これからはじめる細胞内ROS検出

 

目次

ROS測定の大きな課題

活性酸素種(ROS)は、主にATP合成時にミトコンドリアで生成されます。ROSはシグナル伝達経路や免疫系において重要な役割を果たしますが、過剰なROSは疾患や細胞老化と関連しています。DCFH-DAはROSの検出に広く使用されていますが、細胞内の蛍光シグナルが弱い、染色後に細胞から漏れる、観察中に光酸化が発生するなどの制限があります1)。ROSの検出における主な課題は、測定のバラつき、高いバックグラウンド、および観察光による自己酸化です。特に自己酸化は偽陽性を引き起こす可能性がありますが、弊社のROS Assay Kit -Photo-oxidation Resistant DCFH-DA- はこれらの課題を克服した製品です。

1) M. Afzal, et al.,"Method to overcome photoreaction, a serious drawback to the use of dichlorofluorescin in evaluation of reactive oxygen species" BBRC, 2003, 304, 619–624.

既存試薬との比較

弊社ROS Assay Kit -Photo-oxidation Resistant DCFH-DA-を含む、一般的に知られている既存色素との比較表を下記に示します。

  同仁化学研究所 T社
品コード R253 R252 - -
製品名

ROS Assay Kit
-Photo-oxidation Resistant DCFH-DA-

ROS Assay Kit
-Highly Sensitive DCFH-DA-

D色素 C色素

耐光性
※観察光による自動酸化


最も耐光性が高い

×
観察光による自動酸化あり

×
観察光による自動酸化あり

×
観察光による自動酸化あり

固定化操作


固定化可能

×
固定化不可

×
固定化不可


固定化可能

感度
(細胞染色時)


既存色素に比べ感度が高い


最も感度が高い


感度が低い


感度が低い

 

 

ROS Assay Kit -Photo-oxidation Resistant DCFH-DA-(製品コード:R253)について

光酸化に耐性がある

刺激をしていないHeLa細胞に既存色素またはROS Assay Kit -Photo-oxidation Resistant DCFH-DA-で染色し、5分おきに励起光を照射しタイムラプスイメージングを行いました。結果、DCFH-DAは励起光が照射されるにつれ蛍光強度が増加しましたが、ROS Assay Kit -Photo-oxidation Resistant DCFH-DA-は観察時の励起光による 自動酸化を大幅に抑制していることが分かりました。

タイムラプス撮影


 

免疫染色との共染色に利用可能

ROS Assay Kit -Photo-oxidation Resistant DCFH-DA-を用いて染色した HeLa 細胞に過酸化水素を添加後、 Tom20 抗体を用いた免疫染色法との共染色により、ROS 応答とミ トコンドリアの形態異常を同時に観察しました。結果、ROS 応答と ミトコンドリア形態の状態を鮮明に観察でき、既存色素では困難であった、免疫染色法との共染色ができることがわかりました。

 

 

 

ROS Assay Kit -Highly Sensitive DCFH-DA-(製品コード:R252)について

検出感度の比較

過酸化水素処理したHeLa細胞をDCFH-DAまたはROS Assay Kit -Highly Sensitive DCFH-DA-で染色し、細胞内ROSの検出能を比較しました。 結果、いずれの検出装置においてもROS Assay Kit -Highly Sensitive DCFH-DA-ではDCFH-DAよりも高感度に細胞内のROSを検出できました。

①蛍光顕微鏡での検出

 

②蛍光プレートリーダーでの検出

 

 

MitoBright ROS Deep Red - Mitochondrial Superoxide Detection(製品コード:MT16)と既存試薬との比較

活性酸素種に対する反応選択性

MitoBright ROS Deep Redと既存品(T社)の各活性酸素種(ROS)に対する反応性を比較しました。既存品と比べてMitoBright ROS Deep Redはスーパーオキシド選択性が高いことが確認されました。

