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これからはじめる細胞内代謝

 

細胞内の代謝システムである、解糖系やTCA回路、電子伝達系の解析は、細胞状態を理解する上で重要であり、グルコースや乳酸、NAD(P)/NAD(P)H、グルタミン、グルタミン酸などのエネルギーおよび代謝産物を指標に評価されています。

 

 

代謝と疾患の関連性を示した報告例

ガンや糖尿病などの疾病モデルやミトコンドリア機能を評価する際、細胞内の代謝状態がよく確認されています。 下記表では、乳酸とNAD+/NADHを指標に評価されている事例を紹介します。

代謝への影響因子 乳酸量 NAD+/NADH比 サンプル
解糖系阻害による変化(上記データ) HeLa 細胞(解糖系阻害剤処理)
ミトコンドリア機能低下 n/a 哺乳動物細胞(mtDNA 突然変異モデル)1)
n/a ヒトグリア芽腫細胞(NaN3処理)2)
n/a 個体老化マウスの脳3)
(↓ NAD+ 量) がん細胞4,5)
高インスリン血症 n/a 早期ヒト糖尿病患者の血漿6)

NAMPT*(NAD+ 合成酵素)量

低下による変化

n/a (↓ NAD+ 量)

高脂肪食誘発二型糖尿病マウス7)

(肝臓、白色脂肪組織)

個体老化マウス7)

(肝臓、白色脂肪組織、骨格筋)

 

老化関連疾患と乳酸、NAD+の関係

近年、NAD+と老化との関係性が注目を集めています。マウスの個体老化モデルでは肝臓等でNAD+量の減少が認められ7)、NAD+合成酵素の阻害は老化様の細胞機能低下を惹起することが報告されています8)。また、NAD+量の減少はミトコンドリア機能低下を招き11)、一方でミトコンドリア機能の低下はNAD+量の減少、ひいては老化様の細胞機能低下を招くことが示唆されています1) 。
ミトコンドリア機能低下により増加した乳酸は老化関連疾患であるがんや糖尿病の病態進展とも密接に関わっており5), 6)、老化との関係を紐解くのに、NAD+および乳酸の変化を解析することが重要視され始めています。

 

 

代謝マップ:DNA損傷により老化した細胞

 

老化細胞ではミトコンドリア機能低下に伴い、嫌気的解糖系によるATP産生を主とするため、乳酸産生量が増加しています9)
老化によるミトコンドリア機能低下の要因の一つとして、DNA損傷が挙げられます。DNAへのダメージが蓄積するとDNA修復機構が活性化し、NAD+消費量が増加します。
NAD+量の減少はミトコンドリア機能維持に重要な因子であるSIRT1活性を下げ、ミトコンドリア機能低下(電子伝達系阻害→ATP産生・NAD+量の低下)を招きます10, 11)

 

糖尿病疾患:高血糖状態によるポリオール代謝の亢進

高血糖状態では、細胞内グルコース濃度が上昇しポリオール経路の代謝が亢進します。これによりNADPHが過剰に消費され、還元型グルタチオン(GSH)が減少します。
この結果、酸化ストレスが増加し細胞損傷が促進します 12)

 

 

がんとグルタミン代謝

がん細胞では、グルタミンを基質にα-ケトグルタル酸を供給する経路である「グルタミノリシス」の亢進が知られており、これに関連して種々の報告がされています。例えば、がん遺伝子であるKRASはグルコースとグルタミン代謝を制御しているとされ13)

また、膵臓腺がんの亢進には低酸素状態がグルコースおよびグルタミン代謝を活性化が関係し14)、更には、グルタミン代謝が乳がん細胞の侵襲性を促進させる15)など、グルタミン代謝とがんの関りを解明する研究が盛んに行われています。

 下記では、がん細胞におけるグルタミン代謝と「低酸素」「オートファジー」「細胞老化」に関する報告例を紹介します。

 

 

<低酸素とがん

低酸素下での解糖の強化は、膵管腺がんにおける腫瘍共生とヘキソサミン生合成をサポートする14)

低酸素状態になった膵臓がん細胞は、生存と細胞増殖を維持するため、酸化的リン酸化を促進する遺伝子の阻害を介した解糖系遺伝子の転写を活性化する。これは、低酸素誘導因子であるHIF1 によって促進され、これにより、グルコース消費および乳酸産生が増加する。また、ヘキソサミン生合成経路(HBP 経路) を活性化させ生存を維持しようとするため、グルタミノリシスが亢進する。グルコースおよびグルタミンを炭素源として使用するHBP 経路が活性化することで、タンパク質の O GlcNAc 修飾が増加すること、さらに、低酸素状態下にある膵臓がん細胞が産生する乳酸が、隣接するがん細胞の成長を促進することにより、がん細胞の生存率および増殖が維持されることが示唆されている。

 

<グルタミン代謝とオートファジー

BAG3はグルタミナーゼの安定化を介してオートファジーとグルタミノリシスを促進する16)

