はじめに
近年、硫化水素 (H2S) が、血管拡張や細胞保護、インスリン分泌や神経伝達調節など様々な生理活性を示すことが明らかにされ、一酸化窒素 (NO) や一酸化炭素 (CO) に続く重要なシグナル分子として注目されています。硫化水素は、NOやCOと同様にガス状分子として認知されていますが、そのpKaは約7であり生理的pHでは80%程度が硫化水素イオン (HS-) の状態で存在します。また、硫化水素イオンは、生体内で様々な結合形態や構造をとるため、その作用機序の詳細に関して未だ不明であり硫化水素を中心とした硫黄の生体内機能の解明が待ち望まれています。
Monobromobimaneを用いた分析法は、最も高感度で汎用性の高い硫化水素検出法として利用されています。Monobromobimaneは、チオール特異的蛍光ラベル化剤であり、硫化水素1分子に対し、2分子のBimaneが結合した化合物 (Sulfide dibimane) を生成します (Fig. 1)。Sulfide dibimaneは、monobromobimaneがグルタチオンやシステインなどのチオール化合物と反応したbimane化合物とのHPLC分離が可能であり、また生成した化合物が蛍光を有するため、蛍光検出による高感度分析ができます1), 2), 3)。
Fig. 1 Monobromobimaneと硫化水素の反応
内容
SB15 : -SulfoBiotics- Sulfide dibimane | 10 nmol/tube x 5 |
- 注意:本品は10 nmol/tubeと極少量であるため、内容物が見え難くなっております。取扱いにご注意ください。
保存条件
遮光、0-5℃にて保存してください。
- 注意:本品は光によって劣化します。アルミラミジップ開封後、光を避け保存し、溶解後はその日の内にご使用ください。
HPLC実験例
測定サンプルの前処理例
- 70 μlの 100 mmol/l Tris-HCl buffer (pH 9.5, 0.1 mmol/l DTPA) を含むチューブにサンプル溶液を 30 μl加える。
- 10 mmol/l monobromobimane アセトニトリル溶液を 50 μl 加える。
- 30 分間インキュベートする。
- 50 μl の200 mmol/l 5-sulfosalicylic acid を加える。
- 上澄みをHPLCサンプルとする。
- 詳細な定量方法(monobromobimane 法)は、Methods Enzymol., 2015, 554, 315)をご参照ください。
検量線を用いた硫化水素定量の例
- -SulfoBiotics- Sulfide dibimane 10 nmol を含むチューブに100 μl のアセトニトリルを加え、ピペッティングにより溶解し、 0.1 mmol/l Sulfide dibimane stock solution とする。
- 0.1 mmol/l Sulfide dibimane stock solutionを実験に応じてアセトニトリルにて段階希釈し、既知濃度溶液を作成する。
- 操作7. の溶液をHPLCにそれぞれ 5 μl インジェクトし、得られた面積値から検量線を作成する (Fig. 2)。
- 上記操作5. で得られたサンプル5 μl をHPLCにて分析し (Fig. 3)、Sulfide dibimaneの面積値を算出する。
- 検量線より、サンプル中の硫化水素イオン濃度を求める。
- Sulfide dibimane溶液は光によって劣化します。各溶液はアルミホイル等でカバーし、光を避けてその日の内にご使用ください。
Fig. 2 検量線例
-
<HPLC条件例>
Column: Inertsil ODS-3Mobile Phase: A) 0.1% TFA/H2O, B) 0.1% TFA/Acetonitrile (TFA: trifluoroacetic acid)
B conc.: 5% to 35% (0 to 5 min.), 35% to 55% (5 to 16 min.),55% to 70% (16 to 23 min.)Detection: Fluorescence (Ex: 390 nm, Em: 475 nm) Flow Rate: 1 ml/min Column Temp: 40°C Fig. 3 HPLCチャート例
参考文献
- G. L. Newton, R. Dorian and R. C. Fahey, Anal. Biochem., 1981, 114, 383.
- E. A. Wintner, T. L. Deckwerth, W. Langston, A. Bengtsson, D. Leviten, P. Hill, M. A. Insko, R. Dumpit, E. Vanden Ekart, C. F. Toombs and C. Szabo, Br. J. Pharmacology, 2010, 160, 941.
- X. Shen, C. B. Pattillo, S. Pardue, S. C. Bir, R. Wang and C. G. Kevil, Free Radic. Biol. Med., 2011, 50, 1021.
よくある質問/参考文献
SB15: -SulfoBiotics - Sulfide dibimane
Revised Apr., 11, 2024