リソソーム監視応答の活性化が線虫寿命を延ばす新たな老化制御機構

 リソソームは細胞内分解の中心的オルガネラであり、タンパク質恒常性維持と健康寿命に強く関与する。しかし、老化や神経変性疾患に対抗するためにリソソーム活性をどのように向上させるかは長年不明であった。本研究は、線虫C. elegansにおいて腸管腔の酸性化に必須なv-ATPaseサブユニット(例:vha-6)をRNAiで抑制すると、寿命が約60%延長することを発見した。この寿命延長は、リソソーム機能とタンパク質分解関連遺伝子群の転写誘導による「リソソーム監視応答(LySR: Lysosomal Surveillance Response)」によって説明される。LySRはGATA転写因子ELT-2によって制御され、cpr-5 を含む分解関連遺伝子の発現を高めることで、プロテオスタシス改善とタンパク質凝集体減少をもたらす。さらにLySRは、アルツハイマー病、ハンチントン病、ALSなどの線虫モデルにおいてもリソソーム活性を増強し、生存率を向上させることが示された。これらの効果はリソソーム完全性およびリソソームプロテアーゼCPR-5に依存しており、LySRが健康寿命決定における重要な経路であることを示している。リソソーム機能不全は従来リソソーム蓄積症と関連付けられ、また異常タンパク質蓄積は老化や神経変性疾患の進行を促進する。
 本研究は、リソソーム活性の強化が老化抑制の鍵となり得ることを明確に示し、LySR経路が新しい介入ポイントになる可能性を示唆する。老化研究のみならず、プロテオトキシック疾患の治療戦略にも大きな示唆を与える成果である。

A lysosomal surveillance response to stress extends healthspan

論文へのアクセスはこちら:  L. T. Yang, et al, Nature Cell Biology (2025)  

注目ポイント

・vha-6をRNAiで抑制すると線虫寿命が大きく延び、リソソーム監視応答の重要性が明らかになった

・ELT-2が制御するLySRが分解遺伝子群を活性化し、プロテオスタシスと凝集タンパク質の状態を改善した

・LySR活性化はアルツハイマー病やALSなどのモデルでも生存率を高め、治療標的となり得ることが示された

関連製品
リソソーム内鉄イオン検出試薬
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  SPiDER-βGal Blue (固定化細胞や免疫染色との多重染色に最適な色素)
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DNA Damage Detection Kit - γH2AX - Green / Red / Deep Red
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アプリケーションデータ

フェロトーシス誘導剤とリソソーム阻害剤の併用による各指標の変化

 これまでがん細胞株間ではフェロトーシス感受性が異なることが示唆されており、フェロトーシス抵抗性のがん細胞においてリソソームのストレスを増加させることでフェロトーシスを促進できることが報告されている*。フェロトーシス抵抗性を示すがん細胞、A549細胞を用いてフェロトーシス誘導剤であるRSL3またはRSL3とリソソーム阻害剤であるChloroquine(CQ)を24時間処理し、細胞生存率、リソソーム内Fe2+、リソソーム量の変化を解析した。その結果、RSL3単独で処理した場合では細胞生存率、リソソーム内Fe2+に大きな変化はみられなかったが、一部リソソームが集積している様子(LysoPrime Deep Redの強い輝点)が観察された。一方、RSL3に加えてCQを同時に処理した細胞では、リソソーム内Fe2+の増加とリソソームの肥大化、細胞生存率が低下する既報と同様の結果が得られ、フェロトーシス促進にリソソーム内Fe2+の増加が関与している可能性が示唆された。
*Y. Saimoto, et al., Nature Communications, 2025, 16, 3554.

 

 

<使用製品>
リソソーム内Fe2+ Lyso-FerroRed (製品コード:L270)
リソソーム量:LysoPrime Deep Red (製品コード:L264)
細胞生存率: Cell Counting Kit-8 (製品コード:CK04)

老化誘導によるA549細胞の代謝シフト

細胞老化が誘導されると、SA-β-galの発現亢進や不可逆的な細胞増殖停止といった現象が見られる他、DNAダメージが蓄積した老化細胞では、ミトコンドリア機能の低下によりエネルギー産生を解糖系にシフトします。そこで、A549細胞をDoxorubicinで処理し老化誘導した際のSA-β-gal発現亢進およびエネルギー産生経路(NAD量、ミトコンドリア膜電位、ATP量、Lactate放出量)のシフトを確認しました。
その結果、DNA損傷が認められましたが、SA-β-gal(Senescence Assosiated -β- Galactosidase)産生量が増加し、細胞内 NAD+ 量が低下したことからミトコンドリア膜電位が低下し、エネルギー生産経路が酸化的リン酸化から解糖系へシフトしたことが確認されました。

*S. Imai, et al., Trends Cell Biol, 2014, 24, 464-471


使用製品
① DNA Damage Detection Kit - γH2AX
② Cellular Senescence Detection Kit - SPiDER-βGal
 NAD/NADH Assay Kit-WST
④ JC-1 MitoMP Detection Kit
⑤ Glycolysis/OXPHOS Assay KitLactate Assay Kit-WST

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