BAG3は、アポトーシスや細胞分化、マクロオートファジー等の様々な細胞機能の制御に関与するタンパク質である。BAG3 が過剰発現した細胞では、グルタミナーゼ (GLS)のスクシニル化が促進されることにより、ユビキチン化とそれに続くプロテアソーム分解が防がれ、GLS タンパク質が安定化する。GLSが安定化することで、グルタミン分解が促進されるため、グルタミン消費が亢進し 、 細胞内グルタミン酸およびグルタミン代謝中間産物であるα Ketoglutarate が増加する。グルタミン分解の促進により生じる培養液中のアンモニアは、オートファジーの活性化に寄与する。グルタミノリシスが亢進しているがん細胞では、このBAG3 ががん治療の標的になる可能性が示唆されている。

※BAG3 :ヒトの組織全般に普遍的任分布するタンパク質であり、種々のストレスにより誘導される。アポトーシス、細胞分化、マクロオートファジー等の様々な細胞機能の制御に関与する、さらに、がんや加齢に伴う神経変性疾患に関連する、近年注目されているタンパク質。

 

<グルタミン代謝と細胞老化

腫瘍抑制メニンは、mTORC1 依存性代謝活性化を標的とすることにより、エフェクター CD8T 細胞機能障害を防止する17)

メニンは、老化や疲労などのT 細胞機能障害の予防に重要な役割を果たす腫瘍抑制因子である。メニンが欠乏すると、mTORC1 が活性化され、解糖系やグルタミン分解を介した酸化的リン酸化が亢進、CD8T 細胞の機能障害を引き起こす。また、グルタミン代謝中間産物である α Ketoglutarate は、mTORC1の活性化を維持、細胞老化の促進に寄与する (SA β gal 活性の亢進) 。グルタミン-α Ketoglutarate 経路が、 CD8T 細胞機能障害の誘導に重要な役割を果たし、メニンがT細胞の老化を阻害する可能性が示唆されている。

 

WSTを用いた細胞の代謝解析

学会発表 ポスター -WSTを用いた細胞の代謝解析-(PDFリンク)

参考論文

1)

A. Bratic and N. Larsson, “The role of mitochondria in aging”, J Clin Invest. 2013, 123(3), 951.

2)

M. E. Beckner, G. T. Gobbel, R. Abounader, F. Burovic, N. R Agostino, J. Laterra and I. F. Pollack, “Glycolytic glioma cells with active glycogen synthase are sensitive to PTEN and inhibitors of PI3K and gluconeogenesis”, Laboratory Investigation200585(12), 1457.

3)

J. M. Ross, J. Oberg, S. Brene, G. Coppotelli, M. Terzioglu, K. Pernold, M. Goiny, R. Sitnikov, J. Kehr, A. Trifunovic, N. Larsson, B. J. Hoffer, and L. Olson, “High brain lactate is a hallmark of aging and caused by a shift in the lactate dehydrogenase A/B ratio”, PNAS2010107(46), 20087.

4)

A. Garrido and N. Djouder, “NAD+ Deficits in Age-Related Diseases and Cancer”, Trends Cancer20173(8), 593.

5)

I. San-Millancorresponding and G. A. Brooks, “Reexamining cancer metabolism: lactate production for carcinogenesis could be the purpose and explanation of the Warburg Effect”, Carcinogenesis201738(2), 119.

6)

Y. Wu, Y. Dong, M. Atefi, Y. Liu, Y. Elshimali, and J. V. Vadgama, “Lactate, a Neglected Factor for Diabetes and Cancer Interaction”, Mediators Inflamm.2016. DOI: 10.1155/2016/6456018

7)

J. Yoshino, K. F. Mills, M. J. Yoon and S. Imai, “Nicotinamide mononucleotide, a key NAD+ intermediate, treats the pathophysiology of diet- and age-induced diabetes in mice”, Cell Metab.201114(4), 528.

8)

L. R. Stein and S. Imai, “Specific ablation of Nampt in adult neural stem cells recapitulates their functional defects during aging”, EMBO J.201433(12), 1321.

9)

Z. Feng, R. W. Hanson, N. A. Berger and A. Trubitsyn, “Reprogramming of energy metabolism as a driver of aging”, Oncotarget., 20167(13), 15410.

10)

S. Imai and L. Guarente, “NAD+ and sirtuins in aging and disease”, Trends in Cell Biology201424(8), 464.

11)

J. Wu, Z. Jin, H. Zheng and L. Yan, “Sources and implications of NADH/NAD+ redox imbalance in diabetes and its complications”, Diabetes Metab. Syndr. Obes.2016, 9, 145.

12)

M. Brownlee, “The pathobiology of diabetic complications: a unifying mechanism”, DIABETES200554, 1615.

13)

D. Gaglio, et al  “Oncogenic K-Ras decouples glucose and glutamine metabolism to support cancer cell growth”, Mol. Syst. Biol., 2011, 7, 523.

14)

F. Guillaumond, et al, “Strengthened glycolysis under hypoxia supports tumor symbiosis and hexosamine biosynthesis in pancreatic adenocarcinoma”, PNAS2013, 110, 3919.

15)

E. Dornier, et al, “Glutaminolysis drives membrane trafficking to promote invasiveness of breast cancer cells”,  Nat Commun2017, 8, 2255.

 

16)

S. Zhao, et al, “BAG3 promotes autophagy and glutaminolysis via stabilizing glutaminase”, Cell Death & Disease2019, 284(10).

 

17)

J. Suzuki, et al, “The tumor suppressor menin prevents effector CD8 T-cell dysfunction by targeting mTORC1-dependent metabolic activation.”, Commun  Nat Commun2018, 9(1), 3296.

 

 

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