がん細胞のミトコンドリア移入が腫瘍形成を促進

 がん微小環境の形成において、癌関連線維芽細胞(CAF)は腫瘍進展を支える中心的存在である。本研究では、がん細胞が線維芽細胞へミトコンドリアを移入し、CAF分化を誘導するという新たな機構が明らかにされた。特に、ミトコンドリア輸送タンパク質MIRO2がこの過程に必須であることが示された。
 研究チームは皮膚がん細胞A431と正常線維芽細胞を共培養し、トンネルナノチューブ(TNT)を介したミトコンドリアの移動を観察した。受け取った線維芽細胞では代謝活性が上昇し、IL6、ACTA2、COL1A1などCAFマーカー遺伝子が顕著に誘導された。さらに、精製ミトコンドリアを直接線維芽細胞に移植しても同様の分化が起こり、ミトコンドリア由来の代謝リプログラミングがCAF化を引き起こすことが確認された。 
 MIRO2をノックダウンするとミトコンドリアの転送は阻害され、CAF分化と腫瘍形成が著しく低下した。反対に、MIRO2を過剰発現させたがん細胞では移行効率が上昇したが、一定量を超えると効果は飽和した。臨床試料でも、皮膚扁平上皮がんの浸潤前縁でMIRO2が過剰発現していることが確認された。 
 これらの結果は、がん細胞から間質細胞へのミトコンドリア移行が腫瘍形成のドライバーであることを示し、MIRO2およびミトコンドリア移行経路が新たな治療標的となる可能性を示唆している。 

IRO2-mediated mitochondrial transfer from cancer cells induces cancer-associated fibroblast differentiation 
論文へのアクセスはこちら:  Cangkrama, M., et al., Nat Cancer, 2025.

注目ポイント

・MIRO2を介したミトコンドリア転送が、線維芽細胞をCAFへと再プログラム化する。

・精製ミトコンドリア移植でもCAF化が再現され、機能的な代謝変化を誘導。 

・MIRO2発現抑制で腫瘍成長が阻害され、新たながん治療標的として注目される。

関連製品
ミトコンドリア膜電位検出キット
JC-1 MitoMP Detection Kit / MT-1 MitoMP Detection Kit
ミトコンドリア スーパーオキシド検出用蛍光色素 
MitoBright ROS Deep Red - Mitochondrial Superoxide Detection
トータルROS検出キット 
ROS Assay Kit -Highly Sensitive DCFH-DA- / Photo-oxidation Resistant DCFH-DA-
ADP/ATP比測定キット
ADP/ATP Ratio Assay Kit-Luminescence
オートファジー経路測定キット 
 Autophagic Flux Assay Kit
マイトファジー検出試薬 
Mitophagy Detection Kit
細胞外酸素消費プレートアッセイキット
Extracellular OCR Plate Assay Kit
解糖系/酸化的リン酸化測定キット
Glycolysis/OXPHOS Assay Kit
アプリケーションデータ

細胞内Total ROSとミトコンドリアスーパーオキシドの同時測定

HeLa細胞をHBSSにて洗浄後、MitoBright ROS Deep Redと細胞内ROS検出色素(ROS Assay Kit –Highly Sensitive DCFH-DA-:製品コード R252)を用いて共染色し、ミトコンドリアスーパーオキシド発生剤(Antimycin)もしくは過酸化水素による異なる刺激を誘導し、観察を行いました。その結果、細胞全体でのROS 誘導とミトコンドリア由来の ROS誘導を観察できました。

実験操作

過酸化水素刺激の結果

Antimycin刺激の結果

検出条件(共焦点レーザー蛍光顕微鏡)
細胞内 ROS: Ex = 488, Em = 490-520 nm
MitoBright ROS :Ex = 633 nm, Em = 640-700 nm
スケールバー:10 µm

 

2種類のがん細胞における代謝経路の比較

<Lactate生成量とATP量による評価>


 Oligomycin刺激により酸化的リン酸化でのATP合成を阻害、また2-Deoxy-D-glucose(2-DG)により解糖系でのATP合成を阻害した際のATP量とLactate生成量の変化を確認したところ、HeLa細胞は解糖系に依存し、HepG2細胞は酸化的リン酸化に依存してATP合成している結果が得られた。

 HeLa細胞は酸化的リン酸化を阻害した際、ATP量は変わらず(①)、Lactate生成量が増加する(②)ことから、酸化的リン酸化が阻害されても解糖系をさらに活性化することができ、逆に解糖系を阻害するとATP量が大きく減少することから(③)、エネルギー産生を解糖系に依存していることが示唆された。一方、HepG2細胞は、酸化的リン酸化を阻害した際、Lactate生成量が増加していることから(④)、解糖系の亢進によりエネルギー産生を補おうとしているがATP量は減少している(⑤)、すなわち解糖系を亢進させてもATP産生を補えていないことを意味する。さらに解糖系を阻害した場合よりもATP量が減少する(⑥)ことから、エネルギー産生を解糖系よりも酸化的リン酸化に依存しているということが示唆された。

 

使用製品
 Glycolysis/OXPHOS Assay Kit


<OCR値による評価>

    

 

 同じ細胞数にてミトコンドリア脱共役剤であるFCCP刺激により、細胞の酸素消費を促進した際のOCRを測定した。その結果、HepG2細胞はHeLa細胞よりもOCR値が高く酸化的リン酸化への依存度が大きいことが示唆され、ATP量やLactate量を指標に評価した場合と相関する結果が得られた。

 

使用製品
Extracellular OCR Plate Assay Kit

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