腫瘍性アシドーシスが誘導する糖鎖再構築とフェロトーシス制御機構

 本研究は、腫瘍微小環境におけるアシドーシスが、細胞表面の糖鎖構造であるグリコカリックスを再構築し、脂質代謝およびフェロトーシス感受性を制御する分子機構を明らかにしたものである。特に、膠芽腫(GBM)や中枢神経系転移では、酸性かつ脂質ストレスの高い腫瘍領域において、コンドロイチン硫酸(CS)に富むグリコカリックスが形成されることが示された。このCSリッチなグリコカリックスは、腫瘍細胞を覆う物理的バリアとして機能し、細胞外脂質粒子の取り込みを制限することで脂質過負荷を回避し、脂質誘導性フェロトーシスから細胞を保護する。この現象は、酸性適応下で活性化されるHIFおよびTGF-βシグナルの協調により誘導される。これらのシグナルは、シンデカン-1の糖鎖構成をヘパラン硫酸からCSへと切り替え、シンデカン-1を介した脂質スカベンジング機能を低下させる。その結果、腫瘍細胞は細胞外脂質の過剰流入を抑制し、酸性・脂質ストレス環境下での代謝的恒常性を維持する。さらに、CS生合成の阻害と脂質滴形成に関わるDGAT1の阻害を同時に行うことで、脂質恒常性が破綻し、脂質過酸化が増強され、フェロトーシス性細胞死が誘導されることが確認された。この結果は、腫瘍が酸性環境に適応するために構築した糖鎖依存的な脂質防御機構を崩すことが、新たな治療戦略となり得ることを示している。
 本研究は、糖鎖リモデリングが腫瘍の代謝可塑性の中核に位置することを示すとともに、グリコカリックスを標的とした新規治療戦略の可能性を提示するものである。

Tumour acidosis remodels the glycocalyx to control lipid scavenging and ferroptosis
論文へのアクセスはこちら:  A. Bång-Rudenstam., et al, Nat. Cell Biol., (2026)

注目ポイント

・酸性腫瘍環境によりコンドロイチン硫酸(CS)リッチなグリコカリックスが形成され、脂質取り込みを抑制しフェロトーシス耐性を獲得する
・活性化されたHIFとTGF-βシグナルがCS生合成を促進し、グリコカリックスの構成要素の一つであるシンデカン-1の糖鎖修飾を変化させる
・CS合成阻害と脂質滴形成阻害の併用により、がん細胞に脂質過酸化の増強とフェロトーシスを誘導できる可能性が示された

関連製品
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鉄イオン(Fe2+)検出試薬
細胞内:FerroOrange / ミトコンドリア:Mito-FerroGreen / リソソーム:Lyso-FerroRed
脂質過酸化検出試薬
リソソーム脂質ラジカル:Lysosomal Lipid Radical Probe -Lyso-NBD-Pen- / 細胞内:Lipid Radical Probe -NBD-Pen- / 脂質ラジカル+ヒドロキシラジカル: Lipid Peroxidation Probe -BDP 581/591 C11-
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アプリケーションデータ

薬剤誘導による細胞死の各指標の変化:フェロトーシスとアポトーシスを見分ける

アポトーシス誘導剤であるStaurosporinまたはフェロトーシス誘導剤であるErastin、RSL3で処理したHepG2細胞の細胞外LDH、ホスファチジルセリン、細胞生存率、細胞内Fe2+、脂質過酸化の変化を解析しました。
その結果、Staurosporinで処理したアポトーシス誘導細胞ではホスファチジルセリンの増加、細胞生存率の低下並びに細胞外LDHが増加し細胞死が起きていることが確認できました。一方でフェロトーシス指標である細胞内Fe2+は変化がありませんでした。フェロトーシス誘導剤であるErastinで処理した細胞では細胞内Fe2+の増加と細胞生存率の低下が確認されましたが、細胞外LDHと脂質過酸化(脂質過酸化:赤色蛍光の減少と緑色蛍光の増加)は増加しませんでした。Erastinに加えてRSL3を同時に処理し、より強力にフェロトーシスを誘導した細胞では、フェロトーシスの指標である細胞内Fe2+と脂質過酸化の増加並びに細胞生存率の低下が確認され、死細胞が増加しました。一方で、ホスファチジルセリンはアポトーシス誘導細胞と比較し、フェロトーシス誘導時には増加率が低い結果となりました。これらの結果から、細胞死の指標を組み合わせて評価することで細胞死を見分けられることがわかりました。

