タウオパチー脳におけるミクログリアの脂質滴蓄積は神経細胞のAMPKによって制御される

加齢およびアルツハイマー病脳における脂質滴(LD)の蓄積は、細胞および分子メカニズムが未解明な病理学的現象として知られている。本論文では、刺激ラマン散乱(SRS)顕微鏡を利用して、タウオパチーマウスの脳のミクログリアにおけるLDの有意な蓄積を観察し、タウオパチーのハエの脳と人工多能性幹細胞(iPSC)由来のヒト神経細胞において、LD内での脂質新生が亢進し、脂質のターンオーバーが障害されていることを明らかにした。また、タウオパチーのiPSCニューロンからミクログリアへの不飽和脂質の移行は、LDの蓄積、酸化ストレス、炎症、貪食障害を示した。神経細胞のAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)は、脂質生成を阻害し、神経細胞のリポファジーを促進することで、ミクログリアへの脂質フラックスを減少させた。前駆期タウオパチーマウスにおけるAMPKの枯渇は、LD蓄積を増加させ、炎症性ミクログリオーシスを悪化させ、神経病理を促進することを明らかにした。これらの結果は、タウオパチー脳におけるLDの異常蓄積を示し、脳内脂質のホメオスタシスの制御におけるAMPKの重要性を示唆している。

Microglial lipid droplet accumulation in tauopathy brain is regulated by neuronal AMPK
論文へのアクセスはこちら:   Yajuan Li, et. al., Cell Metabolism, (2024)

注目ポイント

・タウオパチーのハエとヒトiPSCニューロンは、脂質生成の亢進と脂質滴内の脂質ターンオーバーの障害を示した

・タウオパチーの神経細胞からミクログリアへの不飽和脂質の移行は、脂質滴の蓄積、酸化ストレス、炎症、貪食能の低下につながる

・AMPKは神経細胞の脂質生成を抑制し、リポファジーを支持してミクログリアへの脂質移動を減少させるが、AMPKの枯渇は脂質の蓄積と神経病理を悪化させる

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アプリケーションデータ

ハイコンテントイメージングによる、薬物誘発性脂質症の肝毒性試験

 

ヒト肝がん細胞株(HepG2細胞) にプロプラノロール(交感神経β受容体遮断薬)を添加し、脂肪滴の変化を蛍光顕微鏡にて観察しました。さらに、取得した顕微鏡画像から脂肪滴の数・面積・蛍光強度を計測することにより、脂肪滴の蓄積を解析しました。

 

脂肪滴のイメージング
HepG2細胞にプロプラノロール0, 10, 30 μmol/lを処理し、脂肪滴をLipi-Green、核をHoechst33342で染色し蛍光顕微鏡(Ti2-E倒立顕微鏡)を用いて観察しました。その結果、プロプラノロールの濃度依存的に脂肪滴が増加している様子が確認されました。

< Ti2-E顕微鏡 撮影条件>
 核(青:Hoechst33342 ):Ex 385 nm,  Em 460nm
 脂肪滴(緑:Lipi-Green):Ex 475 nm,  Em 535nm

 

薬剤処理濃度に対する脂肪滴の蓄積を解析
得られた蛍光画像より、核から細胞数を、脂肪滴から面積、数、蛍光強度を計測し、細胞あたりの脂肪滴の蓄積を解析しました。その結果、プロプラノロールの濃度依存的に脂肪滴の数と面積が増加し、20 μmol/l以上の濃度条件において、脂肪滴が顕著に形成される結果が得られました。撮影には、ワンショットで広範囲の細胞領域を捉えることができるDS-Qi2カメラを使用し、解析にはすべての脂肪滴に焦点のあった画像を取得できるNIS-ElementsソフトウェアのEDFモジュールを使用することで、信頼性の高い統計データによる定量解析が可能となりました。
   

 

<使用装置>
ハイコンテンツアナリシス(HCA)顕微鏡システム
(株式会社ニコン https://www.microscope.healthcare.nikon.com/ja_JP/ )

※染色操作と解析法の詳細は、株式会社ニコン「APPLICATION NOTE :ハイコンテントイメージングによる、薬物誘発性脂質症の肝毒性試験」よりご覧いただけます。

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