老化CAFが乳がんの進行と免疫機能に与える影響

 がん細胞の周りに混在する細胞や成分が作り出す腫瘍微小環境は、腫瘍形成に影響を及ぼすとされている。本論文では、腫瘍微小環境の構成要素であるがん関連線維芽細胞(cancer associated fibroblast:CAF)に着目し、老化したがん関連線維芽細胞(老化CAF)が腫瘍形成にもたらす影響を明らかにした。筆者らは、老化CAFが乳がん組織に存在し、CAFの中でも筋線維芽細胞型myCAFというタイプに限定して存在することを確認した。特に、p16を発現する老化CAFは乳がん組織内のmyCAFに多く存在していた。さらに、老化CAFが異常な細胞を排除するナチュラルキラー(NK)細胞の働きを弱める仕組みを解明した。老化CAFはNK細胞を阻害する細胞外マトリックス(ECM)を産生し腫瘍形成を促していた。老化CAFの除去が腫瘍の進行を抑えている結果から、老化CAFを標的とした治療が乳がん治療に役立つ可能性を示した。

Senescent CAFs mediate immunosuppression and drive breast cancer progression
論文へのアクセスはこちら:  Ye, J. et al., Cancer Discov., (2024)

注目ポイント

・老化したがん関連線維芽細胞(老化CAF)は、ナチュラルキラー(NK)細胞の活性を抑制する細胞外マトリックス(ECM)を産生し、腫瘍の進行を促進する

・老化CAFの除去は腫瘍の進行を遅延させることから、老化CAFを標的とした治療が今後の乳がん治療に寄与する可能性を示した

・老化CAFがmyCAFに限定して存在していることから、細胞老化に特定のCAFやプログラムが関与している可能性がある

関連製品
細胞老化検出試薬
SPiDER-βGal for 生細胞イメージング または フローサイトメトリー / マイクロプレートリーダー / 組織サンプル
  SPiDER-βGal Blue (固定化細胞や免疫染色との多重染色に最適な色素)
トータルROS検出キット
ROS Assay Kit -Highly Sensitive DCFH-DA- / Photo-oxidation Resistant DCFH-DA-
DNAダメージ検出抗体
DNA Damage Detection Kit - γH2AX - Green / Red / Deep Red
細胞周期検出キット
Cell Cycle Assay Solution Blue / Deep Red 
核小体蛍光染色
Nucleolus Bright Green / Red
解糖系/酸化的リン酸化測定キット
Glycolysis/OXPHOS Assay Kit
NAD/NADH測定キット
NAD/NADH Assay Kit-WST
ミトコンドリア膜電位キット
JC-1 MitoMP Detection Kit / MT-1 MitoMP Detection Kit
アプリケーションデータ

老化誘導によるA549細胞の代謝シフト

細胞老化が誘導されると、SA-β-galの発現亢進や不可逆的な細胞増殖停止といった現象が見られる他、DNAダメージが蓄積した老化細胞では、ミトコンドリア機能の低下によりエネルギー産生を解糖系にシフトします。そこで、A549細胞をDoxorubicinで処理し老化誘導した際のSA-β-gal発現亢進およびエネルギー産生経路(NAD量、ミトコンドリア膜電位、ATP量、Lactate放出量)のシフトを確認しました。
その結果、DNA損傷が認められましたが、SA-β-gal(Senescence Assosiated -β- Galactosidase)産生量が増加し、細胞内 NAD+ 量が低下したことからミトコンドリア膜電位が低下し、エネルギー生産経路が酸化的リン酸化から解糖系へシフトしたことが確認されました。

*S. Imai, et al., Trends Cell Biol, 2014, 24, 464-471


使用製品
① DNA Damage Detection Kit - γH2AX
② Cellular Senescence Detection Kit - SPiDER-βGal
 NAD/NADH Assay Kit-WST
④ JC-1 MitoMP Detection Kit
⑤ Glycolysis/OXPHOS Assay KitLactate Assay Kit-WST

Doxorubicin誘導老化細胞を用いた酸化ストレス関連マーカーとの多重染色解析(フローサイトメトリー)

 

Doxorubicin処理により老化誘導したA549細胞(DOX)と通常細胞(CTRL)を用いて、老化細胞の酸化ストレス関連マーカーの変化をフローサイトメトリーで多重染色解析を行った。老化マーカーとしてSA-β-GalをCellular Senescence Detection Kit - SPiDER Blue, 酸化ストレスマーカーとしてtotal ROSの検出をROS Assay Kit -Photo-oxidation Resistant DCFH-DA-, DNAダメージマーカーとしてγH2AXをDNA Damage Detection Kit - γH2AX – Redで検出した。
その結果、 SA-β-Gal陽性の老化細胞において、total ROS, γH2AXが増大する結果が得られた。


【検出条件】

使用装置:SONY SA3800
  SPiDER Blue: PacificBlue  
    ROS Assay Kit: FITC
    γH2AX - Red: Cy3

<実験手順>
 *事前に、通常培地で培養した細胞 (CTRL) と、DOX 処理 (0.2 μM DOX 3 days → 通常培地 3 days) した細胞 (DOX) を準備
 実験の詳細については、 SPiDER Blueの製品ページをご確認ください。

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