これから始める細胞死研究
細胞死とは
細胞死は、組織の恒常性を維持し、細胞ストレスに対応するために不可欠な生物学的プロセスです。従来、プログラム細胞死につながる細胞シグナルによって引き起こされるアポトーシスと、外傷や感染症によって引き起こされるネクローシスが主な種類と考えられてきました。最近の研究では、鉄依存性脂質過酸化によるフェロトーシスや、細胞成分の過剰な自己消化によるオートファジー依存性細胞死など、いくつかの他のメカニズムが特定されており、より詳細な経路別の解析が求められています。
代表的な細胞死検出法
細胞増殖・毒性試験
検出法 | 概略 | 関連製品 |
WST assay | WST-8は細胞内脱水素酵素により還元され、水溶性のホルマザンを生成する。ホルマザンの450 nmの吸光度を測定することにより、容易に生細胞数を計測することができる。 | Cell counting Kit-8 |
Calcein assay | 細胞内のエステラーゼによって加水分解される蛍光色素カルセインの量は、生存細胞の数に正比例する。 | Cell counting kit-F |
MTT Assay | MTTは細胞膜を通過し、ミトコンドリアによって還元され、生細胞数に相関した量の紫色のホルマザン色素を形成する。 | MTT |
LDH release assay |
LDHは細胞質に存在する酵素で、通常は細胞質に留まっているが、細胞膜が傷害を受けると培地中に放出される。放出されたLDHは安定なので、死細胞または細胞膜に傷害を受けた細胞数を測る指標として広く測定されている。 |
Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST |
Extracellular ATP Assay | 細胞外ATPは、ダメージ関連分子パターン(DAMPs)として知られており、ストレスを受けた細胞または活性化された細胞から放出される。 | Extracellular ATP Assay Kit-Luminescence |
Live / dead cell staining | 生細胞を染色するカルセインと、死細胞を染色するPIで染色し、細胞の生死を判断する。 | -Cellstain- Double Staining Kit |
アポトーシス
検出法 | 概略 | 関連製品 |
Annexin V assay | 正常な細胞では、細胞内に存在するホスファチジルセリン(PS)がアポトーシスの初期の段階で膜構造が変化し、細胞外へ露出します。 | Annexin V Apoptosis Plate Assay Kit |
ADP/ATP Ratio Assay | アポトーシス過程において、ADPからATPが増加することが知られています。 | ADP/ATP Ratio Assay Kit-Luminescence |
DNA fragmentation | アポトーシスの過程においてカスパーゼカスケードの活性化によりDNA断片化が起こります。 | - |
p53 activity detection | p53は、転写依存性および非依存性のメカニズムを介してアポトーシスを促進する。 | - |
Caspase activity | カスパーゼ-3の活性化によってアポトーシスは実行段階へと移行する。 | - |
Cytochrome c release | ミトコンドリアから細胞質へのシトクロムcの放出は、アポトーシスのトリガーとして知られている。 | - |
ネクローシス
検出法 | 概略 | 関連製品 |
LDH release assay | LDHは細胞質に存在する酵素で、通常は細胞質に留まっているが、細胞膜が傷害を受けると培地中に放出される。放出されたLDHは安定なので、死細胞または細胞膜に傷害を受けた細胞数を測る指標として広く測定されている。 | Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST |
Nucleus staining | 細胞膜を透過しない核染色色素は、細胞膜が損傷した細胞の核に蓄積する。 | -Cellstain- DAPI solution -Cellstain- PI solution |
RIP/RIP3/MLKL | ネクローシス経路に関与するマーカータンパク質 | - |
フェロトーシス
検出法 | 概略 | 関連製品 |
Ferrous ion detection | フェロトーシスの重要な要因である脂質過酸化のトリガーとなるFe²⁺を染色する。 | FerroOrange |
Mitochondrial ferrous ion detection | ミトコンドリアのFe²⁺を特異的に染色する。 | Mito-FerroGreen |
Lipid peroxides detection | フェロトーシスのマーカーである脂質過酸化物を特異的に検出します。 | Liperfluo |
GSH/GSSH | グルタチオンは、還元型(GSH)または酸化型(GSSG)のいずれかの形で細胞内に存在し、細胞を酸化ストレスから保護します。 | GSSG/GSH Quantification Kit |
Cystine detection | シスチンはxCTトランスポーターを介して細胞内に輸送され、グルタチオン(GSH)の合成に重要な前駆体であるシステインに還元されます。 | Cystine Uptake Assay Kit |
