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加齢はアルツハイマー病やパーキンソン病など中枢神経系の機能低下を引き起こすことが知られているが、末梢神経系における老化の影響は十分に解明されていない。本研究は、後根神経節(DRG)の感覚ニューロンに焦点を当て、加齢や末梢神経損傷がもたらす細胞老化の役割を明らかにした。マウス実験では、加齢に伴いDRGニューロンに老化マーカー(p21、p16)が増加し、炎症性因子IL6の発現も高まることが確認された。さらに、神経損傷モデルでは若齢マウスでも老化表現型が誘導され、IL6を中心とする老化関連分泌因子(SASP)が痛覚過敏の一因となることが示された。電気生理学的解析では、老化ニューロンが高い興奮性を示し、IL6投与により発火頻度が上昇することが明らかになっている。加えて、老化細胞を除去する薬剤(ABT263)を投与すると、高齢マウスで痛覚過敏や体重支持機能が改善した。ヒトDRGサンプルでも加齢に伴い老化マーカーの発現が増加し、特にTRPV1を発現する侵害受容ニューロンにおいて顕著だった。これらの結果は、老化感覚ニューロンが加齢や神経損傷に関連する慢性疼痛の新たな病態基盤であることを示している。
本研究は、末梢神経系における老化細胞を標的とする新しい治療戦略の可能性を提示しており、加齢性疼痛や神経障害に対する介入法開発に重要な示唆を与えるものである。
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Aging and injury drive neuronal senescence in the dorsal root ganglia
論文へのアクセスはこちら: L. J. Donovan, el al., nature neuroscience (2025)
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注目ポイント
・DRGニューロンは加齢・損傷により老化し、炎症因子IL6を分泌して疼痛を悪化させる
・老化ニューロンは高い興奮性を示し、IL6刺激で発火頻度がさらに上昇する
・老化細胞除去薬により高齢マウスの疼痛行動が改善、治療標的として有望
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| 関連製品 |
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| アプリケーションデータ |
ヒトミクログリア細胞の老化とミトコンドリア膜電位の同時検出

老化細胞検出色素SPiDER Blue(SG07)とミトコンドリア膜電位(MMP)色素MT-1(MT13)を用いてヒトミクログリア細胞を染色した。顕微鏡観察の結果、コントロール細胞と比較して、老化誘導細胞ではMMPが減少し、SPiDER Blueの蛍光が増加し、SA-β-Gal活性の上昇を反映していることが明らかになった。
*本データは、Dr. Supriya D. Mahajan( Department of Medicine, Jacobs School of Medicine & Biomedical Sciences)のご厚意によりご提供いただきました。
<操作>
1. ヒトミクログリア細胞をシャーレに播種し、37 °C、5% CO₂/95% 空気の条件下に設定したインキュベーターで培養した。
2. MT-1 Dyeを細胞培養培地で希釈(1:1000)しMT-1 working solutionを調製した。
3. MT-1 working solutionを細胞に添加した。
4. 細胞を 37 °C、5% CO₂/95% 空気条件下にて 30 分間インキュベートした。
5. 上清を除去し、HBSSで細胞を2回洗浄した。
6. 4% PFA/PBS溶液を細胞に加え、室温で30分間インキュベートした。
7. 4% PFA/PBS溶液を除去し、PBSで細胞を洗浄した。
8. 15 µmol/l Spider Blue working solutionを加え、37℃で30分間インキュベートした。
9. working solutionを除去し、PBSで細胞を洗浄した。
10. Imaging Buffer を加え、蛍光顕微鏡で細胞を観察した。
<使用製品>
老化細胞検出色素:Cellular Senescence Detection Kit - SPiDER Blue (製品コード:SG07)
ミトコンドリア膜電位(MMP)色素:MT-1 MitoMP Detection Kit (製品コード:MT13)
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