 

 

 

 

<使用製品>
細胞外LDH     :Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST(製品コード:CK12)
ホスファチジルセリン:Annexin V Apoptosis Plate Assay Kit(製品コード:AD12)
細胞生存率     :Cell Counting Kit-8(製品コード:CK04)
細胞内Fe2+     :FerroOrange(製品コード:F374) *Hoechst 33342の蛍光強度で補正
脂質過酸化     :Lipid Peroxidation Probe -BDP 581/591 C11-(製品コード:L267)

<実験条件>
細胞:HepG2細胞(2×104 cells/well)
薬剤:Staurosporin(5 μmol/l), Erastin(25 µmol/l), Erastin+RSL3(どちらも25 µmol/l)
   *無血清培地に希釈して添加

 

ハイコンテントイメージングによる、薬物誘発性脂質症の肝毒性試験


ヒト肝がん細胞株(HepG2細胞) にプロプラノロール(交感神経β受容体遮断薬)を添加し、脂肪滴の変化を蛍光顕微鏡にて観察しました。さらに、取得した顕微鏡画像から脂肪滴の数・面積・蛍光強度を計測することにより、脂肪滴の蓄積を解析しました。

脂肪滴のイメージング
HepG2細胞にプロプラノロール0, 10, 30 μmol/lを処理し、脂肪滴をLipi-Green、核をHoechst33342で染色し蛍光顕微鏡(Ti2-E倒立顕微鏡)を用いて観察しました。その結果、プロプラノロールの濃度依存的に脂肪滴が増加している様子が確認されました。

< Ti2-E顕微鏡 撮影条件>
 核(青:Hoechst33342 ):Ex 385 nm,  Em 460nm
 脂肪滴(緑:Lipi-Green):Ex 475 nm,  Em 535nm

薬剤処理濃度に対する脂肪滴の蓄積を解析
得られた蛍光画像より、核から細胞数を、脂肪滴から面積、数、蛍光強度を計測し、細胞あたりの脂肪滴の蓄積を解析しました。その結果、プロプラノロールの濃度依存的に脂肪滴の数と面積が増加し、20 μmol/l以上の濃度条件において、脂肪滴が顕著に形成される結果が得られました。撮影には、ワンショットで広範囲の細胞領域を捉えることができるDS-Qi2カメラを使用し、解析にはすべての脂肪滴に焦点のあった画像を取得できるNIS-ElementsソフトウェアのEDFモジュールを使用することで、信頼性の高い統計データによる定量解析が可能となりました。

 
〈使用装置〉
ハイコンテンツアナリシス(HCA)顕微鏡システム (株式会社ニコン)
※染色操作と解析法の詳細は、株式会社ニコン「APPLICATION NOTE :ハイコンテントイメージングによる、薬物誘発性脂質症の肝毒性試験」よりご覧いただけます。

   



フェロトーシス感受性・抵抗性 細胞におけるリソソーム脂質ラジカル検出の比較

フェロトーシス感受性の高い HT-1080細胞および、フェロトーシス抵抗性を示すA549細胞 に、フェロトーシス誘導剤であるRSL3を処理した際のリソソーム脂質ラジカルの変化を検出しました。
その結果、フェロトーシス抵抗性細胞であるA549細胞では、RSL3の処理濃度および処理時間を増加させても(濃度:~2.5 μmol/l、時間:~3時間)、コントロールと比較して有意な蛍光強度の差は認められませんでした。一方、フェロトーシス感受性細胞であるHT-1080細胞では、1 μmol/lのRSL3を2時間処理することで、リソソーム脂質ラジカル由来の蛍光が増加し、かつ局在の変化が確認されました。このように、細胞種によりリソソーム脂質ラジカル生成・局在変化に違いがあることを確認しました。



<使用製品>
リソソーム内脂質ラジカル検出: 
Lysosomal Lipid Radical Probe -Lyso-NBD-Pen (製品コード:L271)
 

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