脂肪細胞におけるScd1と一価不飽和脂肪酸の役割

本論文は細胞に取り込まれた飽和脂肪酸を一価不飽和脂肪酸に変換する酵素Scd1および一価不飽和脂肪酸が、脂肪細胞の生存と細胞自らが不要な物質を分解するオートファジーの正常化に不可欠であることを明らかにしている。実験では、Scd1欠損マウスやScd1阻害剤を用いて、脂肪細胞とオートファジーの機能を評価した。Scd1が欠損した脂肪細胞では、オートファジー依存性細胞死が観察された。これは、Scd1が欠損した脂肪細胞でオートファジーの正常な過程に必要なオートファゴソームとリソソームの融合が阻害され、細胞内の老廃物が蓄積されたためと考えられる。加えて、骨髄脂肪細胞中のScd1を欠損させたマウスで骨髄脂肪細胞の減少が観察され、Scd1が脂肪細胞の生存に不可欠であることが明らかとなった。さらに、一価不飽和脂肪酸の補充により、Scd1阻害剤によって誘導された細胞死の減少が観察された。このことから、Scd1が脂肪細胞の生存に重要な役割を果たしていることを示している。

Scd1 and monounsaturated lipids are required for autophagy and survival of adipocytes

論文へのアクセスはこちら:  Mori, H., et al, Molecular Metabolism, (2024)

注目ポイント

・Scd1の阻害はオートファジー依存性細胞死を誘発する

・Scd1の欠損はオートファゴソームとリソソームの融合を阻害し、オートファジーの正常な進行を妨げて脂肪細胞の細胞死を促進する

・一価不飽和脂肪酸の補充は、Scd1が欠損した脂肪細胞の細胞死を抑制した

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生細胞でのオートファゴソームからオートリソソームへの追跡

Nampt阻害剤であるFK866は、リソソームの酸性化を阻害することでオートファゴソームからオートリソソームへの進行を阻害する。最近の研究では、NAD+生合成酵素であるNamptの機能障害がリソソームの酸性阻害を引き起こすことが示された*。この実験では、NAD+欠乏によるリソソームの酸性阻害がオートファジー-リソソーム経路に与える影響を確認した。

*Mikako Yagi, et. al., EMBO J., 40(8), e105268 (2021)


HeLa細胞にリソソームpH検出染色試薬であるpHLys Redで染色した。その際、細胞にFK866と陽性対照としてリソソーム酸性化阻害剤Bafilomycin A1を処理した。FK866およびBafilomycin A1で処理した細胞ではそれぞれpHLys Redの蛍光シグナルが減少し、リソソームの中性化されたことが示された。

(プロトコル)
HeLa細胞 (8 well slide, ibidi) (MEM, FBS+)

HBSSで2回洗浄

それぞれ調製したworking solutionを添加
・ pHLys Red working solution (HBSS, 1,000倍希釈)
・pHLys Red workin solution (HBSS, 1,000倍希釈) + 50 nM Bafilomycin A1
 ・pHLys Red working solution (HBSS, 1,000倍希釈) + 10 nM FK866

37°Cで30分間インキュベート

共焦点顕微鏡で観察 (倍率:20倍)

 


NAD+の枯渇とオートファジー-リソソーム経路の応答

    

オートファゴソームの検出にDAPGreen/DAPRed、オートリソソームの検出にDALGreenを用いて染色したHeLa細胞をHBSS培養液で飢餓状態に置き、その後FK866またはバフィロマイシンA1を処理しました。飢餓状態下では、すべての染色剤の蛍光シグナルが増加し、オートファジー-リソソーム経路の進行を示しました。一方、飢餓条件下でFK866またはバフィロマイシンA1処理した細胞では、DALGreenのシグナルのみが減少しました。これらの結果は、FK866がNAD+枯渇によるリソソームの脱酸化を介してオートファジー-リソソーム経路を阻害することを明確に示しました。

 

(プロトコル)
HeLa細胞 (8 well slide, ibidi) (MEM、FBS+)

working solution:2 μmol/L DALGreen または 0.2 μmol/L DAPGreen または 0.2 μmol/L DAPRed
37℃で30分間インキュベート

培地で2回洗浄

・CTRL:培地 (MEM、FBS+) で2時間20分
・Stv.:HBSSで2時間20分
・Stv.+Baf.A1:HBSSで2 時間+ 10 nM Bafilomycin A1 (HBSS) で20分
・Stv.+FK866:HBSSで2 時間+ 10 nM FK866 (HBSS) で20分

共焦点顕微鏡で観察(倍率:40倍)

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