はじめに
リソソームは細胞内小器官の一つで生体膜に囲まれた酸性小胞であり、様々な分解酵素を内包しております。リソソームは不要な物質を分解することで生体内恒常性の維持に寄与しています。リソソームの機能不全は神経変性疾患等の発症・進展に深く関与していることから、リソソームを詳細に解析することが病態の解明や治療薬の開発に有用であると考えられております。
本キットは、リソソームpHに依存的なpHLys Redと、非依存的なLysoPrime Greenで構成されています。pHLys Redは、リソソーム機能の低下によってリソソームのpHが中性化すると蛍光強度が減少します。一方、LysoPrime Greenは、リソソームのpH変化に非依存性があるため、蛍光強度が変化しません。そのため、正確なリソソーム量の解析を可能とします。リソソームのpHに依存的もしくは非依存的な集積性を示す2種類の色素を組み合わせることで、リソソームpHとリソソーム量を測定し、正確なリソソームpHの変化を検出できます。
図1. pHLys Red (pH依存) 及びLysoPrime Green (pH非依存) によるリソソーム染色について
蛍光特性
pHLys RedとLysoPrime Greenの蛍光特性
-
pHLys Red
λex: 562 nm
λem: 586 nm
<観察条件>
Ex : 561 nm
Em : 560 – 650 nm
-
LysoPrime Green
λex: 456 nm
λem: 540 nm
<観察条件>
Ex : 488 nm
Em : 500 – 600 nm
内容
pHLys Red | x 1 |
LysoPrime Green | 10 μl x 1 |
Bafilomycin A1 | x 1 |
- pHLys Red、Bafilomycin A1は極少量であるため、内容物が見え難くなっています。取扱いにご注意下さい。
保存条件
-80℃にて保存してください。
- LysoPrime Greenの保存温度の違い (25℃、4℃、 -20℃、-80℃) による染色能への影響は、小社webサイトの製品ページ(品コード: L261)のFAQに掲載しています。
必要なもの
- 培地
- Hanks’ Balanced Salt Solution (HBSS) または無血清培地
- マイクロピペット
- マイクロチューブ
溶液調製
pHLys Red DMSO stock solution の調製
pHLys Redを含むチューブに 20 μlのDMSOを加え、ボルテックスミキサーにより溶解し、DMSO stock solutionを調製する。
- 調製後は-20℃で保存して下さい。調製後1ヶ月間安定です。
pHLys Red working solution の調製
pHLys Red DMSO stock solutionを培地またはHBSSで1,000 倍希釈し、pHLys Red working solutionを調製する。
- 細胞種によって最適濃度が異なります。はじめてご使用される際には最適条件をご検討ください。(推奨希釈域: 250 – 1,000倍)
- pHLys Red working solutionは保存できません。調製したその日のうちに、ご使用ください。
LysoPrime Green working solution の調製
LysoPrime Green溶液を無血清培地またはHBSSで2,000 倍希釈し、LysoPrime Green working solutionを調製する。
- 細胞種によって最適濃度が異なります。はじめてご使用される際には最適条件をご検討ください。(推奨希釈域: 1,000 – 4,000倍)
- 本色素は血清成分の影響を受けるため、無血清培地またはHBSSで希釈してください。
- LysoPrime Green working solutionは保存できません。調製したその日のうちに、ご使用ください。
Bafilomycin A1 DMSO stock solutionの調製
Bafilomycin A1を含むチューブにDMSO 24 μlを加え、ピペッティングにより溶解する。
- 調製後は-20℃で保存して下さい。調製後1ヶ月間安定です。
Bafilomycin A1 working solutionの調製
Bafilomycin A1 DMSO stock solutionを培地またはHBSSで2,000倍希釈する。
- 細胞種によって最適濃度が異なります。はじめてご使用される際には最適条件をご検討ください。(推奨希釈域: 1,000 – 5,000倍)
- Bafilomycin A1 working solutionは保存できません。調製したその日のうちに、ご使用ください。
操作
- 細胞をディッシュに播種し、5% CO2存在下、37 ℃で培養する。
- 培地を取り除き、HBSSもしくは無血清培地を用いて細胞を2回洗浄する。
- LysoPrime Green working solutionを加え、5% CO2存在下、37 ℃で30分インキュベートする。※1
- 上澄みを取り除き、HBSSを用いて細胞を2回洗浄する。※2
- pHLys Red working solution (HBSS) を加え、37 ℃で 30 分インキュベートする。※3
- 上澄みを取り除き、HBSSもしくは培地を用いて2回洗浄する。
- 培地を加え、蛍光顕微鏡で観察する。
- LysoPrime Greenの染色は、必ず薬剤刺激前に行ってください。
- pHLys Redの染色は、必ずLysoPrime Green染色後に行ってください。
- Bafilomycin A1を用いた刺激方法は、pHLys Red working solutionにBafilomycin A1を添加し染色と刺激を同時に行うか、pHLys Red working solutionで染色後にBafilomycin A1で刺激を行ってください。
実験例
共焦点蛍光顕微鏡を用いたリソソーム中pH変化の観察
- μ-slide 8 well plate (ibidi社) にHeLa細胞 (1.0 x 104 cells/well) を播種し、5%CO2存在下、37℃で一晩培養した。
- HBSSで2回洗浄後、LysoPrime Green working solution (2,000倍希釈)をwellに200 μl加え、37 ℃で30分インキュベートした。
- 上澄みを取り除き、細胞をHBSSで2回洗浄した。
- HBSSで希釈した±Bafilomycin A1 (Baf. A1: リソソーム酸性化阻害剤) (1,000倍希釈) を含んだpHLys Red working solution (1,000倍希釈)をwellに200 μl加え、37 ℃で30分インキュベートした。
- 上澄みを取り除き、細胞をHBSSで2回洗浄した。
- 新しい10% FBS含有MEM培地をwellに200 μl加え、共焦点蛍光顕微鏡で観察した。
図2. Bafilomycin A1によるリソソームpHへの影響
CTRL: 通常培養条件、Baf. A1: リソソーム酸性化阻害条件 pHLys Red 検出波長 : 561 nm (Ex), 560 – 650 nm (Em) LysoPrime Green 検出波長 : 488 nm (Ex), 500 – 570 nm (Em) |
よくある質問/参考文献
L266: Lysosomal Acidic pH Detection Kit
Revised May., 24, 2023