血小板ミトコンドリアの獲得ががん細胞を転移状態へ再プログラムする

がん細胞は免疫細胞からミトコンドリアを獲得することで免疫を回避し、血小板はこれらのミトコンドリアを間葉系幹細胞 (MSC) に転送し、そこで代謝経路を再構築して、MSC の血管新生と組織修復能力を高めることが知られているが、ミトコンドリアが血小板とがん細胞の間を移動するかどうかは確認されておらず、ミトコンドリアが移行された後のがん細胞の変化は不明なままであった。本論文では、骨肉腫細胞が血小板ミトコンドリアを獲得し、それががん細胞の代謝状態を変化させて浸潤性間葉系状態への移行につながること、またミトコンドリアの移動は血小板におけるPINK1/Parkin-Mfn2経路の調節に依存することを明らかにした。また、GSH代謝経路がミトコンドリア移動プロセスの調節に重要な役割を果たすことを示した。これらの結果から、骨肉腫の肺転移における酸化ストレスの血小板ミトコンドリアおよびGSH調節の役割を証明し、ミトコンドリア移行の阻害または抗酸化活性の除去が早期骨肉腫転移の潜在的な治療法であることが示唆された。

Cancer cells reprogram to metastatic state through the acquisition of platelet mitochondria
論文へのアクセスはこちら:  Zhang, W., et al. Cell Rep.(2023)

注目ポイント

・がん細胞はPINK1/Parkin-Mfn2経路を介して血小板ミトコンドリアを獲得し、転移状態に再プログラムされる

・移植された血小板ミトコンドリアは解糖代謝を促進し、グルタチオンペルオキシダーゼの発現を増加させた

・GSHは活性酸素を除去し、GSSGレベルを上昇させ、最終的には血小板ミトコンドリアの存在下で骨肉腫の肺転移を促進する

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アプリケーションデータ

ミトコンドリア電子伝達系の阻害

 Jurkat細胞にAntimycin刺激を行い、ミトコンドリア電子伝達系を阻害した際の細胞の状態変化を、様々な指標から評価した。
 その結果、電子伝達系の阻害により①ミトコンドリア膜電位の低下および②OCRが低下した。また、③解糖系を強制的に維持するために、ピルビン酸から乳酸への代謝が亢進することで、④解糖系全体のNAD+/NADH比が低下し、さらに活性酸素種(ROS)増加に伴う⑤GSH枯渇、グルタチオン生合成に必要なNADPHの減少に伴う⑥NADP+/NADPH比の増加を確認した。

2種類のがん細胞における代謝経路の比較

<Lactate生成量とATP量による評価>


 Oligomycin刺激により酸化的リン酸化でのATP合成を阻害、また2-Deoxy-D-glucose(2-DG)により解糖系でのATP合成を阻害した際のATP量とLactate生成量の変化を確認したところ、HeLa細胞は解糖系に依存し、HepG2細胞は酸化的リン酸化に依存してATP合成している結果が得られた。

 HeLa細胞は酸化的リン酸化を阻害した際、ATP量は変わらず(①)、Lactate生成量が増加する(②)ことから、酸化的リン酸化が阻害されても解糖系をさらに活性化することができ、逆に解糖系を阻害するとATP量が大きく減少することから(③)、エネルギー産生を解糖系に依存していることが示唆された。一方、HepG2細胞は、酸化的リン酸化を阻害した際、Lactate生成量が増加していることから(④)、解糖系の亢進によりエネルギー産生を補おうとしているがATP量は減少している(⑤)、すなわち解糖系を亢進させてもATP産生を補えていないことを意味する。さらに解糖系を阻害した場合よりもATP量が減少する(⑥)ことから、エネルギー産生を解糖系よりも酸化的リン酸化に依存しているということが示唆された。

 

使用製品
 Glycolysis/OXPHOS Assay Kit

 

<OCR値による評価>

    

 

 同じ細胞数にてミトコンドリア脱共役剤であるFCCP刺激により、細胞の酸素消費を促進した際のOCRを測定した。その結果、HepG2細胞はHeLa細胞よりもOCR値が高く酸化的リン酸化への依存度が大きいことが示唆され、ATP量やLactate量を指標に評価した場合と相関する結果が得られた。

 

使用製品
Extracellular OCR Plate Assay Kit

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