また、MitoBright ROS Deep Redは既存品よりも長波長の蛍光を発するため、これまで困難であったミトコンドリア膜電位染色色素(JC-1色素MT09, TMRE, MT-1色素MT13)との共染色が可能です。

  MitoBright ROS Deep Red 既存試薬(T社)
製品形態 固体 固体
生細胞染色
染色後の固定化 × ×
蛍光特性 λex:540 nm , λem:670 nm λex:510 nm , λem:580 nm

 

T社製品は細胞内のDNAに局在化する傾向がありますが、MitoBright ROS Deep RedはDNAに結合する特性を持たないため局在化しません。これにより、DNAへの結合による偽陽性を回避し、ミトコンドリアスーパーオキシドのより正確な観察が可能になります。

 

 

実験例:細胞内Total ROSとミトコンドリアスーパーオキシドの同時測定

HeLa細胞をHBSSにて洗浄後、MitoBright ROS Deep Red - Mitochondrial Superoxide Detection (製品コード:MT16)ROS Assay Kit –Highly Sensitive DCFH-DA- (製品コード:R252)を用いて共染色し、ミトコンドリアスーパーオキシド発生剤(Antimycin)もしくは過酸化水素による異なる刺激を誘導し、観察を行いました。その結果、細胞全体でのROS 誘導とミトコンドリア由来の ROS誘導を見分けることが観察できました。

実験操作

 

過酸化水素刺激の結果

 

Antimycin刺激の結果

 

<検出条件(共焦点レーザー蛍光顕微鏡)>
細胞内 ROS: Ex = 488, Em = 490-520 nm
MitoBright ROS :Ex = 633 nm, Em = 640-700 nm
スケールバー:10 µm

 

実験例:LPS処理したマクロファージの経時的なROS検出

ROS Assay Kit -Photo-oxidation Resistant DCFH-DA- (製品コード:R253)を用いて染色したRAW264.7 細胞を、LPS(Lipopolysaccharide)処理し細胞内ROSの変化をタイムラプスイメージングしました。その結果、LPS処理によって細胞内のROSが経時的に増加することがわかりました。さらに、得られた結果を数値化したところ、LPS添加後10時間からROSが顕著に増加する結果が得られました。

撮影動画

<検出条件>
細胞内ROS(Photo-oxidation Resistant DCFH-DA Dye): GFPフィルター(Ex = 450 - 490 nm, Em = 500 - 550 nm)

 

実験例:xCT阻害による細胞内取り込みと酸化還元バランスの評価

シスチン/グルタミン酸アンチポーター(xCT)は、ヒトがん細胞において過剰発現し、シスチンの取り込みとグルタチオンの生物合成を促進します*。これにより、酸化ストレスからの保護と、脂質過酸化物の蓄積を特徴特徴とする鉄依存性のプログラム細胞死であるフェロトーシスが抑制されます。エラスチンで処理したA549細胞を用いて、細胞内代謝と酸化還元バランスを評価しました。
Pranavi Koppula, et. al., Cancer Commun., 38:12 (2018)

結果

・エラスチンによってシスチン取り込みが阻害されシスチンの枯渇を招き、その結果他のアミノ酸の代償的な取り込みが増加しました。

・エラスチン処理によってグルコースの取り込みが減少したことで、代謝の再プログラミング化が起きた可能性が示唆されました。

・シスチンの枯渇は、フェロトーシスのマーカーであるグルタチオンの減少とFe2+、ROS、過酸化脂質の増加をもたらしました。

 

使用製品

① アミノ酸取り込み:Amino Acid Uptake Assay Kit

② グルコース取り込み:Glucose Uptake Assay Kit-Green

③ シスチン取り込み:Cystine Uptake Assay Kit

④ 細胞内グルタチオン:GSSG/GSH Quantification Kit

⑤ 細胞内鉄イオン(Fe2+):FerroOrange

⑥ 細胞内トータルROS:ROS Assay Kit -Highly Sensitive DCFH-DA-

⑦ 過酸化脂質:Liperfluo

 


 
 


 

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