30分間インキュベートする。
- インキュベートする際は、溶液の揮発を防ぐため、マイクロプレート用シール等をご使用下さい。
- 蛍光プレートリーダーを用いて蛍光強度を測定する(Ex: 530-560 nm, Em: 580-600 nm)。
- 測定試料(Sample)中のα-ケトグルタル酸濃度を検量線より求める。
- 測定試料中のα-ケトグルタル酸濃度は以下の計算式より算出します。
α-ケトグルタル酸濃度(μmol/l)=(ALT reaction mixture添加有)-(ALT reaction mixture添加無) - これにより求められた値は、調製した測定試料溶液中の濃度です。希釈前の試料中に含まれる濃度は、得られた測定値と試料の希釈倍率より算出して下さい。
- 測定試料中のα-ケトグルタル酸濃度は以下の計算式より算出します。
図5 α-Ketoglutarate検量線の例
実験例
Doxorubicin処理により老化誘導したA549細胞内α-ケトグルタル酸濃度変化の評価
- A549細胞(2×107 cells/dish、10% fetal bovine serum、1% penicillin-streptomycinを含むDMEM培地)を10 cmディッシュに播種し、インキュベーター(37 ℃、5%CO2存在下)で一晩培養した。
- 培地を吸引除去し、DMEM培地で希釈した200 nmol/lのDoxorubicin溶液10 mlを加え、インキュベーター(37 ℃、5%CO2存在下)で4日間培養した。
- 培地を吸引除去し、DMEM培地を加え、インキュベーター(37 ℃、5%CO2存在下)で2日間培養した。
- 培地を吸引除去し、PBS 2 mlで1回洗浄した。
- トリプシン処理により細胞を剥がした後、DMEM培地でコニカルチューブに回収した。
- Doxorubicin処理あり、なしのA549細胞(2×106 cells/tube)をそれぞれ1.5 mlマイクロチューブに準備した。
- 300×gで5分間遠心し、上清を除去した。
- PBS 500 μlを加え、ピペッティングにより懸濁後、300×gで5分間遠心し、上清を除去した。
- 10 mmol/lのHCl 80 μlを加え、ピペッティングにより懸濁後、凍結と融解を3回繰り返した。
- Lysis Solution 20 μlを加え、8000×gで10分間遠心した。
- 上清 80 μlを新しい1.5 mlマイクロチューブに移し、Control Buffer 270 μlを加えてよく混合し、測定試料とした。
- α-Ketoglutarate standard solutionを調製し、標準液を調製した(α-Ketoglutarate standard solutionの調製参照)。
- 調製した測定試料およびα-Ketoglutarate standard solutionを50 μlずつ、96穴マイクロプレート(ブラックプレート)に入れた。
- 調製したALT reaction mixture 20 μlを、α-KG standard solutionおよびサンプル(ALT reaction mixture添加有)の各ウェルに加えた。
- ALT reaction mixture添加無のサンプルの各ウェルには、Reaction Buffer 20 μlを加えた。
- 37 ℃で30分間インキュベートした。
- 調製したWorking solution 50 μlを各ウェルに加えた。
- 7 ℃で30分間インキュベートした。
- 蛍光プレートリーダーを用いて蛍光強度を測定し(Ex: 535 nm, Em: 590 nm)、測定試料中α-ケトグルタル酸濃度を検量線より求めた。測定試料中のα-ケトグルタル酸濃度は以下の計算式より算出した。
α-ケトグルタル酸濃度(μmol/l)=(ALT reaction mixture添加有)-(ALT reaction mixture添加無)
図6 Doxorubicin (DOX)処理により老化誘導したA549細胞内α-ケトグルタル酸濃度の変化
Doxorubicin処理により、A549細胞内α-ケトグルタル酸濃度は増加することを確認した。
参考文献
- John, P. M. IV. et al., Nature, 2019, 573, 595-599
よくある質問/参考文献
K261: α-Ketoglutarate Assay Kit-Fluorometric
Revised May., 22, 2023