これからはじめる ミトコンドリア研究

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ミトコンドリアとは?

ミトコンドリアは我々ヒトを始めとするほとんどの真核生物の細胞内に存在する細胞小器官の1つです。数ある細胞小器官のなかでも特にエネルギー産生(アデノシン三リン酸:ATP)において重要な役割を果たすミトコンドリアは、その形態、機能、活性など様々な指標について盛んに研究が行われています。また、ミトコンドリアの活性や機能障害が癌や老化、アルツハイマーやパーキンソン病等の神経変性疾患などと密接に関与していることが明らかになってきています。本ページではミトコンドリアの状態を理解するうえで重要な指標である「ミトコンドリア膜電位」を始めとする様々な指標に対する研究用試薬をご紹介しています。

下記表では、ミトコンドリア研究用試薬として、損傷ミトコンドリアの品質管理システムであるマイトファジー検出(Mitophagy Detection Kit, Keima-Red)をはじめ、ROS:活性酸素種の検出(Si-DMAmtSOX、MitoSOX)およびROSにより酸化を受け生じた過酸化脂質などの脂溶性過酸化物の検出(MitoPeDPP)、更にはミトコンドリア染色用および膜電位依存的な各種蛍光プローブ(MitoBright LTシリーズ [Green] [Red] [Deep Red])、MitoBright IM、MitoTrackerシリーズ、JC-1MT-1)の特徴を紹介しています。

 

セミナー/学術動画

 

ミトコンドリア:試薬の選び方

細胞内代謝測定:試薬の選び方

細胞内代謝測定:試薬の使い方

グルコース取込み検出:開発者解説

細胞増殖/毒性試験:試薬の選び方

ミトコンドリア解析法と関連する
指標を併せて紹介(30秒解説)

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各代謝測定法の比較や測定意義を
実験例を交え紹介(30秒解説)

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細胞内代謝と関連の複数指標を、効率よく一サンプルで測定する方法を紹介

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検出目的から従来測定法との比較など
実験例を交え解説(30秒解説)

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各種測定法の原理と指標を解説し
目的に応じた試薬の選び方を解説

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ミトコンドリア関連 研究用試薬の比較

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出対象 試薬名 検出原理 ミトコンドリア集積性 生細胞の染色・観察
    (染色後の固定)
固定細胞への染色・観察 励起/蛍光 (nm) 染色時間*1 同仁製品コード
マイトファジー Mitophagy Detection Kit*3 マイトファジーによる
ミトコンドリア内のpH低下に応答して蛍光が増大

(共有結合)

(×)
× 530/700 30分~ MD01
Keima-Red マイトファジーによる
ミトコンドリア内のpH低下に応答して蛍光特性が変化
-
(発現タンパク質)

(×)
×  550 & 440/620 *2 -
脂溶性過酸化物 MitoPeDPP 脂溶性過酸化物に特異的に応答して
蛍光が増大

(静電的相互作用)

(×)
× 452/470 15分~ M466
一重項酸素 Si-DMA 一重項酸素に特異的に応答して
蛍光が増大

(静電的相互作用)

(×)
× 644/670 45分~ MT05
スーパーオキサイド mtSOX スーパーオキサイドに特異的に応答して
蛍光が増大

(静電的相互作用)

(×)
× 540/670 30分~ MT14
MitoSOX スーパーオキサイドに特異的に応答して
蛍光が増大

(静電的相互作用)

(×)
× 510/580 10分~ -

*1 試料の種類や試薬濃度に応じて変わる
*2 細胞に遺伝子導入しKeima発現株を構築
*3 キットコンポーネントMtphagy Dye[コード:MT02]を単品を販売しています。

検出対象 試薬名 検出原理 生細胞の染色・観察
(染色後のPFA固定)
染色後のMeOH固定 固定細胞への染色・観察 細胞内長期滞留性 血清入り培地中での染色 励起/蛍光 (nm) 染色時間*1 同仁製品コード
ミトコンドリアの
膜電位差
MT-1 JC-1よりも高感度な検出が可能で
固定化後の観察とモニタリングができる

(〇)
× × - - 530-560/570-640 30 分 MT13
JC-1 ミトコンドリアの膜電位に応答して
蛍光特性が変化

(×)
× × - - 高い膜電位: 514/529
低い膜電位: 585/590
10~60 分 MT09
ミトコンドリアの
局在
MitoBright LT series 静電的相互作用で集積
(〇)
× × Green:493/508
Red:547/563
Deep Red:643/663
10 分~ MT10
MT11
MT12
MitoBright IM 静電的相互作用で集積
その後ミトコンドリアに固定されるため膜透過処理も可能

(〇)
× × 561/560-620 30分~ MT15
MitoTracker series 静電的相互作用で集積
(〇)
× × × 490/516 ~
644/665
15~45 分 -
Rhodamine 123 静電的相互作用で集積
(×)
× × × × 507/529 15 分~ -
細胞の
酸素消費速度
(OCR*2
Extracellular
OCR Plate Assay Kit
細胞のOCRを汎用の蛍光プレートリーダーで測定できる。
(培養液中の酸素濃度の減少量を測定し細胞のOCRを算出)​
- - - - - 500/650 200分
(測定時間)
E297

*1 試料の種類や試薬濃度に応じて変わる
*2 OCR:Oxygen Consumption Rate

検出対象 試薬名 検出原理 ミトコンドリア集積性 生細胞の染色・観察
(染色後のPFA固定)
固定細胞への
染色・観察
励起/蛍光 (nm) 染色時間*1 同仁製品コード
ミトコンドリアのCa Rhod 2-AM ミトコンドリアに集積後細胞内Ca2+と結合し
蛍光強度が増大

