本論文では、マウスの脊髄における神経炎症性病変が、ミトコンドリアの酸化とカルシウム過負荷に先行して、広範かつ持続的な軸索のATP欠乏を引き起こすことを発見した。注目すべきは、個々のトリカルボン酸回路(TCA)酵素をウイルスで過剰発現させると、神経炎症性病変における軸索のエネルギー欠乏が改善されることである。このことから、一般的な神経炎症性疾患である多発性硬化症におけるTCAサイクルの機能不全が治療によって改善される可能性が示唆されている。
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Targeting the TCA cycle can ameliorate widespread axonal energy deficiency in neuroinflammatory lesions
論文へのアクセスはこちら: Yi-Heng Tai, et. al., Nature Metabolism, 2023.
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注目ポイント
・マウスの神経炎症性病変は、長期にわたる軸索のATP欠乏を引き起こす
・この欠乏は、ミトコンドリアの酸化とカルシウム過負荷に先行する
・TCA酵素の不均衡が軸索のATP欠乏に関与している
・TCA酵素レベルを補正することで、これらのエネルギー欠損を治療できる可能性がある
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関連製品 |
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アプリケーションデータ |
2種類のがん細胞における代謝経路の比較
<Lactate生成量とATP量による評価>

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Oligomycin刺激により酸化的リン酸化でのATP合成を阻害、また2-Deoxy-D-glucose(2-DG)により解糖系でのATP合成を阻害した際のATP量とLactate生成量の変化を確認したところ、HeLa細胞は解糖系に依存し、HepG2細胞は酸化的リン酸化に依存してATP合成している結果が得られた。
HeLa細胞は酸化的リン酸化を阻害した際、ATP量は変わらず(①)、Lactate生成量が増加する(②)ことから、酸化的リン酸化が阻害されても解糖系をさらに活性化することができ、逆に解糖系を阻害するとATP量が大きく減少することから(③)、エネルギー産生を解糖系に依存していることが示唆された。一方、HepG2細胞は、酸化的リン酸化を阻害した際、Lactate生成量が増加していることから(④)、解糖系の亢進によりエネルギー産生を補おうとしているがATP量は減少している(⑤)、すなわち解糖系を亢進させてもATP産生を補えていないことを意味する。さらに解糖系を阻害した場合よりもATP量が減少する(⑥)ことから、エネルギー産生を解糖系よりも酸化的リン酸化に依存しているということが示唆された。
使用製品
Glycolysis/OXPHOS Assay Kit
<OCR値による評価>
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同じ細胞数にてミトコンドリア脱共役剤であるFCCP刺激により、細胞の酸素消費を促進した際のOCRを測定した。その結果、HepG2細胞はHeLa細胞よりもOCR値が高く酸化的リン酸化への依存度が大きいことが示唆され、ATP量やLactate量を指標に評価した場合と相関する結果が得られた。
使用製品
Extracellular OCR Plate Assay Kit
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