ミトコンドリアDNAの変異が好気的解糖を促進し、 メラノーマにおけるチェックポイント阻害反応を増強する

ミトコンドリアDNA (mtDNA) は、酸化リン酸化と代謝恒常性維持に不可欠な機構をコード化しており、特に腫瘍由来 mtDNA は、がんゲノムの中で最も体細胞変異を起こしやすい領域の 1 つであるが、これらの変異が腫瘍生物学に影響を及ぼすかどうかは解明されていない。本論文では、mtDNAコード化複合体 I 遺伝子 Mt-Nd5 の切断変異をいくつか組み込んだ悪性黒色腫マウスモデルを用いた研究から、これらの変異がマウスとヒトの両方で腫瘍微小環境を再形成するWarburg様代謝シフトを促進し、常在好中球の減少を特徴とする抗腫瘍免疫応答を一貫して誘発することを明らかにした。mtDNAの変異を有する腫瘍は、好中球依存的にチェックポイント阻害に対して感受性となり、mtDNA野生型腫瘍では、酸化還元不均衡状態の再現によりこの効果を誘発することができた。 mtDNA変異異質性が 50% を超える患者病変では、チェックポイント阻害に対する反応率が mtDNA野生型癌の約 2.5 倍に改善された。これらの結果から、mtDNA 変異が癌代謝と腫瘍生物学の機能的調節因子であり、治療活用への可能性を示している。

Mitochondrial DNA mutations drive aerobic glycolysis to enhance checkpoint blockade response in melanoma
論文へのアクセスはこちら:  Mahmood, M., et al., Nature Cancer, (2024)

注目ポイント

・mtDNAコード化複合体Ⅰ遺伝子Mt-Nd5の切断変異を組み込んだ悪性黒色腫マウスモデルでは、細胞内の酸化還元不均衡が誘導される

・これにより、Warburg効果様代謝シフトが促進され、腫瘍微小環境が再形成される

・mtDNAの変異は、腫瘍微小環境中の好中球の数を減少させ、抗腫瘍免疫応答を誘導する

・mtDNAの変異を持つ悪性黒色腫は、免疫チェックポイント阻害薬に対する感受性が高まる

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アプリケーションデータ

2種類のがん細胞における代謝経路の比較

<Lactate生成量とATP量による評価>


 Oligomycin刺激により酸化的リン酸化でのATP合成を阻害、また2-Deoxy-D-glucose(2-DG)により解糖系でのATP合成を阻害した際のATP量とLactate生成量の変化を確認したところ、HeLa細胞は解糖系に依存し、HepG2細胞は酸化的リン酸化に依存してATP合成している結果が得られた。

 HeLa細胞は酸化的リン酸化を阻害した際、ATP量は変わらず(①)、Lactate生成量が増加する(②)ことから、酸化的リン酸化が阻害されても解糖系をさらに活性化することができ、逆に解糖系を阻害するとATP量が大きく減少することから(③)、エネルギー産生を解糖系に依存していることが示唆された。一方、HepG2細胞は、酸化的リン酸化を阻害した際、Lactate生成量が増加していることから(④)、解糖系の亢進によりエネルギー産生を補おうとしているがATP量は減少している(⑤)、すなわち解糖系を亢進させてもATP産生を補えていないことを意味する。さらに解糖系を阻害した場合よりもATP量が減少する(⑥)ことから、エネルギー産生を解糖系よりも酸化的リン酸化に依存しているということが示唆された。

 

使用製品
 Glycolysis/OXPHOS Assay Kit

 

<OCR値による評価>

    

 

 同じ細胞数にてミトコンドリア脱共役剤であるFCCP刺激により、細胞の酸素消費を促進した際のOCRを測定した。その結果、HepG2細胞はHeLa細胞よりもOCR値が高く酸化的リン酸化への依存度が大きいことが示唆され、ATP量やLactate量を指標に評価した場合と相関する結果が得られた。

 

使用製品
Extracellular OCR Plate Assay Kit

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