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がん細胞の多くは、染色体数の異常を示す異数性をもつとされている。異数性などの染色体分離異常に対し、細胞は腫瘍抑制因子p53を活性化させて細胞周期を停止し老化を促進するが、p53を作動させるセンサーは不明である。そこで、本論文は染色体分離異常が引き起こす細胞の構造変化と応答メカニズムを明らかにした。
染色体の誤分配は、染色体を高度に凝縮するヘテロクロマチンの減少と核ラミナの形成異常を引き起こした。続いて、細胞核の形状や硬さ、核膜の張力が変化し、細胞の生存や代謝に関わるmTORC2とDNA損傷応答に関与するATRが細胞核の変化を感知することがわかった。そして、細胞核の変化を感知したmTORC2とATRがp53やp21の活性化を促進し、細胞周期をブロックして異数性を防いだ。一連の変化を観察した本研究は、p53やp21を作動させるセンサーがmTORC2とATRであると結論付けた。
一方で、筆者らは細胞核の形状変化によってがん細胞が他の細胞や組織に侵入する能力が向上し、がんの進行を促進する可能性を示唆している。細胞核の物理的特性と細胞生理学の関連を探求することは、細胞の健康や今後のがん治療に役立つと考えられる。
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Chromosome mis-segregation triggers cell cycle arrest through a mechanosensitive nuclear envelope checkpoint
論文へのアクセスはこちら: Hervé, S.,et al, Nature Cell Biology, (2025)
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注目ポイント
・染色体の誤分配により細胞核の形状や硬さが変化し、腫瘍抑制因子であるp53とp21を活性化する。
・細胞核の形状や硬さ、核膜の張力の変化はヘテロクロマチンの減少と核ラミナの形成異常によって引き起こされる。
・mTORC2 および ATR が細胞核の構造変化を感知し、p53/p21 を介して細胞周期停止を誘発する。 この一連の機構は、DNA損傷応答とは異なる機械的チェックポイントとして機能する。
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| 関連製品 |
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| アプリケーションデータ |
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抗がん剤による細胞機能の変化
抗がん剤として知られているDoxorubicin(DOX) をA549 細胞へ添加後、A549 細胞における細胞周期の変化と、細胞老化、ミトコンドリア膜電位の変化を確認しました。
細胞周期の検出において、G2/M期に対応するピークが増加したことで、細胞が細胞分裂を停止しG2/M期に留まっていることを確認しました。さらにミトコンドリア膜電位の低下、細胞老化が亢進する結果が得られました。

使用製品
細胞周期の検出: Cell Cycle Assay Solution Blue / Deep Red
細胞老化の検出 Cellular Senescence Detection Kit - SPiDER-βGal
ミトコンドリア膜電位の検出: JC-1 MitoMP Detection Kit
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老化誘導によるA549細胞の代謝シフト
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