アポトーシスストレスが老化期のmtDNA放出を引き起こし、SASPの分泌を促進する

老化細胞は、SASPの分泌を通じて、部分的に加齢に関連した組織機能不全を引き起こすことが知られている。ミトコンドリアはSASPの主要な制御因子であるが、その根底にあるメカニズムは解明されていない。また、ミトコンドリアはアポトーシスに必要不可欠で、アポトーシスの際、ミトコンドリア外膜の広範な透過(MOMP)によって細胞は死に至る。本論文では、ミトコンドリアの小さなサブセットで発生する MOMP (miMOMPと呼ばれる)が細胞老化の特徴であることを発見した。さらに、生体内でMOMPを阻害すると、炎症マーカーが減少し、老化マウスの健康寿命が改善することを示した。これらの結果から、アポトーシスと老化はミトコンドリア依存性のメカニズムによって制御されており、致死的ではないミトコンドリアのアポトーシスストレスがSASPの主要なドライバーであることを明らかにした。

Apoptotic stress causes mtDNA release during senescence and drives the SASP
論文へのアクセスはこちら:  Victorelli, S., et al, Nature, (2023)

注目ポイント

・細胞老化の過程でアポトーシスストレスによってmiMOMPが発生しmtDNAの放出を引き起こす

・mtDNAが放出されると、SASPによって引き起こされる炎症が誘発される

・生体内でMOMPを阻害すると、炎症マーカーが減少し、老化マウスの健康寿命が改善した

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アプリケーションデータ

異なる薬剤を用いた評価

アポトーシス誘導剤である Staurosporine またはDoxorubicin で処理した Jurkat 細胞の細胞外 ATP 放出(E299:Extracellular ATP Assay Kit-Luminescence)、細胞増殖(CK04:Cell Counting Kit-8)、細胞外 LDH (CK12:Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST)の時間変化を評価しました。その結果、Staurosporine を処理した細胞では 4 時間後に細胞外へのATP の放出が最大になり、Doxorubicin で処理した細胞では 24 時間後に最大となりました。これらの結果から、薬剤の違いにより挙動に差があることが確認されました。

薬剤誘導による細胞死の各指標の変化

アポトーシス誘導剤であるStaurosporinまたはフェロトーシス誘導剤であるErastin、RSL3で処理したHepG2細胞の細胞外LDH、ホスファチジルセリン、細胞生存率、細胞内Fe2+、脂質過酸化の変化を解析しました。
その結果、Staurosporinで処理したアポトーシス誘導細胞ではホスファチジルセリンの増加、細胞生存率の低下並びに細胞外LDHが増加し細胞死が起きていることが確認できました。一方でフェロトーシス指標である細胞内Fe2+は変化がありませんでした。フェロトーシス誘導剤であるErastinで処理した細胞では細胞内Fe2+の増加と細胞生存率の低下が確認されましたが、細胞外LDHと脂質過酸化(脂質過酸化:赤色蛍光の減少と緑色蛍光の増加)は増加しませんでした。Erastinに加えてRSL3を同時に処理し、より強力にフェロトーシスを誘導した細胞では、フェロトーシスの指標である細胞内Fe2+と脂質過酸化の増加並びに細胞生存率の低下が確認され、死細胞が増加しました。一方で、ホスファチジルセリンはアポトーシス誘導細胞と比較し、フェロトーシス誘導時には増加率が低い結果となりました。これらの結果から、細胞死の指標を組み合わせて評価することで細胞死を見分けられることがわかりました。

<使用製品>
細胞外LDH:Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST(製品コード:CK12)
ホスファチジルセリン:Annexin V Apoptosis Plate Assay Kit(製品コード:AD12)
細胞生存率:Cell Counting Kit-8(製品コード:CK04)
細胞内Fe2+FerroOrange(製品コード:F374) *Hoechst 33342の蛍光強度で補正
脂質過酸化:Lipid Peroxidation Probe -BDP 581/591 C11-(製品コード:L267)

<実験条件>
細胞:HepG2細胞(2×104 cells/well)
薬剤:Staurosporin(5 μmol/l), Erastin(25 µmol/l), Erastin+RSL3(どちらも25 µmol/l)
   *無血清培地に希釈して添加

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