化学療法の有効性は、PD-L2を発現する腫瘍内老化細胞によって制限される

化学療法は腫瘍内の老化がん細胞を生成することが多く、これが腫瘍微小環境を強く変化させ、免疫抑制と腫瘍増殖を促進している。本論文では、プロテオミクススクリーニングにより、さまざまな種類のがん細胞で老化が誘導されると、PD-L2(Programmed death 1 ligand 2)が大幅にアップレギュレーションされることを明らかにした。PD-L2は細胞の老化に必須ではないが、老化細胞が免疫系を回避して腫瘍内に存続するためには不可欠である。実際に、化学療法後、PD-L2欠損老化がん細胞は急速に排除され、腫瘍は老化関連ケモカインCXCL1およびCXCL2を産生しなかった。さらに、抗体による PD-L2 の阻害は化学療法と強力な相乗効果を発揮し、マウスの乳腺腫瘍の寛解を引き起こした。これらの結果は、化学療法と抗 PD-L2 を組み合わせることで、治療誘発性老化から生じる脆弱性を利用した治療戦力の可能性を示唆している。

The efficacy of chemotherapy is limited by intratumoral senescent cells expressing PD-L2
論文へのアクセスはこちら:  Chaib, S. et al., Nature Cancer, (2024)

注目ポイント

・化学療法は度々老化したがん細胞を発生させ、この細胞がPD-L2の発現を増加させ、免疫回避と腫瘍の成長を助ける

・PD-L2は老化には必要ではないが、老化細胞による免疫回避には重要であり、化学療法後の腫瘍の持続を促進する

・抗体を介したPD-L2阻害は化学療法と相乗効果を示し、老化がん細胞を標的とした治療戦略の可能性を示唆している

関連製品
細胞老化検出試薬
SPiDER-βGal for 生細胞イメージング または フローサイトメトリー / マイクロプレートリーダー / 組織サンプル
 新製品 SPiDER-βGal Blue (固定化細胞や免疫染色との多重染色に最適な色素)
トータルROS検出キット
ROS Assay Kit -Highly Sensitive DCFH-DA- / Photo-oxidation Resistant DCFH-DA-
DNAダメージ検出抗体
DNA Damage Detection Kit - γH2AX - Green / Red / Deep Red
核小体蛍光染色
Nucleolus Bright Green / Red
解糖系/酸化的リン酸化測定キット
Glycolysis/OXPHOS Assay Kit
NAD/NADH測定キット
NAD/NADH Assay Kit-WST
ミトコンドリア膜電位キット
JC-1 MitoMP Detection Kit / MT-1 MitoMP Detection Kit
アプリケーションデータ

老化誘導によるA549細胞の代謝シフト

細胞老化が誘導されると、SA-β-galの発現亢進や不可逆的な細胞増殖停止といった現象が見られる他、DNAダメージが蓄積した老化細胞では、ミトコンドリア機能の低下によりエネルギー産生を解糖系にシフトします。そこで、A549細胞をDoxorubicinで処理し老化誘導した際のSA-β-gal発現亢進およびエネルギー産生経路(NAD量、ミトコンドリア膜電位、ATP量、Lactate放出量)のシフトを確認しました。
その結果、DNA損傷が認められましたが、SA-β-gal(Senescence Assosiated -β- Galactosidase)産生量が増加し、細胞内 NAD+ 量が低下したことからミトコンドリア膜電位が低下し、エネルギー生産経路が酸化的リン酸化から解糖系へシフトしたことが確認されました。

*S. Imai, et al., Trends Cell Biol, 2014, 24, 464-471


使用製品
① DNA Damage Detection Kit - γH2AX
② Cellular Senescence Detection Kit - SPiDER-βGal
 NAD/NADH Assay Kit-WST
④ JC-1 MitoMP Detection Kit
⑤ Glycolysis/OXPHOS Assay KitLactate Assay Kit-WST

Doxorubicin誘導老化細胞を用いた酸化ストレス関連マーカーとの多重染色解析(フローサイトメトリー)

 

Doxorubicin処理により老化誘導したA549細胞(DOX)と通常細胞(CTRL)を用いて、老化細胞の酸化ストレス関連マーカーの変化をフローサイトメトリーで多重染色解析を行った。老化マーカーとしてSA-β-GalをCellular Senescence Detection Kit - SPiDER Blue, 酸化ストレスマーカーとしてtotal ROSの検出をROS Assay Kit -Photo-oxidation Resistant DCFH-DA-, DNAダメージマーカーとしてγH2AXをDNA Damage Detection Kit - γH2AX – Redで検出した。
その結果、 SA-β-Gal陽性の老化細胞において、total ROS, γH2AXが増大する結果が得られた。


【検出条件】

使用装置:SONY SA3800
  SPiDER Blue: PacificBlue  
    ROS Assay Kit: FITC
    γH2AX - Red: Cy3

<実験手順>
 *事前に、通常培地で培養した細胞 (CTRL) と、DOX 処理 (0.2 μM DOX 3 days → 通常培地 3 days) した細胞 (DOX) を準備
 実験の詳細については、 SPiDER Blueの製品ページをご確認ください。

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