(静電相互作用)

(×)
× 553/576 30~60分 R002
ミトコンドリアの鉄 Mito-Ferro Green 鉄(II)イオンと選択的に反応し強い蛍光を発する
(静電相互作用)    

(×)
× 505/535 30~ M489

検出対象 試薬名 検出原理 同仁製品コード
グルコース測定キット Glucose Assay Kit-WST グルコース量に応じ発色したWSTホルマザンを吸光度測定することで、
細胞培養液や細胞内のグルコースを検出
G264
乳酸測定キット Lactate Assay Kit-WST 乳酸量に応じ発色したWSTホルマザンを吸光度測定することで、
細胞培養液や細胞内の乳酸を検出  
L256
細胞内ROS測定キット ROS Assay Kit 細胞内で発生した活性酸素種(ROS)と反応して強い蛍光を発する R252

なぜミトコンドリア膜電位が見られているか

ミトコンドリアは、ATP 等のエネルギー産生の場であり、その活性の変化や機能障害ががんや老化、神経変性疾患などと密接に関連しています。そのためミトコンドリアの状態を理解することが重要であり、その指標としてエネルギー産生に伴い生じる膜電位差が評価されています。
ミトコンドリアが正常で膜電位差が保たれた状態では、JC-1 が凝集し赤色の蛍光を発し、膜電位が低下すると、JC-1 が単量体として存在し緑色の蛍光を発します。この赤色と緑色の蛍光強度の変化をミトコンドリアの状態として評価することができます。

ミトコンドリア膜電位と老化との関連性

<参考文献>
1) Z. Feng, R. W. Hanson, N. A. Berger and A. Trubitsyn, “Reprogramming of energy metabolism as a driver of aging”, Oncotarget., 20167(13), 15410.
2) J. Wu, Z. Jin, H. Zheng and L. Yan, “Sources and implications of NADH/NAD+ redox imbalance in diabetes and its complications”, Diabetes Metab. Syndr. Obes.2016, 9, 145.
3) S. Imai and L. Guarente, “NAD+ and sirtuins in aging and disease”, Trends in Cell Biology201424(8), 464.

ミトコンドリア膜電位と抗ガン作用

がん細胞では解糖系からのアセチルCoAの供給が低下するため、TCAサイクルの栄養源としてアミノ酸を積極的に利用しています。そのため、がん細胞ではアミノ酸トランスポーターの発現量を増やして、多くのアミノ酸を取り込んでいることが明らかとなっています。特にグルタミンは、グルタチオンの原料、およびTCAサイクルに必須なα-ケトグルタル酸の供給源であり、グルタミンの取り込みや代謝(グルタミノリシス)をターゲットとした薬剤開発が注目されています。また、多くの必須アミノ酸の取り込みに関与するアミノ酸トランスポーターLAT(L-type amino acid transporter)が多くのがん細胞で過剰発現していることがわかり、新しい創薬ターゲットとして期待されています。

 レドックス制御に必要なシステインは、他のアミノ酸とは異なり、主にシスチントランスポーターであるxCTによって細胞内に取り込まれています。がん細胞では活性酸素が大量に発生しているため、抗酸化物質であるグルタチオン産生を高めてレドックスバランスを維持しています。そのため、グルタチオン産生に関与する経路を阻害することで細胞内レドックスバランスを変化させ、フェロトーシスなどの細胞死を誘導することが可能です。またグルタチオンは薬剤耐性にも寄与しているため、グルタチオン産生に関与する経路は薬剤開発の主要なターゲットとなっています。特に最近では抗炎症薬として古くから用いられているスルファサラジンやがんの分子標的治療薬であるソラフェニブがxCTを阻害することが明らかとなり、 xCT阻害によるフェロトーシスを介した抗がん作用に注目が集まっています。

<参考文献>

細胞 薬剤・刺激 細胞内代謝の状態 文献

T細胞リンパ腫(KO99L)

LAT1阻害剤:JPH203

ミトコンドリア膜電位 オートファジー 

Leukemia, 2015, 29, 1253

ミトコンドリア膜電位とNASH(非アルコール性脂肪肝炎)

 

 

各NAFLD/NASHモデルにおける報告例  ※表中の指標にあるリンクをクリックすると測定キット・試薬ページが開きます。

NAFLD/NASHモデル 細胞機能、代謝変化等 文献
老化、肥満、糖尿病モデルマウス 肝細胞老化(SA-β-Gal、p21)⇒ 老化細胞の除去により病態改善 Nat. Commun., 2016, 8, 15691.
高脂肪食+高コレステロール食処理マウス 肝臓でのミトコンドリア機能異常(ATP膜電位、過酸化水素産生量↑) Redox Biol., 2018, 15, 86-96
高脂肪食処理マウス 肝臓でのミトコンドリア機能異常(ATPNAD)、PARP ⇒ PARP発現抑制によりミトコンドリア機能改善及び病態改善 J. Hepatol., 2017, 66, 132–141
肝星細胞線維化モデル α-ketoglutarate、type I collagen → α-ketoglutarateの添加で線維化改善 Biosci. Rep., 2020, 40, BSR20193385
高脂肪食処理マウス 肝臓での脂質沈着、肝機能 → α-ketoglutarateの添加で病態改善 Liver Res., 2020, 4, 94e10095

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