GPX4 / SCL7A11 / Ferritin / NRF2 | フェロトーシス経路に関与するマーカータンパク質 | - |
オートファジー依存性細胞死
検出法 | 概略 | 関連製品 |
Autophagosome & Autolysosome Detection | 非アポトーシス性のオートファジー依存性細胞死ではオートファジー液胞構造を示す。 |
Autophagy Flux Assay Kit |
細胞死を同仁化学のキットを組み合わせてより詳細にみる
同一サンプルを複数指標で評価できる
細胞サンプルを細胞と上清に分け、それぞれを異なる指標(試薬の併用)で測定することで、細胞死のより詳細な解析が実現します。
実験例:薬剤誘導による細胞死の各指標の変化
アポトーシス誘導剤であるStaurosporinまたはフェロトーシス誘導剤であるErastin、RSL3で処理したHepG2細胞の細胞外LDH、ホスファチジルセリン、細胞生存率、細胞内Fe2+、脂質過酸化の変化を解析しました。
その結果、Staurosporinで処理したアポトーシス誘導細胞ではホスファチジルセリンの増加、細胞生存率の低下並びに細胞外LDHが増加し細胞死が起きていることが確認できました。一方でフェロトーシス指標である細胞内Fe2+は変化がありませんでした。フェロトーシス誘導剤であるErastinで処理した細胞では細胞内Fe2+の増加と細胞生存率の低下が確認されましたが、細胞外LDHと脂質過酸化(脂質過酸化:赤色蛍光の減少と緑色蛍光の増加)は増加しませんでした。Erastinに加えてRSL3を同時に処理し、より強力にフェロトーシスを誘導した細胞では、フェロトーシスの指標である細胞内Fe2+と脂質過酸化の増加並びに細胞生存率の低下が確認され、死細胞が増加しました。一方で、ホスファチジルセリンはアポトーシス誘導細胞と比較し、フェロトーシス誘導時には増加率が低い結果となりました。これらの結果から、細胞死の指標を組み合わせて評価することで細胞死を見分けられることがわかりました。
<使用製品>
細胞外LDH :Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST(製品コード:CK12)
ホスファチジルセリン:Annexin V Apoptosis Plate Assay Kit(製品コード:AD12)
細胞生存率 :Cell Counting Kit-8(製品コード:CK04)
細胞内Fe2+ :FerroOrange(製品コード:F374) *Hoechst 33342の蛍光強度で補正
脂質過酸化 :Lipid Peroxidation Probe -BDP 581/591 C11-(製品コード:L267)
<実験条件>
細胞:HepG2細胞(2×104 cells/well)
薬剤:Staurosporin(5 μmol/l), Erastin(25 µmol/l), Erastin+RSL3(どちらも25 µmol/l)
*無血清培地に希釈して添加
実験例:アポトーシス阻害剤を用いた評価
アポトーシス阻害剤 Z-VAD で前処理した Jurkat 細胞と、Z-VAD で前処理をしていない Jurkat 細胞を Staurosporineで処理した場合の細胞外 ATP 放出(Extracellular ATP Assay Kit-Luminescence)、細胞増殖(CK04:Cell Counting Kit-8)、細胞外 LDH(CK12:Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST)の時間変化を評価しました。その結果、Z-VAD によって細胞死は阻害されましたが、アポトーシスの初期段階で放出される細胞外 ATP は時間経過とともに増加しました。
実験例:Erastin処理した細胞を用いた評価
-
フェロトーシス誘導剤であるErastinを各濃度で24時間処理した HeLa 細胞の細胞外 ATP 放出、細胞増殖、細胞外 LDH、ホスファチジルセリン、細胞内Fe2+の変化を評価しました。その結果、Erastin濃度25μmol/l処理において、細胞増殖の低下および細胞外ATP放出、細胞外LDHが増加したことから、高濃度の条件では細胞死が誘導されていることがわかった。興味深いことにアポトーシス誘導剤Staurosporine刺激時に見られた刺激初期の細胞外ATPの増加はErastinでは認められなかった。(実験例:アポトーシス阻害剤を用いた評価参照)Erastin処理によりアポトーシス関連マーカーのホスファチジルセリンはどの濃度でも大きな変化は見られなかったが、フェロトーシス関連マーカーである細胞内Fe2+量は低濃度で処理した条件で大きく増加し、実際の細胞死が起きる前に増加する傾向があることが示唆された。
<使用製品>
細胞外ATP :Extracellular ATP Assay Kit-Luminescence (製品コード:E299)
細胞外LDH :Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST(製品コード:CK12)
細胞増殖 :Cell Counting Kit-8(製品コード:CK04)
ホスファチジルセリン:Annexin V Apoptosis Plate Assay Kit(製品コード:AD12)
細胞内Fe2+ :FerroOrange(製品コード:F374)