リソソーム鉄活性化を介した新規フェロトーシス治療戦略

 近年、細胞死の一形態である「フェロトーシス(鉄依存的細胞死)」が、がん治療の新たな標的として注目されている。本研究は、リソソームに存在する鉄がフェロトーシスを開始する起点となることを明らかにした。筆者らはまず、フェロトーシス阻害剤リプロキスタチン-1(Lip-1)がリソソーム内で鉄を不活性化することで細胞を保護することを確認した。一方で、誘導剤RSL3はリソソーム膜の脂質酸化を起点としてフェロトーシスを引き起こすことが示された。さらに、リソソーム鉄を人工的に活性化する低分子「フェントマイシン-1(Fento-1)」を設計し、CD44高発現がん細胞において強力にフェロトーシスを誘導することに成功した。特にCD44を高発現する腫瘍細胞は、鉄の取り込みが増加し薬剤耐性性質を持つ一方で、リソソーム鉄を介したフェロトーシスに脆弱であることが判明した。Fento-1を用いた実験では、難治性の膵管腺癌や肉腫、さらに乳がん転移モデルにおいても腫瘍増殖が抑制された。
 本論文は、がん細胞の「鉄代謝」と「細胞死制御」を結びつける新たな知見を提供した。リソソーム鉄を標的とする戦略は、薬剤耐性がんの克服や転移抑制に向けた革新的な治療アプローチとなる可能性を示している。

Activation of lysosomal iron triggers ferroptosis in cancer

論文へのアクセスはこちら:  T. Cañeque, et alNature, (2025)

注目ポイント

・リソソーム鉄がフェロトーシス開始の鍵であり、新規薬剤標的として注目される

・CD44高発現がん細胞は鉄取り込み能が高く薬剤耐性を示す一方で、逆にフェロトーシスに脆弱

・Fento-1により難治性腫瘍や転移モデルで腫瘍増殖を抑制、治療戦略の可能性が拡大

関連製品
リソソーム内鉄イオン検出試薬
Lyso-FerroRed 
鉄イオン(Fe2+)検出試薬
細胞:FerroOrange / ミトコンドリア:Mito-FerroGreen
脂質過酸化検出試薬
Lipid Peroxidation Probe -BDP 581/591 C11-
過酸化脂質検出試薬
Liperfluo
アプリケーションデータ

フェロトーシス誘導剤とリソソーム阻害剤の併用による各指標の変化

 これまでがん細胞株間ではフェロトーシス感受性が異なることが示唆されており、フェロトーシス抵抗性のがん細胞においてリソソームのストレスを増加させることでフェロトーシスを促進できることが報告されている*。フェロトーシス抵抗性を示すがん細胞、A549細胞を用いてフェロトーシス誘導剤であるRSL3またはRSL3とリソソーム阻害剤であるChloroquine(CQ)を24時間処理し、細胞生存率、リソソーム内Fe2+、リソソーム量の変化を解析した。その結果、RSL3単独で処理した場合では細胞生存率、リソソーム内Fe2+に大きな変化はみられなかったが、一部リソソームが集積している様子(LysoPrime Deep Redの強い輝点)が観察された。一方、RSL3に加えてCQを同時に処理した細胞では、リソソーム内Fe2+の増加とリソソームの肥大化、細胞生存率が低下する既報と同様の結果が得られ、フェロトーシス促進にリソソーム内Fe2+の増加が関与している可能性が示唆された。
*Y. Saimoto, et al., Nature Communications, 2025, 16, 3554.

 

 

<使用製品>
リソソーム内Fe2+ Lyso-FerroRed (製品コード:L270)
リソソーム量:LysoPrime Deep Red (製品コード:L264)
細胞生存率: Cell Counting Kit-8 (製品コード:CK04)

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