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はじめに

 活性酸素種の一つであり非常に強い酸化力を持つ一重項酸素は、皮膚のシミやシワの原因となることが知られており、化粧品分野ではこの一重項酸素を消去する化合物の探索が進められております。一方、医学分野、特に癌の治療においては、光感受性物質とレーザー照射により発生した一重項酸素の酸化力により癌細胞を破壊する光線力学的治療の研究が進められており、細胞内における一重項酸素レベルをモニターできる試薬が望まれております。しかしながら既存の一重項酸素検出試薬は細胞膜を透過しない為、細胞内の一重項酸素を検出できません。
 真嶋らが開発した一重項酸素検出試薬 Si-DMAは、silicon rhodamine(SiR)骨格を蛍光団とし、一重項酸素反応部位としてアントラセンを有した構造を持つ蛍光プローブです1)。このSi-DMAは、容易に細胞膜透過しミトコンドリアに集積後、選択的に一重項酸素と応答して強い蛍光を発します(図3)。また、Si-DMAは5- aminolevulinic acid (5-ALA)で処理した細胞内のミトコンドリアで生成されるプロトポルフィリンIX由来の一重項酸素をイメージングすることが可能です(図4)。このことからSi-DMAは、細胞内一重項酸素のイメージングが可能な蛍光色素として今後の研究への応用が期待されます。


図1 Si-DMAの細胞染色原理

 


図2 一重項酸素と反応後のSi-DMAの励起・蛍光スペクトル


図3 Si-DMAの一重項酸素反応特異性
(Excitation 640 nm/Emission 665 nm)

内容

Si-DMA 2 μg x 1

保存条件

遮光、-20 ℃にて保存してください。

  • Si-DMAは光により劣化します。使用時以外はアルミラミジップに入れ、チャックをしっかりと閉め、-20 ℃以下で保存してください。

必要なもの

  • Dimethyl sulfoxide (DMSO)
  • Hanks’ HEPES bufferまたはHBSS
  • マイクロピペット

溶液調製

100 μmol/l Si-DMA DMSO stock solution の調製

Si-DMA 2 μgを含むチューブに 36 μLのDMSO を加え、ピペッティングにより溶解する。

  • Si-DMA DMSO stock solutionは遮光し、-20 ℃以下で保存してください。
    この条件で保存を行うと、一ヶ月間安定であることを確認しています。

     

Si-DMA working solution の調製

濃度が25-100 nmol/Lになるように、Si-DMA DMSO stock solution をHanks’ HEPES buffer 等で希釈する。

  • Si-DMA working solutionは、遮光し、その日の内にご使用ください。

注意点

Si-DMA working solution の濃度は25-100 nmol/Lでの使用を推奨いたします。Si-DMAの使用濃度が1 μmol/L以上の場合、Si-DMAがミトコンドリア以外へ集積する可能性があります。また、Si-DMAの使用濃度が5 μmol/L以上の場合には、細胞毒性を示す場合がございます(HeLa細胞)。

操作

Si-DMAによる細胞染色

  1. 細胞をディッシュまたはチャンバーに播種し、培養する。
  2. 培地を取り除き、Hanks’ HEPES bufferで2回洗浄する。
  3. 調製したSi-DMA working solution を添加する。
  4. 5% CO2インキュベーター(37 ℃)にて45分間インキュベートする。
  5. 上澄みを除去しHanks’ HEPES bufferで2回洗浄する。
  6. Hanks’ HEPES bufferを加え蛍光顕微鏡で観察する。

実験例

5-aminolevulinic acid (5-ALA)で処理したHeLa細胞を用いた一重項酸素の検出

  1.  200 μL のHeLa細胞(2.4×105 cells/mL)をμ-slide 8 well (ibidi)にDMEMDMEM培地(10% fetal bovine serum(serum、1% penicillin-streptomycin)で播種し、5% CO2インキュベーターで37 ℃、一晩培養した。
  2.  培地を取り除き、200 μLのHanks’ HEPES bufferで細胞を2回洗浄した。
  3.  Hanks’ HEPES buffer で溶解した150 μg/mLの5-ALA溶液を200 μl添加し、5% CO2インキュベーター(37 ℃)にて4時間インキュベートした。
  4.  上澄みを除去し、200 μL のHanks’ HEPES bufferで2回洗浄した。
  5.  Si-DMA working solution (40 nmol/L) 200 μLを添加し、 5% CO2インキュベーター(37 ℃)にて45分間インキュベートした。
  6.  上澄みを除去し、200 μL のHanks’ HEPES bufferで2回洗浄した。
  7. 200 μLのHanks’ HEPES bufferを加え、蛍光顕微鏡で観察した。

Filter (wavelength/band pass)
蛍光イメージング: 600/50 nm (Ex), 685/50 nm (Em): Em)


図4 5-ALAで処理したHeLa細胞のSi-DMAによる一重項酸素の検出

蛍光イメージングの結果、観察光の照射により、5-ALAで処理したHeLa細胞で蛍光強度が増大した。よって、Si-DMAは5-ALAにより生成したプロトポルフィリンIXに観察光が照射したことにより発生する一重項酸素の検出が可能である。

参考文献

  1.  S. Kim, T. Tachikawa, M. Fujitsuka, T. Majima, “Far-Red Fluorescence Probe for Monitoring Singlet Oxygen during Photodynamic Therapy”, J. Am. Chem. Soc., 2014, 136 (33), 11707-11715.

MT05: Si-DMA for Mitochondrial Singlet Oxygen Imaging
Revised Aug., 22, 2023