発売にあわせて、LLPS研究を応援するキャンペーン実施中!
▶ 液滴作成法・観察方法の確認 | LLPS Starter Kit | LL01 |
▶ 標的タンパク質液滴の最適条件の確認 | LLPS Forming Condition Screening Kit | LL02 |
▶ 液滴作成法・観察方法の確認 | LLPS Starter Kit | LL01 |
▶ 標的タンパク質液滴の最適条件の確認 | LLPS Forming Condition Screening Kit | LL02 |
液‐液相分離 (liquid-liquid phase separation: LLPS)は細胞内で特定の分子が局所的に集まり、液体のような性質を持つ生体分子の凝集体(液滴)を形成する現象です。近年、LLPSが細胞内での多くの生物学的プロセスに影響を与えることが明らかになり注目を浴びています。
がん細胞では特定の転写因子やRNA結合タンパク質が相分離を介して集まり、がん関連遺伝子の発現を特異的に促進することで、がん細胞の増殖や生存に直接的に寄与するメカニズムとして機能することが示唆されています。
神経疾患においても特異的なタンパク質の凝集体形成に相分離が関与し、これらのタンパク質凝集体が神経細胞の機能障害を引き起こし、疾患の進行に寄与すると考えられています。
相分離によって形成される液滴の研究はまだ初期段階にありますが、これらの生物学的な現象がどのようにして細胞の機能や疾患の発症に影響を与えるかを解明することは、新しい治療法の開発につながる重要な鍵となり得ます。
参考文献 E. Dolgin, Nature, 2018, DOI: 10.1038/d41586-018-03070-2.
◯Autophagy
細胞内の不要なタンパク質や細胞小器官を再利用または代謝するための分解過程であるオートファジーは、パーキンソン病などの神経変性疾患、老化に関りがあることが分かってきており注目を浴びています。Zheng*1らはこのオートファジーの活性制御にLLPSが関与することを明らかにしています。オートファジーの誘導は、タンパク質EPG-4/EI24によって制御される小胞体表面のCa2+トランジェントの引き金となりオートファゴソーム形成に必須の因子であるFIP200のLLPSを惹起します。さらにFIP200の液滴様構造はその会合がERタンパク質VAPsとATLsに依存しており、オートファゴソーム開始部位として機能していることが明らかとなりました。
*1 Qiaoxia Zheng et al., Calcium transients on the ER surface trigger liquid-liquid phase separation of FIP200 to specify autophagosome initiation sites., Cell, 2022, 185(22), 4082-4098.
◯フェロトーシス
鉄イオンに依存した脂質過酸化物の蓄積により引き起こされるフェロトーシスは、プログラム細胞死の1つとしてアポトーシスとは異なる細胞死経路をたどることが明らかとなり、新たながん治療のターゲットとして注目されています。Nakamura*2らは新たなフェロトーシス促進剤を同定し、その活性制御にLLPSが関与していることを報告しています。FSP1は、代表的なフェロトーシス抑制タンパク質であるGPX4とは独立して脂質過酸化を防ぐタンパク質です。icFSP1と呼ばれる化合物は、FSP1の強力な阻害剤として同定され、FSP1を膜から細胞内再局在化させ、液滴様構造を形成させることでフェロトーシスを促進することが明らかとなりました。
*2 Toshitaka Nakamura et al., Phase separation of FSP1 promotes ferroptosis., Nature, 2023, 619, 371-377.
一般的に、LLPS研究を始める際にはまず細胞を用いない系で標的タンパク質が液滴を形成するのか確認することが多いです。
しかしながら、簡単そうに見えるこのステップもタンパク質によって最適条件は異なり、様々な検討事項や注意点があり、かつ取り揃える試薬も多いため初めての検討時にはかなりの労力がかかります。
実験操作例
液滴形成におけるpHの影響
タンパク質の液滴形成の際には細胞内夾雑環境を模倣すると液滴を形成し易い傾向があります。
タンパク質毎の最適条件を決定するためにまずは下記条件の検討が必要です。
液滴形成に重要な主な因子
・溶液のpH
・溶液の塩濃度・種類
・クラウディング剤*の有無
・ピペッティング回数等手技的な注意点
*クラウディング剤(分子夾雑物再現剤): 細胞内の混みあった環境を再現するために添加される、PEGやFicollなどの高分子。(系によっては必須ではない)
小社ではLLPS研究をこれからは始める方に最適な2種類のキットを準備しています。
▶ 液滴作成法・観察方法の確認 |
・マイクロピペットと顕微鏡だけで液滴の観察が可能 |
▶ 標的タンパク質液滴の最適条件の確認 |
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タンパク質がLLPSにより液滴を形成する際には様々な相互作用が関与しており、代表的なものにタンパク質の電荷を利用した静電的相互作用や疎水性の高いタンパク質による疎水性相互作用などがあります。パーキンソン病の原因タンパク質の一つであるαシヌクレイン(αSyn)は、LLPSによる液滴形成を起こすことが知られております。αSynのリン酸化模倣変異体であるS129Eでは液滴形成が促進し、この液滴形成の促進が相互作用の変化に起因することが報告されております。*3 αSynのリン酸化模倣変異は病変形成に関与する凝集を促進することが知られており*4、液滴形成におけるタンパク質相互作用の変化を明らかとすることが新たな治療戦略として期待されています。
ここではLLPS Starter Kit とLLPS Forming Condition Screening Kitを用いて、Bovine serum albumin (BSA) とLactoferrin (LT) の液滴形成におけるタンパク質相互作用の違いを確認しました。BSAは疎水性相互作用、Lactoferrinは静電的相互作用を介して液滴形成が主に行われています*3。塩濃度 (NaCl) を上げることで静電的相互作用を阻害すると、LTの液滴形成は阻害されたことから報告通りLTは静電的相互作用で主に液滴が形成・維持されていることが確認できました。一方で、BSAはNaCl濃度依存的に液滴形成が促進され、これは塩濃度の増加によりタンパク質同士が近接し疎水性相互作用が強くなったことが理由として推察されます。
*3 Manisha Poudyal et al., Intermolecular interactions underlie protein/peptide phase separation irrespective of sequence and structure at crowded milieu., Nature, 2023, 14, 6199.
*4 Soumik Ray et al., α-Synuclein aggregation nucleates through liquid–liquid phase separation., Nature, 2020, 12, 705-716.