ミトコンドリアはSTARD7を介して細胞内コエンザイムQの輸送とフェロトーシス抵抗を制御する

コエンザイムQ(ユビキノン)は、ミトコンドリア呼吸鎖における普遍的な電子伝達体として、また細胞膜における抗酸化物質として脂質過酸化とフェロトーシスを抑制する酸化還元活性脂質である。しかしながら、ミトコンドリア内で合成されたコエンザイムQが細胞内に分配されるメカニズムは未だ解明されていない。本論文では、細胞質脂質輸送タンパク質STARD7が、細胞内コエンザイムQ輸送の重要因子であり、フェロトーシス抑制因子であることを明らかにした。ロンボイドプロテアーゼPARLによる切断後、ミトコンドリア膜間腔と細胞質にSTARD7が局在することで、ミトコンドリアにおけるコエンザイムQの合成と細胞膜への輸送が確保される。ミトコンドリアのSTARD7はコエンザイムQの合成、酸化的リン酸化機能、そしてクリステの形態形成を維持する一方、細胞質のSTARD7はコエンザイムQの細胞膜への輸送に必須であり、フェロトーシスを阻害している。これらの結果は、PARLを介したSTARD7のプロセシングによってコエンザイムQの合成と細胞内分布を調整する必要性を示し、PARLとSTARD7がフェロトーシスを阻害する有望な標的であることを示唆している。

Mitochondria regulate intracellular coenzyme Q transport and ferroptotic resistance via STARD7
論文へのアクセスはこちら:  Soni Deshwal, et al, Nature Cell Biology, (2023)

注目ポイント

・ロンボイドプロテアーゼPARLはSTARD7を切断し、ミトコンドリア膜間腔と細胞質の両方に局在させる

・ミトコンドリアのSTARD7は、コエンザイムQの合成を補助し、酸化的リン酸化を促進し、クリステの形態を維持する

・細胞質のSTARD7は、コエンザイムQの細胞膜への輸送を促進し、フェロトーシスを防ぐ

・細胞質のSTARD7の過剰発現は、細胞のフェロトーシスに対する抵抗性を高め、ミトコンドリアにおけるコエンザイムQの利用可能性を低下させる

関連製品
脂質過酸化検出試薬
Lipid Peroxidation Probe -BDP 581/591 C11-
過酸化脂質検出試薬
Liperfluo
酸素消費速度プレートアッセイキット
Extracellular OCR Plate Assay Kit
解糖系/酸化的リン酸化測定キット
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細胞増殖/細胞毒性アッセイキット
Cell Counting Kit-8 , Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST
アプリケーションデータ

薬剤誘導による細胞死の各指標の変化

アポトーシス誘導剤であるStaurosporinまたはフェロトーシス誘導剤であるErastin、RSL3で処理したHepG2細胞の細胞外LDH、ホスファチジルセリン、細胞生存率、細胞内Fe2+、脂質過酸化の変化を解析しました。
その結果、Staurosporinで処理したアポトーシス誘導細胞ではホスファチジルセリンの増加、細胞生存率の低下並びに細胞外LDHが増加し細胞死が起きていることが確認できました。一方でフェロトーシス指標である細胞内Fe2+は変化がありませんでした。フェロトーシス誘導剤であるErastinで処理した細胞では細胞内Fe2+の増加と細胞生存率の低下が確認されましたが、細胞外LDHと脂質過酸化(脂質過酸化:赤色蛍光の減少と緑色蛍光の増加)は増加しませんでした。Erastinに加えてRSL3を同時に処理し、より強力にフェロトーシスを誘導した細胞では、フェロトーシスの指標である細胞内Fe2+と脂質過酸化の増加並びに細胞生存率の低下が確認され、死細胞が増加しました。一方で、ホスファチジルセリンはアポトーシス誘導細胞と比較し、フェロトーシス誘導時には増加率が低い結果となりました。これらの結果から、細胞死の指標を組み合わせて評価することで細胞死を見分けられることがわかりました。

<使用製品>
細胞外LDH:Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST(製品コード:CK12)
ホスファチジルセリン:Annexin V Apoptosis Plate Assay Kit(製品コード:AD12)
細胞生存率:Cell Counting Kit-8(製品コード:CK04)
細胞内Fe2+FerroOrange(製品コード:F374) *Hoechst 33342の蛍光強度で補正
脂質過酸化:Lipid Peroxidation Probe -BDP 581/591 C11-(製品コード:L267)

 

<実験条件>
細胞:HepG2細胞(2×104 cells/well)
薬剤:Staurosporin(5 μmol/l), Erastin(25 µmol/l), Erastin+RSL3(どちらも25 µmol/l)
   *無血清培地に希釈して添加

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